逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第81条> 『消極主義』の違憲審査

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

最高裁はこの条文により、法律、規則、判決などについて、違憲かどうかの判断を下す最終権限を与えられている。これを違憲審査制と呼ぶ。
違憲審査に関する判決で有名なのは、自衛隊の前身である警察予備隊が、憲法九条違反かどうかが問われた一九五二年の警察予備隊訴訟だ。最高裁は「具体的事件を離れて、抽象的に法律の合憲性を判断する憲法上の根拠は存しない」と、訴えを却下した。訴訟対象になる具体的な案件がなければ、判断を下す権限は持たないということだ。
自衛隊は合憲か違憲か」は、憲法論議の根幹だ。この問題で司法が判断を示さないのは、違憲審査制の形骸(けいがい)化を印象付ける結果となった。
こうした判例もあって、現憲法制定以来六十年近くたった今、最高裁違憲判決を下したのは、わずか六件。うち二件は、衆院選の「一票の格差」をめぐる違憲判決だ。
立法府がつくった法律への判断はほとんど示されないが、最高裁違憲判決の三分の一が、立法府の選び方だったというのは、皮肉な話だ。ただ、この判決も、終わった選挙自体は無効とせず、やり直しは命じなかった。
裁判所が、違憲判断を積極的に行わないことを「司法消極主義」という。消極主義自体は(1)国民の代表である国会の意思を尊重する(2)違憲判決による混乱を回避する−などの目的があるため、一概に「司法の怠慢」とはいえない。ただ、最近では、「政治的に判断を回避している」との指摘もたびたびある。
このため、中曽根試案では、法令自体の合憲性を判断する機関として、憲法裁判所の新設を提唱。衆院憲法調査会の最終報告書でも、「憲法裁判所を設置すべきであるとの意見が多」とされた。
一方で、自民党内では同裁判所設置に消極論が多い。自分たちがつくった法律に、司法が意図的、政治的に口出しするようになるのを警戒しているようだ。そういう点では、立法府にとって今の「消極主義」がありがたい状況なのかもしれない。