逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第39条> 後出し法律での処罰禁止

何人も、実行の時に適法であつた行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

三九条の理解に役立つのが、今、世の中の注目を集めているインターネット関連会社ライブドアによるニッポン放送株の取得問題だ。ライブドアは、ニッポン放送株を時間外取引で大量に取得した。時間外取引は法律でも認められていて、ライブドアの行為は適法だった。
しかし、時間外取引はもともと、大量売買が行われて株価が乱高下するのを避けるために設けられた制度。企業の「乗っ取り」に利用されることは想定外だった。慌てた政府は、時間外取引を規制する法改正の検討に乗り出している。
仮に、法改正が実現して乗っ取りのための時間外取引が違法となったら、ライブドアはどうなるのか。この場合も、違法とはならない。
これが、三九条のうたう「遡及(そきゅう)処罰の禁止」だ。いったん無罪が確定した行為が、その後の法改正によって適法でなくなったとしても、罪に問われることもない。
もし、この原則が狂うと、国家側が特定の人物を狙い撃ちして、後から罪をかぶせることができる。そのような「後出しじゃんけん」を防ぐための制度が、この条だ。
もう一つ、三九条に盛り込まれたのが「二重処罰の禁止」。例えば、ある人が強盗で逮捕されて、懲役刑を受けたとする。この人が罪を償い、社会に戻った後、検察や警察は「お前はまた悪いことをしそうだから、もう一回強盗の容疑で逮捕する」ということはできない。
三九条は、改憲の主要な論点にはなっていない。名実ともに、司法上の公権力の不当介入から国民を守る役割を果たしているといえる。