逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第78条> 停職、減給ない裁判官

裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

裁判官が、本人の意思に反して職を辞めるには、三つのケースがある。
一つが、刑事事件で訴追されるなど、裁判官の威信を著しく失う非行があったときで、弾劾裁判にかけられて罷免になるケース。これについては六四条の回で紹介した。
二つ目は、最高裁裁判官に対する国民審査。これは、七九条で紹介する。
もう一つは、今回の七八条に規定されている分限裁判にかけられるケースだ。
「分限」とは、あまり耳にしない言葉だが、法律上の地位や資格のことを指す。回復の見込みがないほど、精神的、肉体的に病んでいるとみられる裁判官や、弾劾裁判にかけられるほど重大ではない「非行」をした裁判官の扱いを決める、内部的な処分の場だと考えると分かりやすい。
この裁判の手続きは、「裁判官分限法」で定められる。地裁、家裁、簡裁の裁判官は高裁で審判が行われ、高裁、最高裁の裁判官は最高裁大法廷で裁かれる。
最高裁によると、健康問題で免職になった裁判官は、過去二人いた。
「非行」によって処分されたのは六十人。といっても、「非行」裁判官に対する処分は、「戒告又は一万円以下の過料」だけ。一般の公務員のような停職、減給処分などはない。これは、裁判官は不祥事を起こさないという前提に立っているためだ。
つまり、「非行」裁判官は、弾劾裁判にかけられて罷免になるか、分限裁判で「戒告又は一万円以下の過料」処分を受けるかの「二つに一つ」。両者の落差が、あまりに大きいことを問題視する意見もある。
二〇〇一年に福岡高裁裁判官(当時)の妻による脅迫事件に絡み、同地検次席検事(同)が判事に捜査情報を漏えいした問題が発覚。法務省が検事を停職六カ月の懲戒処分にしたのに対して、裁判官は分限裁判で戒告処分を受けただけだった。単純比較はできないが、身分保障の違いが浮き彫りになった。
ちなみに、分限裁判にかけられている裁判官が、弾劾裁判所に訴追された場合は、分限裁判は止まり、弾劾裁判が優先される。