自民党憲法調査会:新憲法草案大綱の素案(MSN-Mainichi INTERACTIVE)

自民党憲法調査会:新憲法草案大綱の素案(MSN-Mainichi INTERACTIVE)

◇総則
象徴天皇制国民主権天皇を象徴とする自由で民主的な国家であり、主権は国民に存し国家権力は国民に由来する。国民が代表者を通じて主権を行使する「議会制民主主義」の原則を定め、国民は主権者として自立と共生の精神にのっとり権限を行使する▽基本的人権の尊重=法の支配に服し、法秩序の至高の価値である「個人の尊厳」を基本とし、すべての人々の生命、自由および幸福追求の権利を最大限に尊重する▽新たな平和主義=戦争放棄の思想を堅持し、国際社会と協働して積極的に国際平和の実現に寄与する。人類生存の基盤としての自然(地球環境)の保全の必要性を認識し、国際社会と協力しながら、人間と自然の共生に積極的に寄与する▽国旗・国歌=国旗は日章旗、国歌は君が代最高法規憲法尊重擁護義務=略


象徴天皇制
天皇の地位=天皇は日本国の元首で、日本国の歴史、伝統、文化、国民統合の象徴として我が国の平和と繁栄、国民の幸せを願う存在。地位は主権の存する国民の総意に基づく▽皇位の継承=皇位世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、男女を問わず皇統に属する者が継承する


◇基本的な権利・自由および責務
新しい人権の追加=(1)名誉権、プライバシー権、肖像権(2)知る権利(3)犯罪被害者の権利▽従来の権利規定の修正=(1)表現の自由と青少年保護(2)政教分離(3)財産権の保障と限界(4)企業その他の経済活動の自由▽国民の責務および徴兵制の禁止=日本国民は国家の独立と安全を守る責務を有し、国家緊急事態にあっては、法律に定めるところにより国、地方自治体その他の公共団体の実施する措置に協力しなければならない。同時に、徴兵制を容認するものではないことを明確にする▽教育の基本理念=教育は我が国の歴史・伝統・文化を尊重し、郷土と国を愛し、国際社会の平和と発展に寄与する態度をかん養することを旨として行われなければならない▽家庭の保護=略▽環境権および環境保全の責務=略▽生命倫理への配慮=略


◇平和主義および国際協調
国際平和への寄与=日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、全世界の国民が尊厳を維持した人間として創造的で価値ある人生を生きる権利を有する▽戦争の放棄と武力行使の謙抑=日本国民は、国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久に放棄する。自衛または国際貢献のために武力の行使を伴う活動を行う場合であっても、必要かつ最小限の範囲内で行われなければならない。武力の行使を伴う活動を行う場合、事前(緊急を要する場合には事後)の国会の承認を要し、手続き、活動の基準・制限は法律で定める▽大量破壊兵器の廃絶および非核三原則=日本国民は非人道的な無差別大量破壊兵器を製造せず、保有せず、使用しない。唯一の被爆国として、核兵器については特に製造せず、保有せず、持ち込ませない▽国際活動への積極的参加=確立された国際的機構の活動、その他の国際の平和と安全の維持、回復、人道的支援のための国際的な共同活動に積極的に参加する


◇統治の基本構想
国会の権能=首相の行政執行を監督し、司法裁判所および憲法裁判所を統制する▽両院制=国会は衆議院参議院で構成する▽国政調査権の充実強化=国会の行政監視活動のために議会オンブズマンを設置する▽衆院の優越=法案は両院の議決が一致しない場合や参院衆院で可決した法案を受け取った30日以内に議決しない場合、衆院で再可決したとき、法律となる。予算案は衆院に先に提出する。両院の議決が一致しない場合や参院衆院から送付後30日以内に議決しないときは衆院の議決を国会の議決とする。条約の承認手続きも予算案と同様。内閣は大使の任命にあたっては衆院の同意を得なければならない▽参院の優越=決算は先に参院に提出する。最高裁判所裁判官の国民審査は廃止し、適格性審査は参院で行う


◇首相及び行政
首相のリーダーシップの明確化=行政権は首相に属する。首相は内政、外交、その他の国務全般を総理し、直接または国務大臣を通じて、行政各部を指揮監督することを明確にする


◇国会と内閣
首相の任命=首相は衆院議員の中から衆院の議決で指名する▽国務大臣の任命=国務大臣はすべて衆院議員の中から選ばれなければならない。衆院議員でないものを国務大臣に任命することについて、衆院の承認を得た場合、または次の衆院選に立候補する宣言をしたものの場合はこの限りではない。ただし、立候補宣言して国務大臣になったものが落選した場合、辞職しなければならない▽参院議員との兼職禁止=国務大臣参院議員と兼ねることができない。参院議員が国務大臣に任命されたときは参院議員を辞職したとみなす▽閣僚の議院出席・発言の権利および義務=答弁または説明のために各議院から出席を求められたときは自ら出席をしなければならず、困難な場合は副大臣などを出席させなければならない


