タミフル雑感

厚労省から「10代に限り原則使用禁止」のアナウンスがあった件については昨日書いた。これについてはいくつも疑問があるのだが、それを少し整理しておこうと思う。

  • タミフルはインフルエンザにどんな効果があるか

タミフルは、インフルエンザ発症から40時間以内に飲み始めることにより「A型およびB型インフルエンザの治癒を1〜2日(平均1日)程度早めることが期待できる」というふれ込みの薬だ。予防薬としても認可されている(保険適用外)ようだが、中外製薬のサイトによれば、現在は「警告」として「ワクチン療法に置き換わるものではない」「予防効能での使用は推奨されていない」と記述されている。
インフルエンザウイルスの増殖を抑制する効果があり正しく服用すれば治癒を早めるのだから、インフルエンザウイルスによる種々の影響を短期間に済ますことは期待できそうだ。しかし結果的に軽くなることはあるかもしれないが、現在ある症状をすぐに軽減する効果はないわけで、発熱などの症状に対しては解熱剤などを含むいわゆる「感冒薬」が一緒に処方されることになるだろう。

  • タミフル万能」感は作られたものではなかったか

一般にインフルエンザは「ひどい風邪」との認識であるならば「栄養を摂ってよく休む」が基本であって、普段健康ならば薬を飲まなくたって治るものではある。しかしここ近年、鳥インフルエンザや新型ウイルスの話題が多かったために「インフルエンザは命を落とすこともある怖い病気」という印象が過大に流布されて、「タミフル万能」というような風潮があったとも思う。先行の「アマンタジン」(A型にしか効かない)とか「リレンザ」(吸入での服用)とかが出たときにはこんなに飛びつくことはなかったと思うが、経口服用ができるということもあってか一気に広まった感がある。
2002〜2003年には厚労省日本医師会による「インフルエンザはかぜじゃない」というリーフレットにより「インフルエンザは命に関わる怖い病気」と予防接種促進のキャンペーンを実施している。タイミングもあったのかもしれないが、情報の出し方などに危機感拡大を後押しするような傾向がなかったかどうか、疑問も残るところだ。アメリカと日本のタミフル服用率が突出して多いというのも、何かを示唆しているように思わせる。

  • タミフルはインフルエンザによる死亡率を減少させたのか

メディアで見せられるのは、今は「タミフルによる異常行動とその死亡例」の情報ばかりだ。そもそもインフルエンザで年間どの位の死亡例があり、それがタミフルを服用した場合にはどの位減少したか、というような比較データが出てこない。異常行動についても「タミフルを飲んでいなくても異常行動はあった」という言葉はあっても、過去にどんな例があったか、発生率はどの位か、というようなデータはなかなか目にすることができない。
そもそも比較データはあるのか。あるとするならばなぜ出さないのか。出しているとするならばなぜ国民が広く参照できないのか。いくら「タミフルと異常行動との因果関係を示す根拠は今のところはない」と言われたって、これでは判断のしようがない。

  • なぜ「10代に限る」なのか

今回の「10代に限る」という条件について、厚労省の説明では「10代の人の異常行動を抑えるのは体力的にも大変」とか「体力があるからタミフルを飲まなくても大丈夫」というようなずいぶん曖昧な物言いだった。こういうデータがあるから10代に限るとした、なんて歯切れはまったくない。死亡例は異常行動を原因とするだけでなくいわゆる「突然死」もあってこれは10歳未満でも発生しているし、今回の厚労省の発表では20代から70代まで異常行動による死亡例もあったことがわかった。
これらの情報からすれば、「10代に限る」とした厚労省見解に説得力があるようには到底思えない。

  • 異常行動だけが問題なのか

巷間では「異常行動」のセンセーショナルな面ばかりが強調されているようだけれど、全年齢に渡って見渡すと前記したように「突然死」が多数ある。
異常行動は、例えば厚労省が「注意喚起」したように患者から目を離さず万一の際には力ずくで押さえ付けておくことで防げるかもしれない。しかし、突然死については、目を離さずにいたって、ただ死にゆく様を目の当たりにしているだけで為すすべはない。救急を頼んでも間に合わないかもしれない。こちらももっと取り上げられるべきではないだろうか。

  • 公開される情報が選別されているのではないか

メディアで取り上げられる情報というのも前記のようにある意図によって選別されるものかもしれないが、そもそも厚労省が発表する情報にある意図によって選別が加えられているのではないか、と感じられて仕方がない。
もしそうだったとするならば、いったい何のためにそんなことをするのだろうか。
厚労省のHPを眺めても包括的なミッションははっきりわからないが、「厚生労働省プロフィール」の「医政局」には「国民の求める医療提供の実現」、「医薬局」には「国民の生命・健康を預かる」「医薬品等の安全性を追求する」「医療の安全を求める」などという言葉が並んでいる。これらからすれば、ある疾病に関する薬剤の副作用が疑われるような状況が発生した場合には、迅速に情報を収集して整理し公開、国民の健康を第一に置いて適切な対処を実施する…というような幻想を抱く。
国民自らが血税を絞り出して精鋭を集めさせ、自分らの健康と幸せのために働かせているはずだ。日本全体を見渡しての仕事なのだから個々の事例の取扱いには困難が伴うこともあるかもしれないが、まず第一に国民のため、というのが基本だろう。憲法にはまだそう書いてある。
一部で囁かれているような、製薬会社、天下りアメリカ、なんていう疑惑が払拭できないような事態にならないよう、せいぜい精進してほしいものだ。
首相を始めとして厚労大臣たるかの柳沢氏と率いる厚労省にぜひ、そこのところを詳らかにしてもらいたい。