永井愛「私と愛国(3) - 強制ばかばかしすぎる 地球市民の意識育たぬ」(朝日新聞2006年5月26日(金)夕刊)

卒業式や入学式で起立しなかった教師の大量処分者が出たことを新聞記事で見て、びっくりしました。冗談じゃないかと。処分された人の本を読んだり話を聞いたり、裁判所に傍聴にも行き、「歌わせたい男たち」という芝居を作りました。
学校現場で今起きていることは非常に怖い話だけど、あまりにもばかばかしくて笑えちゃう。
「頼むから歌ってくれ」と校長や教頭がトイレまで追いかけてくる。生徒が起立しないと先生が「連帯責任」をとらされる。口パクで歌わない人が増えると声量調査までする。大の大人がです。
この芝居をロンドンで上演しようとして、あらすじを送ったら、「ロンドン市民には理解されない」と現地の芸術監督から返事がありました。
彼が言うには、教育行政はとんでもないけど、どうして全国の先生たちはストライキをしないのか、保護者たちはなぜ立ち上がらないのか、一般市民はなぜ黙っているのか、理解できないと。
フランスの若者が声をあげて政府の雇用改革を撤回させましたが、日本ではそんな光景はみられません。きっと、あきらめているのでしょう。
教育基本法愛国心という言葉がないのは、教育勅語が国民に天皇への滅私奉公を強いて、軍国主義の国家造りに大きな役割を果たしたという反省があるからでしょう。
地球温暖化核兵器で人類の存続が危ぶまれる今、「愛国心」で一国への帰属意識を高めている場合でしょうか。それより、地球市民として他国の人々と対話し、問題解決を図る方が急務です。個を尊重せずに規制で縛ることでは、そうした力は身につきません。