逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第34条> 容疑者権利の精神明記

何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留または拘禁されない。また、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人およびその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

この条は、逮捕後、身柄を拘束される容疑者(被疑者)が弁護人(原則として弁護士)を頼み、面会して手助けを受けることができる権利を保障している。
抑留は一時的、拘禁は継続的な身体の自由の制限をいう。最長で二十三日間拘束される容疑者段階の供述は、裁判の行方を左右する重要な証拠となるだけに、この権利はとても大切だ。
しかし、この条文では、弁護人を頼む権利は記されていても、経済的余裕がない容疑者の救済については触れていない。起訴された後の被告人について、三七条が国選弁護人を付けることを保障しているのと比べると、権利の保障はあいまいだ。
この「憲法のはざま」を埋めるため、日本弁護士連合会は一九九〇年代から、初回は無料で容疑者と面会する当番弁護士制度を始めた。そして、昨年の通常国会刑事訴訟法が改正され、ようやく容疑者の公的弁護制度が法的に位置付けられた。
公的弁護は二〇〇六年十月から開始。新設される日本司法支援センターが業務を行う。最初は重大事件の容疑者に限られるが、裁判員制度が始まる〇九年度には盗みや傷害の容疑者にも拡大、対象は年間十万件になる見通しだ。
衆院憲法調査会では、容疑者の公的弁護や取り調べの弁護人立ち会い権、犯罪被害者の権利などを明記すべきだという改憲論が出た。しかし容疑者の公的弁護制度確立は、改憲に頼らなくても憲法の精神に沿った法整備で改善できることを証明した好例といえる。