「安倍後」

自民総裁選:「反麻生」、福田氏に結集 23日投票(毎日新聞 2007年9月14日(金))

自民党の後継総裁問題は13日、福田康夫官房長官町村派)が立候補の意向を固めたことで、「ポスト安倍」の本命と目された麻生太郎幹事長(麻生派)に批判的な勢力が、福田氏を軸に糾合される流れが一気に強まった。福田氏は昨年の総裁選へ出馬を見送ったが、北朝鮮外交などを巡り安倍晋三首相とは距離を置いていたことから、党内では「福田氏なら次期衆院選に向けた局面打開が可能」との期待も広がっている。短期決着で、自らへの一本化を図ろうとした麻生氏の戦略は大きく狂った格好だ。【中川佳昭、川上克己、高山祐】


◇「非安倍」に期待感…ハト派も「チルドレン」も
昨年の総裁選で安倍首相との対決をうたわれながら、出馬を見送った福田氏は安倍政権の間、「音なしの構え」を貫いてきた。しかし、13日の毎日新聞の取材に対し、「出馬を検討している。出馬の意向と書いてもらって構わない」と断言した。
福田氏の総裁選出馬を巡っては、同日午前、町村派会長の町村信孝外相らが、訪仏日程を切り上げ帰国した森喜朗元首相と協議。福田氏は同日夕、東京都内のホテルで森氏と会談し、出馬の意向を示した。その後、町村氏と会談した福田氏は「昨年の総裁選は他派閥から『出ろ。出ろ』と言われたが、本当に支援してくれるのか疑わしかった。今回は違う。他派閥の人々が真剣に支援してくれる」と総裁選出馬の意思を明言し、町村氏の出馬見送りと福田氏の出馬が最終的に決まった。
そこに至る同派の動きは単純ではなかった。町村氏自身、総裁選への出馬意欲をかねてにじませていた。一方で、同派出身の中川秀直前幹事長は一時、小泉純一郎前首相の再登板を求めていた。2人の実力者が相反する行動を取れば、同派が分裂の危機にひんするのは必至だった。
その点、福田氏は同派の源流である故福田赳夫元首相の長男という「毛並み」の良さもあるうえ、同氏を敵視していた安倍首相の退場により、派内から同氏擁立への異論が出にくくなり、一本化しやすい事情もあった。町村氏は福田氏との会談後、周辺に「(自分も出馬し)派閥を分裂させるわけにはいかない。今回は緊急避難措置だ」と複雑な心中を吐露した。
しかも、参院選開票日の7月29日に森、中川両氏と青木幹雄参院議員会長(当時)が東京都内のホテルで会談し、安倍首相の退陣と福田暫定政権の可能性を協議した経緯から、「福田待望論」は党内各派の底流にあった。
町村派とともに福田氏出馬の推進力になっているのが、安倍政権時代に冷遇され、麻生幹事長に批判的なハト派勢力だ。
自らの出馬を検討していた山崎拓前副総裁や谷垣禎一財務相も「福田出馬」なら、立候補を取りやめる構え。古賀派加藤紘一元幹事長ら、麻生外相(当時)が仕切った安倍政権の外交路線に批判的な勢力がこぞって福田氏支持に回った。
福田氏と一時関係が悪化した町村派出身の小泉純一郎前首相も福田氏支持に回る。麻生氏が改造内閣で「脱小泉」路線を明確にしたことに「小泉チルドレン」らは強く反発。小泉氏の腹心でもある中川氏も「町村派は一本化され、小泉さんも私も福田さんを推す」と述べ、福田氏支援を鮮明にした。チルドレンの一人は、「今回の総裁選は『反麻生』がキーワードだ。福田さんしかいない」と強調した。


