日本脳炎予防接種

日本脳炎予防、厚労省がポスター作戦 全国配布へ((asahi.com 2007年7月19日(木))

日本脳炎の定期予防接種が事実上中断されている問題で、厚生労働省は19日、免疫を持たない子どもがウイルスを媒介する蚊に刺されないよう呼びかけるポスターの電子データをメールで都道府県や日本医師会に配布し、医療機関などに掲示するよう通知する。新型ワクチンの開発が遅れているなかでの苦肉の策だが、蚊のシーズンが本格化する前に注意喚起が必要と判断した。
日本脳炎はウイルスを持つブタの血を吸った蚊に刺されて感染し、西日本で患者が多い。このためポスターは「西日本地域(中国、四国、九州等)でブタの多い場所や、蚊が発生する水田、沼地の周辺では特に気をつけましょう」とし、長袖、長ズボンの着用▽防虫薬の使用▽人から人への感染はない、などと呼びかけている。
ポスターは20日以降、厚労省のホームページでも見ることができる。
同省は05年5月、重い副作用が出たとして定期予防接種の積極的な勧奨を控えるよう勧告した。その後、旧型ワクチンの接種者は激減して免疫を持たない幼児が増えているが、副作用が少ないとされる新型ワクチンによる定期接種の再開は09年以降になる見通しとなっている。



日本脳炎 予防接種中止 きょう緊急勧告…厚労省 昨年の重体例で(YOMIURI ON-LINE 2005年5月30日(月))

厚生労働省は、幼児から高校生まで年間400万人余りが公費負担で受けている日本脳炎の予防接種について、都道府県に対し、市町村による推奨を中止するよう求める緊急勧告を30日に発令することを決めた。
山梨県甲斐市の女子中学生が接種後に重い神経症状に陥ったことを受けた措置で、国が予防接種を中止するのは極めて異例だ。ただし、中止による混乱を避けるため、希望者には引き続き、公費負担による接種を認める。


希望者には公費負担継続
問題となった中学生は昨年7月、日本脳炎のワクチン接種を受け、11日後にめまいや頭痛を発症。脊髄(せきずい)を中心とする中枢神経に炎症が起きる「急性散在性脳脊髄炎(ADEM)」と診断され、人工呼吸器をつけるほどの重体に陥った。甲斐市調査委員会が今年3月、「ワクチンが原因の可能性が高い」との報告書をまとめ、予防接種後の健康被害に対して医療費給付を決める厚労省疾病・障害認定審査会も今月25日、市調査委の判断を追認、給付を決めた。
ADEMは、日本脳炎ワクチンの接種後に、100万人に1人の割合で起きることが知られ、国内では1991年度以降、13例に医療費給付が認められた。だが、ワクチンとの因果関係が不明なことや、大半が一時的な発熱で回復しており、厚労省は「接種による日本脳炎の予防効果の方がはるかに上回る」として、接種を推奨してきた。
今回の中学生も、ワクチンとの因果関係は医学的に確定されていないが、厚労省は、過去に比べて極めて重い症状であることを重視。さらに、日本脳炎を媒介する蚊の駆除が進むなど環境が変化したうえ、日本脳炎のウイルスは人から人には感染しないことから、予防接種を中止しても患者は増えないと判断した。
厚労省は今後、予防接種法が接種を推奨する対象疾病から日本脳炎を外すことも視野に、同法の改正作業に着手する。同法では、日本脳炎ほか、麻疹(ましん)、風疹など計7種の予防接種について、集団発生を防ぐ目的から積極的に推奨。このうち、日本脳炎の接種は、〈1〉生後6か月以上90か月未満〈2〉9歳以上13歳未満〈3〉14歳以上16歳未満が公費負担の対象で、年間約400万人が受けているほか、海外旅行者や養豚業者なども自己負担で接種している。


日本脳炎 ウイルスに感染した豚の血を吸った蚊を通じて人間に感染する。100〜1000人に1人が脳炎を発症。発症者のうち約15%が死亡し、半分は神経の後遺症を残す。1960年代は、国内で年間1000人以上が発症していたが、92年以降は10人未満に激減した。


改良ワクチン 開発は継続を
解説 厚生労働省日本脳炎のワクチン接種を事実上中止することを決めたのは、ワクチン接種が原因と強く疑われる重い中枢神経症状を今後起こさないためにも、やむを得ない措置だ。
日本脳炎のワクチンは、製造工程でマウスの脳を使用している。その成分が製品に残留し、中枢神経の症状を生む原因となっているとする専門家も少なくない。その点を解消した改良型ワクチンの開発は技術的にも可能で、実用化が期待されながら、メーカーは開発コストがかかることなどから、消極的だった。
1975年には、百日ぜきの菌の成分が原因で死者が出て、百日ぜき・破傷風ジフテリアの混合ワクチンの接種が一時停止された。この時には問題点を解決したワクチンが急ぎ導入された。日本脳炎も、ウイルスは撲滅された訳ではなく、ワクチンの予防効果も明らかなのだから、改良ワクチン開発はあきらめるべきではない。
一方、今回の中止で、現場の医師や学校関係者、生徒の父母が混乱することも十分予想される。日本脳炎の接種は乳児や児童・生徒の予防接種スケジュールの中に定着しているからだ。今回、なぜ方針転換をしたのか、厚労省は現場への説明を丁寧にしてほしい。(科学部 安田幸一)