「胚」は命ではない?

ヒトクローン胚研究を容認、条件付きで 科技会議調査会(asahi.com

クローン技術を応用し再生医療などに用いるヒトクローン胚(はい)作りの是非を検討していた国の総合科学技術会議生命倫理専門調査会(会長=薬師寺泰蔵・慶応大法学部客員教授、21人)は23日、クローン胚作りを基礎的な研究に限り容認する方針を、異例の多数決で決めた。ただし、クローン人間づくり防止のための胚の管理の徹底に加えて、卵子を提供する女性を保護したり、科学的検証をしたりする制度的枠組みが整うまでの間は、実施を凍結すること(モラトリアム)を条件とした。7月にも最終報告をまとめる。

クローン胚作りは、現在はクローン人間作り禁止を主目的にしたクローン技術規制法(01年6月6日施行)に基づく指針で禁止されている。同法は政府に対し、同会議の検討結果を踏まえ施行後3年以内に必要な措置を講ずるよう求めており、調査会は01年8月から3年近く、クローン胚作りの解禁是非を最大の課題として検討してきた。

クローン胚は、体細胞提供者と同じ遺伝情報を持つことから、拒絶反応の少ない細胞や組織、臓器などを作る再生医療への応用が期待されており、この3年間にも米国などで研究が進んできた。一方、科学的な有用性・安全性や、生命倫理面での疑問も根強く、昨年末に同調査会がまとめた中間報告では両論を併記するのがやっとだった。

この日の調査会では薬師寺会長が「再生医療を待つ患者に社会的に光を当てるべきで、扉をまず開きたい」と述べた。その上で、臨床応用段階でない基礎的な研究に限り容認し、ヒトクローン胚を使った研究の意義を科学的に検証する制度的枠組みなどを整備するまでは凍結する会長案を初めて提示。通例の全会一致方式ではなく、異例の多数決を強行、会長を除く出席者15人のうち賛成が10人と多数を占めた。反対は5人で棄権はなかった。

会長案が示した凍結解除の条件は、クローン人間がつくられることの防止、卵子提供女性の保護、科学的検証などの枠組み整備で、検証の結果、必要な場合は中止勧告も行い得るとしている。再生医療に役立つかや安全かなどの疑問や倫理面での議論不足を指摘する声が出ていたことに、ある程度配慮した内容で、この日の調査会では「容認の条件によってはいつまでも禁止状態が続きかねない」などの声も出た。

調査会は今後2回の会合で凍結解除の条件を詰め、7月に小泉首相が議長を務める本会議に答申する見通し。実際の制度論議などは、その後、国の関係省庁を中心にした実務的な検討に委ねられる。

〈ヒトクローン胚〉 卵子の核を取り除き、生殖細胞ではない体細胞から取り出した核を移植してつくる。これを特殊なやり方で培養すれば、どんな組織や臓器にも育つ胚性幹細胞(ES細胞)を作ることが可能。一方、クローン胚を子宮に戻して育てれば、クローン人間が誕生する可能性がある。通常の受精卵を使ったES細胞の作製は、すでに基礎研究に限って認められている。

ヒトクローン胚作り:生命倫理調査会容認 溝埋まらず「多数決」−−10対5(MSN-Mainichi INTERACTIVE)

◇倫理・法学者反対多く

ヒトクローン胚(はい)は、自然な生殖ではあり得ない「人工的な生命の芽」だ。政府の総合科学技術会議の専門調査会がヒトクローン胚作成を容認した最大の理由は「難病患者救済への期待」だった。賛成の10人の大半が医師や研究者、反対の5人は倫理学者や法学者が多く、先端医療がはらむ倫理的な問題を浮き彫りにした。先進諸国の大半は、生命操作やクローン人間につながりかねないとして研究を禁じている。溝が埋まらないまま3年にわたった議論は、異例の「多数決」で唐突に幕を下ろした。

「採決をとらせていただいて、よろしいでしょうか。賛成の委員の方、挙手をお願いします」

クローン人間の誕生にもつながるヒトクローン胚作成の是非について、総合科学技術会議生命倫理専門調査会の薬師寺泰蔵会長は、23日の会議で強行採決に踏み切った。15人中10人の委員の手が次々と挙がった。クローン胚作成の「原則容認」が決まった瞬間だった。

