逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第80条> 裁判官給与削減は違憲

下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

特別職国家公務員の裁判官の給与は、一般の国家公務員とは別に「裁判官報酬法」で決められている。トップの最高裁長官は今、一カ月二百二十二万七千円。行政府トップの首相、立法府トップの衆参両院議長と同格だ。「三権の長」は待遇面でも対等だ。
給与の変更は、一般の国家公務員の給与を決める「人事院勧告」と事実上、連動して法改正される。
この制度が二〇〇二年、憲法問題を引き起こした。一般国家公務員の給与が人事院勧告の制度導入以来、初めて引き下げられ、裁判官の給与も同じ措置が取られた。
しかし、憲法は七九条六項で最高裁の裁判官、八〇条でそれ以外の裁判官の報酬について「在任中、これを減額することができない」と規定している。この結果、裁判官の給与引き下げは「違憲ではないか」と論争になったのだ。
専門家の解釈は、「立法・行政の公務員と一律に減額することは司法権の侵害には当たらない」とする合憲説と、「個々の裁判官にとっては報酬の減額にほかならない。適用は、改正報酬法の施行後に任命される裁判官に限るべきだ」とする違憲説に二分された。
確かに、条文を厳密に解釈すれば、違憲のように見える。だが、現実問題として、日本全体がリストラの波にさらされる中、裁判官だけが既得権益を維持し続けるのは、どう考えてもおかしい。結局、最高裁の裁判官会議が「合憲」と判断し、減額を容認。問題は決着した。減額は翌〇三年にも行われた。
この問題は、今の日本が、憲法制定時には想定していなかった「右肩下がり」の局面に入っていることを象徴しているようでもある。
この出来事を踏まえ、自民党内からは「国民が七九、八〇条を読んだら、おかしく思う。整理しておく必要がある」(中山太郎衆院憲法調査会長)と、新憲法草案作成の段階で文言を修正すべきだという意見も出ている。