またぞろ出てきた「ゲーム脳」

運転士、異常行動“ゲーム脳”の特徴(ZAKZAK

オーバーラン実は40メートル…ウソ報告


死者73人、重軽傷者441人を出した兵庫県尼崎市の電車脱線事故で、高見隆二郎運転士(23)が、手前の伊丹駅で起こしたオーバーランの距離を短くするよう車掌に依頼していたことが26日、JR西日本の調査で明らかになった。高見運転士はこのほか、運転士歴わずか11カ月で3度の処分を受けていたことも判明。「ゲーム脳」とも思える異常行動を繰り返す運転手を乗務させた運行管理に問題があったとして、県警捜査本部は同日、業務上過失致死傷容疑で強制捜査に着手した。


【「短くしよう」】
松下正俊車掌(42)はJR西日本の調査に、JR西が当初8メートルと発表した伊丹駅オーバーランについて、「実際は40メートルで、『短くしよう』と運転士と話し合った」と説明したという。
松下車掌は運転指令に「8メートル」と申告。捜査本部でも、高見運転士と松下車掌が口裏合わせをしたうえ、事実を矮小(わいしょう)化しようとしていた疑いが強いとみている。
調べだと、高見運転士は25日午前9時15分ごろ、伊丹駅で所定位置から40メートル(2両分)行き過ぎて停止させた。松下車掌は非常ブレーキに手をかけたが、作動はさせなかったという。
松下車掌の説明だと、2人は停止位置を修正して再出発した後、連絡電話で事後報告について打ち合わせをした。
高見運転士が「(オーバーした距離を)少し短くしてくれませんか」と頼んだため、松下車掌は3分後、「8メートル行き過ぎ、約1分半の遅れ」と運転指令に報告した。
これまでの調べで、松下車掌が運転指令にオーバーランについて連絡している最中に事故が起きた。
運転指令は2度にわたって高見運転士に連絡したが、応答はなかったという。
オーバーランについての社内規定では、8メートルでも40メートルでも処分内容は変わらないという。JR西日本では「虚偽報告はあってはならない。どういう意図があったのかを追及したい」としている。


【過去3度処分】
高見運転士は、過去3年間でオーバーランや居眠りで訓告など3回の処分を受けていた“問題児”だった。事故の核心を知る人物は運転台付近にいるのは確認されたが、生死は不明のままだ。
乗客の安全を預かる運転士としての資質を問う声に、JR西日本幹部は「そのつど必要な教育、指導を行ってきたつもりだが…」と釈明に追われている。
JRによると、高見運転士は高卒後の平成12年4月に採用。片町線長尾駅(大阪府枚方市)に駅員として配属され、13年8月に天王寺車掌区で車掌見習となり、同年9月に車掌になった。15年4月に運転適正検査に合格し、15年12月に京橋電車区で運転士見習となり、16年5月に運転士に昇格した。
今年2月には医学適正検査にも合格しており、JRは「SAS(睡眠時無呼吸症)など身体的、物理的な問題は一切なかった」と説明する。
しかし、車掌時代の14年5月には阪和線津久野駅(大阪府堺市)で運転士がオーバーランした際、車掌として非常停止措置を取らず、訓告処分に。15年8月には同じ阪和線で見習い車掌の添乗の際、目がうつろになっていたところを発見した乗客が、危険と判断して和泉府中駅(同府和泉市)に通報、厳重注意処分を受けた。
運転士となった16年6月、片町線下狛駅(京都府精華町)で快速を運転中に約100メートルものオーバーランを起こし、訓告処分を受けた。
JRは「処分回数が多いのは事実だが、そのつど、適切な教育、指導を行ってきたつもり。結果として効果がなかったといわれれば、返す言葉はない」としている。高見運転士の家族は26日午後、夕刊フジの電話取材に対し、「今、お話することは一切ありません」と話した。


ゲーム脳か】
ゲーム脳の恐怖」の著書で知られる森昭雄・日大教授(脳神経科学)は高見運転士の行動をこう分析する。
「高見運転士は過去3回も乗務員として重大なミスを犯しながら、自身で再発防止ができておらず、注意力が散漫な印象を受ける。伊丹駅でのオーバーラン後、指令の呼び出しに応答がなかったのも、故意であるとすれば、大事な場面で倫理的な行動がとれず、キレやすいというのはゲーム脳の特徴とよく似ているともいえる。JR西日本は運転士に関する情報を開示するなど、徹底検証が必要ではないか」


ゲーム脳 テレビゲームに熱中すると、人間の脳波にはβ波が出ない場合がある。この状態になると思考活動が衰え、無気力、感情の爆発など、いわゆる「キレる」状態になるという。また、携帯電話を頻繁に利用する人も「ゲーム脳」になると指摘されている。