各紙の社説

社説「秘密保護法案衆院通過 民主主義の土台壊すな」(2013/11/27 毎日新聞)

あぜんとする強行劇だった。
衆院国家安全保障特別委員会で特定秘密保護法案が採決された場に安倍晋三首相の姿はなかった。首相がいる場で強行する姿を国民に見せてはまずいと、退席後のタイミングを与党が選んだという。
与党すら胸を張れない衆院通過だったのではないか。採決前日、福島市で行った地方公聴会は、廃案や慎重審議を求める声ばかりだった。だが、福島第1原発事故の被災地の切実な声は届かなかった。
審議入りからわずか20日目。秘密の範囲があいまいなままで、国会や司法のチェックも及ばない。情報公開のルールは後回しだ。
国民が国政について自由に情報を得ることは、民主主義社会の基本だ。法案が成立すれば萎縮によって情報が流れなくなる恐れが強い。審議が尽くされたどころか、むしろ法案の欠陥が明らかになりつつある。
この法案について首相はさきの参院選で国民に十分説明せず、今国会の所信表明演説でも触れなかった。ところが今、成立ありきの強硬路線をひた走っている。衆参のねじれ状態が解消して4カ月での与党のおごりである。
一部野党が安易な合意に走ったことも消せぬ汚点だ。日本維新の会みんなの党両党との修正合意は法案の根幹を何ら変えていない。維新の会と「検討する」と合意した秘密指定の妥当性を判断する第三者機関の設置も確約されたとは言えない。
秘密指定の最長期間が60年となるなど、改悪となりかねない部分すらある。これではまるで与党の補完勢力ではないか。
衆院は通過したが、法案の必要性を改めて吟味する必要がある。
国の安全が脅かされるような情報を国が一定期間、秘密にするのは理解できる。
情報漏えいを禁じる法律は、国家公務員法自衛隊法、日米相互防衛援助協定(MDA)秘密保護法があり、懲役の最高刑はそれぞれ1年、5年、10年だ。一方、政府は、過去15年で公務員による主要な情報漏えい事件が5件あったとの認識を示した。この三つの法律の枠内で、起訴猶予になったり、最高刑を大幅に下回る刑の言い渡しを受けたりしている。
現行法の枠内で、情報が漏えいしないような情報管理のシステムを各行政機関内で構築して規律を守ることが先決だ。
法案では、防衛・外交情報のほか、テロ活動防止などの名目の公安情報も特定秘密の対象となる。監視活動が中心の公安捜査は、国民の人権を制約する。
情報を知ろうとする国民が処罰されるような強い副作用を覚悟の上で、新たな法律を今作る必要が本当にあるのか。
「知る権利」に対する十分な保障がなく、秘密をチェックする仕組みが確立されていないなど問題点や疑問はふくらむばかりだ。



「特定秘密保護法案―民意おそれぬ力の採決」(2013/11/27 朝日新聞)