◇“本命”シナリオ揺らぎ
麻生氏は13日、自らの出馬には沈黙を守り、予定されていた記者会見も見送った。福田氏の出馬を記者団から問われると「それがどうした」と答え、記者会見については「党務が先だ。(私は)しゃべりたくないのに、よく質問しますね」と不快感をあらわにした。
麻生氏は参院選開票日の7月29日、安倍首相の続投を強く進言し、親小泉の中川前幹事長に代わって、8月27日に幹事長に就いた。わずか16人の小派閥の領袖ながら、ポスト安倍の大本命との呼び声は高かった。
しかし、郵政民営化で造反した平沼赳夫経済産業相の復党を打ち上げ、「脱小泉構造改革路線」を鮮明にしたことから、小泉、中川氏や武部勤元幹事長ら小泉政権時代の実力者や中堅・若手議員の強い怒りをかった。
麻生氏は「テロ対策特別措置法の延長問題があるので、早期収拾が必要だ」と主張し、「14日告示−19日投票」という日程で、他の有力候補の準備が整う前に、一気に「麻生後継」の地固めを図ろうとした。
しかし、この案には武部氏が猛反発し、投票日を25日以降に先送りするよう強く求めた。党内最大派閥の町村派(80人)、第2派閥の津島派(67人)なども麻生氏独走を警戒結局、13日午後の総務会で、「14日告示−15日締め切り−23日投票」という妥協案に落ち着いたが、麻生氏のシナリオは大きく揺らいだ。
「麻生幹事長−与謝野馨官房長官ライン」で主導してきた党内運営も、首相の退陣表明で神通力が低下した。麻生氏の総裁選戦略は、大派閥の合従連衡。特に親麻生の鳩山邦夫法相が所属する津島派を連携相手に想定していたため、同派の額賀福志郎財務相が出馬を表明したのも痛い。
一方、昨年の総裁選で出馬意欲を見せながら、出馬を見送った額賀氏も福田氏出馬の事態に厳しい立場に立たされている。参院津島派の実力者である青木幹雄参院議員会長は「額賀君は正式に出馬表明をしたわけではない」と、額賀氏の出馬表明を「非公式」なものとみなすことで、出馬に消極的な姿勢を示している。



自民総裁選:「福田総裁」強まる 議員支持、過半数に(毎日新聞 2007年9月14日(金))

安倍晋三首相の退陣表明に伴う自民党の後継総裁選びで福田康夫官房長官(71)=町村派=は13日、出馬の意向を固め、複数の党関係者に伝えた。アジア外交などをめぐり安倍政権に批判的だった福田氏は派閥横断で支援を訴える方針で、最大派閥の町村派(80人)は同氏支持で一本化し、古賀派山崎派谷垣派などからも相当数が支援に回るとみられることから、党所属国会議員の過半数の支持を得て一気に優位に立つ情勢となった。一方、麻生太郎幹事長(66)=麻生派=は13日に予定していた出馬表明を14日に先送りした。調整が難航していた選挙日程は14日告示、15日に立候補者の届け出受け付け、23日に両院議員総会の投開票で新総裁が選出されることが決まった。
福田氏は13日夕、国会内で記者団に「出馬に向け目下検討中ということだ」と述べ、強い意欲を示した。毎日新聞の取材にも「(党内の)皆さんから『やってくれ』という声が強い。皆さんの声に応えなければならない」と語った。福田氏が所属する町村派では森喜朗元首相が町村信孝外相、中川秀直前幹事長、福田氏と個別に会談するなど調整、福田氏で一本化した。14日にも出馬表明する。福田氏は当選6回。父は故福田赳夫元首相で、第2次森内閣小泉内閣官房長官を務めた。
また、中堅・若手議員から出馬待望論が出ていた小泉純一郎前首相は、森氏に「100%出ない」と電話で伝え、出馬を否定した。小泉氏の影響を受ける議員らには福田氏を支持する声が広がっている。出馬がとりざたされた谷垣禎一財務相山崎拓前副総裁も福田氏支持に同調するとみられ、急速に支持が広がっている。
一方、額賀福志郎財務相(63)=津島派=は13日昼、所属する津島派の総会で出馬表明した。ただ額賀氏の出馬には、同派の実力者である青木幹雄参院議員会長が難色を示しているほか、派内には福田氏支持に回る議員もおり、出馬は流動的になっている。麻生氏が出馬を14日に延ばしたのは福田氏の動向を見極めるためとみられる。
さらに、日程問題で自民党は13日夕、総務会を開き、総裁選について、14日告示、15日に立候補届け出受け付け、23日投開票との日程を決めた。執行部は「14日告示、19日投票」案を提示したが、短期決着を目指す麻生氏に有利な案とみて反発した出席者から先送りを求める声が続出。執行部は立候補受け付けに1日間を置き、武部勤元幹事長や中堅・若手らが主張していた25日投票案の間を取り23日投票を決めた。両院議員総会による投票は党所属の国会議員387人に1票ずつ、各都道府県連に3票ずつ(計141票)が割り当てられ、計528票で争う。議員票と党員票を同時に開票し、過半数を得た候補がいなければ、上位2人による決選投票を行う。



福田氏立候補へ 麻生氏も正式表明へ 額賀氏14日判断(朝日新聞 2007年9月14日(金))

