逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第54条> 二院制、同日選論じる根拠

衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

衆院が解散された時に行われる総選挙や、その後召集される特別会(特別国会)について定めた条文。衆院解散中に、参院が果たす「代役」としての役割も規定している。
この条文に関連して、よく議論になるのは、参院の緊急集会の扱いだ。緊急集会は、解散中に緊急事態が起きた時のピンチヒッターなので、「どこまで重要な議題を扱えるのか」という疑問が付いて回る。これに対し、政府は「法律や予算は審議できるが、憲法改正までは予想していない」と国会答弁している。
衆参同日選挙の正当性も、この条文との関係で論じられる。衆院とともに参院議員の半数も入れ替える同日選では、緊急集会の開催が難しい。ここから、「同日選は憲法違反」という理屈を述べる人もいる。しかし、政府は「同日選でも参院議員は半数残っているので、緊急集会は可能」という立場だ。
また、緊急集会で参院が政治空白を埋める役割を果たすことを理由に、参院不要論を退けようという意見もある。
この条文は、改憲論議ではあまり話題にならないが、「同日選」「二院制」を論じる根拠になっている点で、見逃せない条文といえる。
ちなみに、「緊急」事態の対応について触れているのは、現憲法ではこの条だけ。有事法制の整備が進む中、非常事態に対応する規定を充実させるべきだという意見は少なくない。
ただ、今の憲法で、非常事態の対応について規定が少ないのは、理由がある。
緊急時は勅令によって処理すると規定し、「国家事変の場合の天皇大権」「戒厳の宣告」なども盛り込んだ旧憲法は、結果として過剰な人権制限を導いてしまった。
この反省から、今の憲法は緊急時の対応は立法府が責任を持って行うことだけを宣言したといえる。