数の力におごった権力の暴走としかいいようがない。
民主主義や基本的人権に対する安倍政権の姿勢に、重大な疑問符がつく事態である。
特定秘密保護法案が、きのうの衆院本会議で可決された。
報道機関に限らず、法律家、憲法や歴史の研究者、多くの市民団体がその危うさを指摘している。法案の内容が広く知られるにつれ反対の世論が強まるなかでのことだ。
ましてや、おとといの福島市での公聴会で意見を述べた7人全員から、反対の訴えを聞いたばかりではないか。
そんな民意をあっさりと踏みにじり、慎重審議を求める野党の声もかえりみない驚くべき採決強行である。
繰り返し指摘してきたように、この法案の問題の本質は、何が秘密に指定されているのかがわからないという「秘密についての秘密」にある。これによって秘密の範囲が知らぬ間に広がっていく。
■温存される情報の闇
大量の秘密の指定は、実質的に官僚の裁量に委ねられる。それが妥当であるのか、いつまで秘密にしておくべきなのかを、中立の立場から絶え間なく監視し、是正を求める権限をもった機関はつくられそうにない。
いま秘密にするのなら、なおのこと将来の公開を約束するのが主権者である国民への当然の義務だ。それなのに、60年たっても秘密のままにしておいたり、秘密のまま廃棄できたりする抜け穴ばかりが目立つ。
こうして「情報の闇」が官僚機構の奥深くに温存される。
「これはおかしい」と思う公務員の告発や、闇に迫ろうとする記者や市民の前には、厳罰の壁が立ちはだかる。
本来、政府が情報をコントロールする権力と国民の知る権利には、適正なバランスが保たれている必要がある。
ただでさえ情報公開制度が未成熟なまま、この法案だけを成立させることは、政府の力を一方的に強めることになる。
■まずは国家ありき
「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」という文書がある。
この6月、南アフリカのツワネでまとめられた。国連や米州機構、欧州安全保障協力機構を含む約70カ国の安全保障や人権の専門家500人以上が、2年にわたって討議した成果だ。
テロ対策などを理由に秘密保護法制をととのえる国が増えるなか、情報制限の指針を示す狙いがある。
国家は安全保障に関する情報の公開を制限できると認めたうえで、秘密指定には期限を明記する▽監視機関はすべての情報にアクセスする権利を持つ▽公務員でない者の罪は問わないなど、50項目にのぼる。
法案は、この「ツワネ原則」にことごとく反している。
安倍首相は国会で、欧米並みの秘密保護法の必要性を強調したが、この原則については「私的機関が発表したもので、国際原則としてオーソライズされていない」と片づけた。
これだけではない。国会での政府・与党側の発言を聞くと、「国家ありき」の思想がいたるところに顔を出す。
町村信孝元外相はこう言った。「知る権利は担保したが、個人の生存や国家の存立が担保できないというのは、全く逆転した議論ではないか」
この発言は、国民に対する恫喝(どうかつ)に等しい。国の安全が重要なのは間違いないが、知る権利の基盤があってこそ民主主義が成り立つことへの理解が、全く欠けている。
■世界の潮流に逆行
一連の審議は、法案が定める仕組みが、実務的にも無理があることを浮き彫りにした。
いま、政府の内規で指定されている外交・安全保障上の「特別管理秘密」は42万件ある。特定秘密はこれより限られるというが、数十万単位になるのは間違いない。
これだけの数を首相や閣僚がチェックするというのか。
与党と日本維新の会みんなの党の修正案には、秘密指定の基準を検証、監察する機関を置く検討が付則に盛り込まれた。
首相はきのうの国会答弁で第三者機関に触れはしたが、実現する保証は全くない。
有識者会議の形で指定の基準を検証するだけでは、恣意(しい)的な指定への歯止めにはならない。役所が都合の悪い情報を隠そうとする「便乗指定」の懸念は残ったままだ。
独立した機関をつくるならば、膨大な秘密をチェックするのに十分な人員と、指定解除を要求できる権限は不可欠だ。
この法案で政府がやろうとしていることは、秘密の保全と公開についての国際的潮流や、憲法に保障された権利の尊重など、本来あるべき姿とは正反対の方を向いている。
論戦の舞台は、参院に移る。決して成立させてはならない法案である。



社説「特定秘密保護法案 国民軽視の強行突破だ」(2013/11/27 東京新聞)