安倍首相の辞任表明を受けた自民党総裁選で、福田康夫官房長官(71)が13日、立候補する意向を表明した。麻生太郎幹事長(66)も14日に正式表明する方針。福田氏は所属する町村派だけでなく、「安倍・麻生」ラインに批判的だった古賀、山崎、谷垣各派にも支持を広げている。額賀福志郎財務相(63)を含め3人が立候補の意向を表明しているが、安倍政権に距離を置く福田氏と、支えた麻生氏の争いが総裁選の軸になる。一方、同党は13日の臨時総務会で、総裁選の日程を「14日告示、15日立候補届け出受け付け、23日投開票」と決めた。
福田氏は13日夜、国会内の事務所で記者団に、他派閥の幹部らから立候補要請を受けたことを明らかにし、「今は前向きに検討中だ」と語った。14日に記者会見し、正式に立候補を表明する。
福田氏支持に積極的に動いたのは古賀、山崎両派など安倍政権に距離を置いてきた勢力だった。こうした情勢を踏まえ、福田氏は13日午後、町村派会長の町村外相森元首相と相次いで会談。この結果、同派がまとまって福田氏を支えることも固まった。
昨年9月の総裁選でも福田氏を擁立する動きがあったが、派内で安倍氏と競合する状況になり、最終的に高齢を理由に立候補を見送った経緯がある。今回は派閥横断的な支持が広がり、前向きな姿勢に転じた。
「反麻生」勢力が結集する形で、派閥レベルの構図では福田氏が優位な情勢となっている。古賀派古賀誠会長は13日夜、記者団に「幹事長には安倍政権に対する政治責任がある」と指摘。立候補を見送る構えの谷垣禎一財務相も「福田さんの発言には親近感がある」と語った。谷垣氏は14日午前、福田氏と会談し、支持を表明する見通しだ。伊吹派伊吹文明会長も福田氏を支持する意向。町村氏は13日夜、記者団に「流れはできた」と自信を見せた。
一方、13日に立候補を表明する準備を進めてきた麻生氏は、想定した総裁選日程がずれたことなどから、正式表明は14日に先延ばしした。「麻生包囲網」が強まる中、派閥の枠組みを超えた国会議員や都道府県連の支持をどこまで広げられるかが、今後の焦点となる。
また、13日の派閥総会で立候補を表明した津島派会長代行の額賀福志郎財務相は同日夜、同派の実力者で参院に強い影響力を持つ青木幹雄・前参院議員会長と会談。青木氏は、津島派参院議員は福田氏支持に回るとの考えを示した。額賀氏は14日朝、同派の津島雄二会長と会談し、最終的に立候補するかどうかを判断する考えだ。
復党問題への対応などから、「反麻生」の姿勢を強める05年衆院選の初当選組ら若手グループは、13日も小泉前首相の再登板に向けて集会を開いたが、小泉氏は固辞。一部は福田氏支持に回る考えを明らかにした。
総裁選の日程については、党執行部が当初、「14日告示、19日投開票」の案を固めた。しかし、13日午後の党両院議員総会などで、「選挙期間が短すぎる」「党員の声をくみ上げる時間が必要だ」などと異論が相次ぎ、25日投開票とする方向で再検討。結局、4日間延ばして「14日告示、23日投開票」とすることで決着した。立候補届け出は15日午前11時〜11時半に受け付ける。
また、16日に東京、17日に大阪、高松、22日に仙台の計4カ所で、候補者による立会演説会を開く。



福田元官房長官への支持、じわり拡大 自民総裁選(朝日新聞 2007年9月14日(金))

「慎重居士」とも言われる福田康夫官房長官が、ついに動いた。「ポスト安倍」を選ぶ自民党総裁選は、福田氏が立候補を表明すると、所属する町村派に加え、党内の多くの派閥が雪崩を打ったかのように、福田支持を鮮明にした。先行していた麻生太郎幹事長は、「反麻生」グループによる包囲網に、一転、厳しい状況に追い込まれた。