憲法裁判所
一切の法律、条例、命令、規則または処分がこの憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する一審にして終審の裁判所


◇財政
財政処理の基本原則=略▽複数年度の予算編成=首相は必要があると認めるときは1年を超えた期間を一会計年度として予算を編成できる▽公の財産の支出・利用の制限=宗教上の組織・団体に支出し、利用してはならない


地方自治
地方自治体の種類=道州、市町村、自治区(仮称)とする。道州は市町村を、市町村は自治区を包括


◇国家緊急事態及び自衛軍
国家緊急事態=首相は(1)外部から武力攻撃され、国家の独立、安全に重大な影響が生じる防衛緊急事態(2)テロで国または地方自治体の基本秩序に危機が生じる治安緊急事態(3)大規模な自然災害による災害緊急事態−−に国家緊急事態を布告▽国家緊急事態ではすべての国民の生命、身体・財産の保護が講じられなければならない。基本的な権利・自由は布告されている期間、制限することが出来る▽自衛軍=わが国は国家の独立、国民の生命を守るため、首相の最高指揮監督権の下に個別的または集団的自衛権を行使するための必要最小限度の戦力を保持する組織として自衛軍を創設。自衛軍の武力の行使は究極かつ最終の手段で、必要かつ最小限の範囲内で行わなければならない


◇改正
憲法改正案の原案の提出権は国会議員のみが有する。憲法改正の手続きは(1)各議院の総議員の過半数の賛成で国会が憲法改正案を可決して国民投票に付し、その有効投票総数の過半数による承認を経る(2)各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、憲法改正案を可決する−−のいずれかの方法による
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■解説
◇海外での武力行使容認 制限付け、公明・民主に配慮
自民党憲法調査会が17日に提示した新憲法草案大綱の素案は、現行憲法の3原則の一つである平和主義を堅持したうえで、集団的自衛権の行使と国際貢献のための海外での武力行使を制限付きで容認した。憲法改正をにらみ、武力行使に慎重な公明、民主両党との歩み寄りを探る現実案といえる。ただ、国家権力を制限するという従来の憲法観から脱し、「日本国民は国家の独立と安全を守る責務を有する」など国民に新たな責務を課し、党の独自色もにじませた。
自民党内には、現行の憲法解釈で禁じられている集団的自衛権の行使について、同盟国である米国との関係から容認すべきだという声が根強い。しかし、民主党武力行使を認めた場合、イラクへの先制攻撃にみられる米国の一国主義的な安保政策に巻き込まれ、歯止めがなくなるとして慎重だ。同党が今年6月にまとめた憲法改正に関する中間報告でも「制約された自衛権」の明記を唱えていた。
自民党の素案では、自衛軍の保持を明記し、集団的自衛権の行使と国際貢献のための海外での武力行使を容認した。一方で武力行使の条件として「必要かつ最小限の範囲内で行わなければならない」と盛り込み、「制限された自衛権」のみを容認すると規定し、民主党との共通点を見いだす道を残している。
また、公明党にも配慮、現行憲法の平和主義、9条1項の戦争放棄を堅持したうえで、大量破壊兵器廃絶や非核三原則憲法レベルで規定することを盛り込んだ。憲法改正には衆参それぞれの総議員の3分の2以上の賛成が必要で、憲法改正を実現するために不可欠な公明、民主両党を抱き込もうとの思惑がある。
ただ、国民の新たな責務として(1)国防の責務(2)社会的費用の負担の責務(3)環境保全の責務(4)国家緊急事態における国民の権利・自由の制限−−などを盛り込んだ。党内には「今の日本人は行き過ぎた個人主義がはびこっている」との考えが強く、憲法によって一定の制約を課そうという狙いも出ている。
皇位継承について、現行憲法は「皇位世襲のものであって皇室典範の定めるところによる」と規定しており、党憲法調査会の議論でも女性天皇皇室典範を改定して認めるべきだとの意見が大勢だった。しかし、男女の権利意識の高まりなどを受けて、最高法規である憲法に「男女を問わず」と明記した。
また、憲法改正の手続きについての要件緩和を盛り込んだ。自民党内には「現行憲法に規定された要件が厳しく、改憲の実現は困難」との懸念があり、「憲法9条改正のハードルは高く、まず改正要件を緩和した後の方が改正しやすい」との本音を反映したものだ。