太田光「私と愛国(1) - 表現しきれぬ思い大切 いろんな心共存がいい」(朝日新聞2006年5月24日(水)夕刊)

愛国心を考えようって動き、出ないよりは出てきた方がいい。憲法改正靖国、米国との関係、ちょっと横に置いとこうって問題が戦後山積みになってる。愛国心も立ち止まってもがいてみることが必要だと思います。
でも、あの言葉、この言葉と各党が争ってるのは表づらの論争にしか見えない。法にどんな言葉を載せるにしても、表現しきれない思いを感じることが大事だと思う。
僕の自分の国に対する気持ちも、愛国心って言葉におさまらない。誇りに思うのもあるけど、嫌だなって思いもある。
日本を嫌だと思うのは、何かを疑うことがつぶされる雰囲気です。小泉さんが郵政民営化だけ考えてと言った選挙で自民が大勝するとか、ちょっと待って、おかしいじゃん、って発想が少ない気がするんですよ。
誇りに思うのは、しょせん人間は未熟、ダメでいいじゃん、って許してくれる温かさ。僕、落語が好きなんですけど、出てくる人がずっこけてる。それを面白いじゃんって笑ってくれるのは日本人の美点だと思う。
それから教科書問題で日本は自虐的と言われるけど、自己批判できるってことじゃないですか。
いろんな愛国心が日本の中で共存してていい、と押しつけられるのが嫌いな僕は思う。
ただ、法律に書かれると一色に洗脳されてしまうってのも違うんじゃないか。法で愛国心と書かれても、心までは書き換えられない。学校で教えてもその通りに育つかというと、やわじゃない。自分は自分だと思う自由は絶対侵害されないと思うんです。たかが法律、たかが教育。人間の心の強さを僕は信じたい。