■「麻生包囲網」強める各派
「もう、こうなったら福田さんしかいない。『反安倍』を明確にして路線転換すべきだ。首相と同じ路線の麻生さんでは選挙に勝てない」
自民党青木幹雄参院議員会長に近い中堅参院議員は13日朝、こう語った。谷垣禎一財務相も同日夜、記者団に「今回は、政策転換できるかどうかを一番のポイントにしている」。
福田氏は小泉内閣官房長官だったが、04年に年金の未納が発覚し、突然辞任。それ以来、外交政策や政治手法を巡り、小泉、安倍両氏との確執がとりざたされ、いつしか「非小泉・安倍路線」の象徴とみられるようになっていた。
対照的に小泉・安倍政権下で要職を務めた知名度を生かし、「先行逃げ切り」を目指すのが麻生氏。小泉・安倍政権と一蓮托生(いちれんたくしょう)だった麻生氏か、それとも距離を置いてきた福田氏か――。焦点はそこに絞られた。
「福田氏は出るのか、出ないのか」。自民党各派は、13日朝から情報収集に追われた。注目が高まったのを待っていたかのように、福田氏は動いた。
午後3時半、自民党本部。所属する町村派会長の町村信孝外相と会談を終えた福田氏は記者団に「状況をみて、これから判断する」。発言は「出馬に前向き」と受け止められ、永田町に一気に広まった。
そのころ、麻生氏は逆風に見舞われていた。
党本部で開かれた両院議員総会。麻生氏ら執行部が提案した「14日告示、19日投開票」という総裁選日程に、若手議員らから、「総裁選を盛り上げるには、19日投開票では準備に時間が足りない」と異論が相次いだ。
麻生氏が12日の記者会見で、安倍首相の辞意を正式表明の2日前に聞いたと明かしたことにも批判が渦巻く。事前に知りながら、なぜ代表質問直前という最悪のタイミングでの辞任表明を避けられなかったのか――。町村派の閣僚経験者は「麻生氏は首相をさらしものにした。みんな怒っている。これで麻生さんは失墜した」と語った。
一方、古賀派幹部は13日夕、「福田氏でまとまれば、うちも一部を除いて一本化できる」と派内集約に自信を見せた。額賀福志郎財務相が出馬表明した第2派閥の津島派でも、青木氏ら参院側が福田氏を支持する方向。小泉前首相まで、近い議員から「福田さんでも構わないか」と問われると、「いいじゃないか。おれの時の官房長官だ」と支持する意向を伝えたという。
16人の小派閥を率いる麻生氏は、町村派など大派閥の領袖(りょうしゅう)の理解を得て、安倍首相から「禅譲」を狙う政権とりの戦略を描いてきた。強まる「麻生包囲網」に危機感を募らせる。
麻生派の会合では「麻生氏の方が福田氏より国民的人気は高い。積極的に都道府県連に党員投票(予備選)をやってもらうよう呼びかけよう」と地方票獲得に活路を求める意見も飛び出した。


町村派の結束で道筋できる
「各派から話が来ている。できれば期待に応えたい」。13日午後、福田氏は森元首相にこう言って、立候補の意向を伝えた。森氏は「それなら、その方向でまとめる」と応じた。
福田氏が出馬の理由にあげる「周囲の期待」。伏線は、安倍首相が大差で選ばれた1年前の総裁選にあった。
「私をやる、と言ってくれる人はいるが、具体的に何人連れてくるのか、誰も言わない」。福田氏は当時、出馬見送りの理由を、親しい知人にこう漏らした。
福田氏は事前の世論調査で、安倍首相に続く2位につけていた。表向きは自分の意思を一切明らかにしなかった福田氏だが、水面下では立候補の可能性を慎重に見極めていた。
派閥領袖クラスのベテランには、福田氏を推す声が強かった。ただ、こうしたベテランたちの派閥では、中堅・若手の多くが「安倍支持」に流れていた。
それは足元の町村派も例外ではなかった。福田氏は「派閥を割るぐらいなら立候補しない」とも思い定めていた。
今回はまず、足元の町村派がまとまったうえで、各派横断の「みこし」を作らなければいけない――。それが森氏の思いだった。
13日昼の町村派総会。出席者の意見は半々に割れた。
「人心一新を目指すには、安倍政権にかかわっていない福田さんがいい」。一方、「派閥のリーダーが出るべきだ」と、会長の町村外相を推す声も出た。最後に引き取った森氏は言った。
「安倍さんが出る時、私は少し考えるべきじゃないかと、『安倍温存』を考えていた。町村さんについても同じような気持ちがある」
森氏としては、この局面で党内をまとめるには、各派のベテランから信望があり、手堅い政治手腕の福田氏が適任と見ていた。ただ、派内には町村氏を推す声もあるうえ、町村氏自身も立候補に意欲を示していた。森氏は「温存」という言葉で、町村氏のメンツを立てつつ、福田氏擁立の道筋をつけたのだ。
さらに党内の1年生議員らから出馬を求められていた小泉前首相がこの日、森氏に「おれは百%出ない」と伝えたことも、福田氏の背中を押した。
最後は派閥の意向を受けた町村氏自身が、福田氏と自民党本部で会談。同日夜には森氏を交えた3人で食事をした。
「立候補の決意をしたので了承してもらいたい。また協力をお願いしたい」。福田氏がこう言うと、町村氏も応じた。「気持ちよく協力します」