今月は01年に施行されたクローン技術規制法の見直し期限で、同調査会は「7月に最終報告書をまとめる」という期限を設定し、ぎりぎりの調整を続けてきた。しかし、推進派と慎重派の歩み寄りはなく、薬師寺会長は前回の会議で「採決による決定もやむを得ない」との見解を示していた。

23日の議論も平行線をたどっていたが、開始から約40分後に薬師寺会長が「熟慮した結果」として「原則容認」の暫定方針案を各委員に配布した。突然の会長の行動に会場は静まり返った。

薬師寺会長は「難病患者の方たちは研究解禁を待っている。その要請に応えることが、我々の責任だ。研究開始にあたっては、さまざまな枠組み整備が必要で、研究中止も勧告できる」と一気に説明し、各委員一人一人の意見を聞き始めた。

クローン胚作成に反対する委員らは「生命の安易な道具化は許されない」「動物のクローン胚研究でも、十分な知見が得られるはずだ」と食い下がり、この日の採決に反対したが、薬師寺会長は「苦渋の決断だ」として採決を強行した。【永山悦子】

◇論理性欠く採決−−ノンフィクションライターの最相葉月さんの話

クローン羊の誕生以来、クローン人間を禁止するためクローン胚や受精胚の研究と連続性のある生殖補助医療の議論が棚上げされた。既に実施されているという生殖補助医療研究のための受精胚作成の実態について、調査会でも疑問が呈されていたのに、そのデータは示されず、納得していない委員もいる。そういう状態での強行採決は論理性を欠き、到底納得できない。結論が先にありきで、後から具体的条件を決めるというやり方もおかしい。

◇患者利益を優先−−若山照彦理化学研究所室長の話

容認には賛成だ。クローン人間の誕生につながる危険な面もある。しかし、病気で臓器移植が必要な人が、自分の体細胞の核を使ってヒトクローン胚から拒絶反応のない臓器を作ることができれば、患者のメリットは大きい。ヒトクローン胚の管理体制の確立など前提条件をつけたのにも納得できる。基礎研究の段階なので、1年や2年で技術が大きく前進するものではなく、焦る必要はない。それより体制整備をしっかりやるべきだ。

クローン胚研究解禁、科技会議調査会が採決(YOMIURI ON-LINE)

生命の始まりである人間の胚(はい)をクローン技術で作製・利用する研究について、国の総合科学技術会議生命倫理専門調査会(薬師寺泰蔵会長)は23日、厳しい条件付きで認める方針を、異例の採決で承認した。

この方針を基に、同会議が7月までに最終報告書をまとめ、関係各省で具体的な施策の検討に入る。倫理上の問題から世界的にも容認国と禁止国に2分されている研究が、日本では動き出す。

クローン胚研究は、2001年6月に施行されたクローン技術規制法の指針で「当面禁止」とされ、同法の付則で「3年後までに見直す」としていた。見直しの諮問を受けた同調査会は、29回にわたって議論。慎重派の意見を大幅に取り入れ、研究解禁の条件となる体制整備などを方針に盛り込んだが、最後は会長が慎重派を押し切る形で採決を強行、賛成10、反対5の賛成多数で承認された。

承認された方針は、クローン胚研究を「臨床応用の段階ではない基礎的な研究」に限って容認し、〈1〉クローン人間作りを防ぐ胚管理方法〈2〉卵子を提供する女性の保護――について体制整備が必要とした。また、新たな検討組織を作り、「必要な場合には研究中止を勧告できる」と明記した。

クローン胚は、核を取り除いた卵子に、体細胞の核を入れて作る。体細胞の持ち主と同じ遺伝子の臓器や組織を作製し、拒絶反応のない移植も実現できると期待されている。一方、子宮に戻せばクローン人間になる可能性があるうえ、卵子を提供する女性の体に負担がかかり、胚の安易な作製と破壊は「生命の道具化」になるとの懸念も根強い。

クローン胚研究は、英国や韓国など8か国が容認、フランス、ドイツなど14か国が法律で禁止している。米国は連邦予算の支出が止められ、民間資金で研究が行われている。

生命倫理専門調査会=総合科学技術会議(議長・小泉首相)の議員6人と専門委員15人の計21人で構成、生命科学の発展に伴う倫理的な問題を検討する。運営規則で「議事は出席委員の過半数をもって決する」と定めているが、実際に採決が行われたことはなかった。