アインシュタインの言葉

天声人語 06月25日付」(asahi.com

「私は人生でまちがいをひとつ犯しました……」。ノーベル賞の化学賞と平和賞を受けた米国の物理化学者ライナス・ポーリングにあてて、あのアインシュタインが、こう書いているという(『アインシュタインは語る』大月書店)。

第二次大戦が始まる39年に、彼が、ルーズベルト米大統領に原爆を開発するよう勧める手紙に署名したことを指す。ナチス・ドイツの方が先に開発したらとの切迫した思いに駆られていたにせよ、この述懐は重い。

科学技術が高度に発達するにつれて、「できる」ことと「すべき」こと、あるいは「すべきでない」ことを巡って、科学者や、社会の側の選択が問われる場面が増えた。

日本の総合科学技術会議生命倫理専門調査会が、ヒトクローン胚(はい)づくりを容認する方針を決めた。基礎的な研究に限定し、クローン人間づくりを防ぐための胚の管理の徹底といった枠組みが整うまでは実施を凍結する、とはしているが。

クローン胚は、拒絶反応の少ない細胞や臓器を作る再生医療への期待があり、米国などでは研究が進んでいる。一方で、今回の容認の先に、クローン人間の出現まで連想してしまう人も、少なくはないのだろう。

アインシュタインの言葉を、もう一つ記しておきたい。「人間自身とその運命への関心が、つねに、あらゆる技術的努力の主たる関心でなくてはなりません。……私たちの頭の創造物が人類にとって呪いではなく恵みになるようにするためです。図と方程式のまっただ中にいても、このことをけっして忘れないでください」