広く疑念の声があがる特定秘密保護法案が衆院の本会議で可決した。巨大与党が力ずくで、渦巻く反対論をねじ伏せたのだ。強行突破は看過できない。
福島で二十五日に開かれた地方公聴会は、いったい何のためだったのだろう。首長や学者ら七人が意見を述べたが、賛成者は一人もいなかった。「慎重に、国民のために議論を尽くすことが大切だ」「外国の信頼よりも、国民の信頼を得るべきだ」−。もっともな意見が続出した。
とくに原発事故で放射能の拡散予測が隠された体験があるだけに、「一番大切なのは情報公開だ」と語った人もいた。
◆数の力でのおごりだ
その翌日に衆院の本会議で、一部野党との修正協議を経た法案が、駆け足で可決された。つまり、福島の公聴会はたんなる“儀式”にすぎず、与党は耳をふさぎ、尊重もしなかったのだ。あまりに乱暴である。
さまざまな危うさが指摘される秘密保護法案であるため、報道各社の世論調査でも「慎重審議」を求める意見が、60%台から80%台を占めていた。国民の声すら軽視したに等しい。
与党は圧倒的な数の力におごっている。修正案に加わった日本維新の会さえ、この採決には退席した。この強行可決をあえて暴挙と呼ぼう。
修正案自体も評価に値しない内容だ。秘密の有効期間は最長三十年だったが、「六十年を超えることができない」という規定が加わったため、「六十年原則」の方が幅を利かせる恐れがある。
その場合も七項目の例外が設けられていて、中には「政令で定める重要な情報」という、あいまいな言葉が挿入されている。これでは半永久的に国民から重要情報が遮断されてしまう。
◆議員こそ反対の先頭に
特定秘密の指定や解除などについて、首相が「その適正を確保するため(中略)指揮監督する」という条文も、効力を発揮しないだろう。首相は行政機関の「長」の上に存在する「長」であるから、公正な審判役たりえない。
約四十万件とも見積もられる特定秘密の膨大な文書に対し、首相がいちいち目を通すはずもない。全くの空文である。
有識者会議もたんに基準を示すだけの存在だ。本当に実質的な秘密に値するかどうかのチェックは、司法権さえからも受けない仕組みなのだ。
付則では「独立した公正な立場において検証し、監察する新たな機関の設置」が書かれた。だが、あくまで検討事項にすぎないし、具体的な中身も不明である。法案が抱える欠陥を補えるとは到底、期待できない。
国会への特定秘密の提供も付則に記されたものの、その方策はやはり検討事項にとどまる。この法案が国権の最高機関さえ素通りし、官僚機構が情報支配を進める原点に変わりはないのだ。
問題のありかは特別委員会の審議を経ても山積している。衆院本会議で可決・通過したので、次は参院に移る。もっと議論して、廃案に持ち込んでほしい。
とくに憲法の観点から疑念が持たれている点を重視すべきである。国民主権基本的人権、平和主義の三大原則から逸脱していることだ。
いわゆる「沖縄密約」や「核密約」などの問題は本来、活発に議論されるべき国政上の大テーマである。これに類似した情報が特定秘密に指定されると、国民は主権者として判断が下せない。
国会議員といえども、秘密の壁に阻まれてしまう。仮に情報を得たとしても、政策秘書や所属政党に口外すると、処罰対象になる。議員は院内での免責特権があるものの、国会追及はとても期待はできないだろう。
国政上のテーマについての言論を封じ込める法案とは、ほとんど情報統制の世界に近い。国会議員自身の問題でもある。どれだけの議員が、この深刻さを理解しているか。本来は議員こそ反対の先頭に立つべきなのだ。
軍事面に過度に傾いている法案であるうえ、安倍晋三内閣は来年にも集団的自衛権の行使ができる「国家安全保障基本法案」の提出をめざしている。平和主義とも相いれないはずだ。
◆三角形は美しく保て
特定秘密の取扱者は、飲酒の節度や借金などまで調べ上げられる。調査は親族にも及ぶ。人権上の懸念が持たれるのも当然だ。反原発運動など、さまざまな市民活動の領域まで、公権力が監視する心配も濃厚だ。
行政権だけが強くなる性質を持つ法案である。民主主義の三角形を美しく保つためにも、あらためて反対表明をする。



社説「秘密保護法案 指定対象絞り「原則公開」確実に」(2013/11/27 読売新聞)

