逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第98条> 憲法と条約 優位なのは?

この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅および国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。
日本国が締結した条約および確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

憲法があらゆる法規の頂点にあり、これに違反する法律は無効だと宣言した条文。専制君主が超法規的に国を支配するのではなく、あくまで法が国を支配していることを明確にするためだ。
後段は、国際法規順守の規定。こちらは、戦前の日本が国際法をあまり尊重しなかったという批判を踏まえ、日本の姿勢を世界に発信するために盛り込まれた。
前段も後段も、もっともな話だが、二つ並んでいることで、大いなる疑問が生まれる。憲法と条約が衝突した場合は、どちらが強いのか。
どんな盾も貫くという矛と、どんな矛でも突き通せないという盾を一緒に売っていた男が、「その矛で、その盾を突いたらどうなる」と質問されて答えられなくなったという、韓非子の「矛盾」の話によく似ている。
この問題は、国会でも大論争になってきた。
政府は「条約は普通、憲法以下のものだが、降伏文書や平和条約など国の安危にかかわる問題では、憲法より条約が優先する」などと答弁。「ケース・バイ・ケース」としている。
一九五一年の参院審議では、「日米安保条約憲法の平和主義に反する」との反対論が出る中、条約と憲法のどちらに効力があるかが問題になった。政府は「条約は国内法としての効力は憲法より下位だが、国際的な関係では憲法より優先する」と、分かりにくい説明に終始した。「矛盾」は解消されなかった。
九八条をめぐっては最近、「二酸化炭素の削減目標を定めた京都議定書の達成は、九八条により国の義務だ」「国際刑事警察機構(ICPO)が国際手配したフジモリ元ペルー大統領を日本がかばうと、九八条違反になる」などの議論が出た。
こうした状況を踏まえ、最近の改憲論議では、国際法規順守規定を削除したり、最高法規の規定と別の条文にするなどの意見が出ている。