参院で文書管理の論議を深めよ
日本にも他の先進国と同様の機密保全法制が必要だとの意思が、明確に示されたと言えよう。
安全保障に関する機密情報を漏えいした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案が、衆院本会議に緊急上程され、自民、公明の与党とみんなの党など議席の7割もの賛成多数で可決、参院に送付された。
法案修正で合意していた日本維新の会は採決に反発し、退席した。維新の会が賛成票を投じなかったのは残念だが、与野党の枠を超えた多くの支持によって、衆院を通過したことは評価できる。
◆日本版NSCと両輪だ
ただ、与党とみんな、維新がまとめた修正案に対する審議は十分ではない。「知る権利」が制限されることなどへの国民の懸念が払拭されたとも言い難い。
政府・与党は参院審議で、幅広い支持を目指し、制度の運用のあり方も丁寧に説明すべきだ。
北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備拡大など日本の安全保障環境は厳しさを増している。
衆院国家安全保障特別委員会で、安倍首相が「国民の安全を守るため情報収集が極めて重要だ」と述べたのはもっともだ。
安倍政権は、外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)を創設する方針だ。同盟国や友好国と重要情報の交換・共有を進めるには、機密が漏えいしない法制を整えることが必要である。
日本版NSCと機密保全法制は、政府の戦略的な意思決定に欠かせない車の両輪と言える。
法案を巡る最大の論点は、政府が恣意(しい)的に秘密指定を拡大し、都合の悪い情報を秘匿し続けるという懸念が拭えないことだった。
首相は、それを誤解だとし、指定範囲が法案の別表に限定され、かつ指定基準も有識者の意見に基づくなど恣意性を排除する「重層的な仕組み」だと主張した。
特定秘密は原則30年で解除される。内閣の承認を得て指定が継続されたとしても、暗号や情報源など7項目の例外を除いて「60年は超えられない」と修正された。
首相は、30年を超えて指定を継続する情報は「7項目に限ることを基本とする」とも表明した。
審議を通じて、政府の考え方が明確になり、指定期間もより限定的になったのは確かだろう。
◆恣意的判断の排除を
それでも官僚機構は、「事なかれ主義」の発想で秘密指定の対象を拡大し、解除にも慎重になることが予想される。
現在、政府が保有する特別管理秘密文書は42万件に上っている。その9割は日本の情報収集衛星に関する情報だというが、特定秘密に移行する際は、さらに対象範囲を絞る努力をすべきである。
特定秘密が大量になれば、政権交代内閣改造によって「行政機関の長」が代わっても、秘密指定をいちいちチェックし、解除することは、物理的に難しい。官僚が特定秘密を抱え込まない仕組みを工夫することも肝要だ。
秘密指定の妥当性を検証する「第三者機関」設置について、首相は、米国の国立公文書館にある情報保全監督局などを参考に、「設置すべきだと考えている」と踏み込んだ答弁をした。
部外者が特定秘密をチェックするのは無理がある。情報漏れのリスクも生じる。第三者機関を設けるならば、米国にならって、行政の内部組織の方が適切だ。
修正案で、秘密が解除された情報は一定期間後に「原則公開」とされ、後世の検証が可能になるように改善されたと見ていい。
文書の公開や保存、廃棄のあり方は大きな課題となる。民主党が主張するように情報公開のルールを整備し、機密を巡る訴訟で裁判所が対象文書を見ることを可能にするのも一案ではないか。
国会の特定秘密への関与については、与野党が秘密会の運営など議員立法で規定すべきだ。
◆「知る権利」どう担保
法案には、取材・報道の自由への配慮が明記された。報道関係者の取材行為は違法または著しく不当でない限り、罪に問われないとした点は前向きに評価できる。
一部の野党がこの法案を「国民の目と耳、口をふさぐ」「国家の情報を統制し、日米同盟への批判を封じ込める」と声高に非難しているが、これは的外れである。
だが、公務員が萎縮して取材に応じず、報道機関が必要な情報を伝えられなくなる恐れは残る。
安全保障のための機密保全と、「知る権利」のバランスをどうとっていくか。この問題も参院で掘り下げるべきテーマだろう。



主張「秘密保護法案 成立に向け大きな前進だ」(2013/11/27 産経新聞)

特定秘密保護法案が与党とみんなの党の賛成多数により、衆院本会議で可決された。
日本維新の会は審議が不十分だとして、衆院特別委員会の採決を棄権し、本会議でも採決時に退席した。
党派を超えてより多くの勢力が賛同する形にならなかったのは残念だ。だが、与党と維新、みんなの4党はすでに、法案修正で合意しており、その内容を実現に向けて進めるべきだった。「与党の強引な採決」との批判はあたらない。
国として安全保障の機密を守る法整備は欠かせない。その認識は維新も含め今後とも共有できるはずだ。知る権利や報道の自由が損なわれないかとの懸念を払拭するため、政府には参院審議でも丁寧な説明を求めたい。
与党は、みんなや維新、民主との修正協議を重ね、維新との間でも秘密指定の状況をチェックする第三者機関の設置を検討することなどで合意に達した。これに基づいて、維新は与党やみんなと共同で修正案を提出した。にもかかわらず、採決に応じないというのは分かりにくい。
党内で修正への異論が強かったため、政府・与党になお抵抗する姿勢を見せる必要があるのか。衆院通過が遅れると、12月6日までの会期を延長する必要性も出てくる。そこにつけ込み、日程闘争をしているようにもみえる。
維新の橋下徹共同代表は「何でも反対の野党なら、国民に愛想をつかされる」と繰り返してきた。ならば、採決拒否ではなく参院審議で主張すべきだろう。
「全面的に民主党案を受け入れなければ修正に応じない」姿勢に終始した民主党は、本気で合意を目指したのかさえ疑わしい。
26日の衆院国家安全保障特別委での答弁で、安倍晋三首相は第三者機関について、米国で機密文書の公開を審査する省庁間上訴委員会などを参考にする考えも示しながら「私は設置すべきだと考えている」と語った。
これまでより踏み込んでおり、審議を通じて修正の方向がより明確になった一例といえる。60年の秘密指定期間について、必要がなくなれば、それを待たずに解除することもはっきりさせておく必要がある。
参院審議でも、政府や与野党は制度の適切な運用などについてよりよい姿を模索してほしい。



社説「秘密保護法案の採決強行は許されない」(2013/11/27 日本経済新聞)

なんとも残念な光景というほかない。政府・与党が衆院特別委員会で特定秘密保護法案の採決を強行した。法案はその後の衆院本会議で自民、公明両党とみんなの党などの賛成多数で可決された。
この法案には、国民の「知る権利」を損なう危うさがある。日本維新の会みんなの党との間で修正がなされたものの根本的な問題は解決されていない。徹底した見直しに向けて議論を続けるべきだ。私たちはそう主張してきた。
それが、短期間でまとめた修正案を十分な審議時間を確保することなく採決する拙速ぶりである。
政府・与党は「慎重に審議してきた」という。だがともに修正案を作った維新の会は「審議が尽くされていない」として、採決を欠席した。このことが実態をよく表している。
審議の場は参院に移る。「良識の府」の理念に恥じない議論と法案の抜本的な見直しを求めたい。
法案では防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野で、特に秘匿する必要があるものを、各省の大臣が特定秘密に指定する。秘密を漏らした公務員には最長で懲役10年の刑が科せられる。
指定の範囲が広く曖昧なため、何が秘密かよく分からないまま情報を受け取った側も罪を問われかねない。条文上はスパイと市民の別なく罰則が設けられている。自由にものを言えない、重苦しい社会になってしまう恐れがある。
本紙の世論調査でも、秘密保護法案については「反対」が50%で、「賛成」の26%を上回った。「懸念はない」と答えたのはわずか6%にすぎない。このような状態で、法案をそのまま通してしまって本当にいいのか。
知る権利の侵害を抑えるためには、最低限、指定する秘密の範囲を厳しく絞り込み、明確に規定する必要がある。そのうえで指定の適否を直接チェックできる第三者機関を設け、秘密を解除した後には公開するルールを作ることが不可欠だ。
採決に先立ち25日に開かれた福島県での公聴会では、意見を述べた参加者7人全員が、法案に反対するか、慎重な対応を求めた。自民党が推薦した浪江町長を含め、誰一人正面から賛成しなかった。
異例の事態といっていい。国民の抱く疑念や不信感はまったく解消されていない。政府・与党もここは立ち止まって、もう一度考え直してみるべきだ。