浅野史郎「私と愛国(4) - 「右向け右」行政は稚拙 大切なことはほかにも」(朝日新聞2006年5月27日(土)夕刊)

知事をやっていて、いろいろな部局をみていると、福祉関係の職員なんかは必死ですよ。独自色を出して、他県と差別化しようと。各県がそれぞれ創意工夫をし、「これがいい」となると、よそもそれにならいます。
ところが、教育委員会はすごく楽なんです。教育行政は、文部科学省から教師までの上意下達がはっきりしていて、「ゆとり教育をやる」と国が言えば、一斉に右向け右。創意工夫するインセンティブが教委には働かない。
新しいことをやるにはリスクが伴う。大きな母艦が進路を間違ったら全員が間違う小舟があっちこっち行っていればリスク分散になるのに。やり方が稚拙です。まして教育は、間違っていたと気付くのには、ずいぶん時間がかかる。だから、教育の地方分権が必要なんです。
国の教育基本法という形で一斉に、一律に愛国心を教えると決めるのも、根は同じです。
今の子はすぐキレる、権利ばかり主張すると言い、それは育ち方、教育の問題だと。だから、教育をしっかりすれば強制される、と。本当にそうでしょうか。「ゆとり」のときと同じように、効果があるかの検証もないまま、一斉にやろうという文部科学省のあり方には、異を唱えたい。
国を愛することは、悪いことではない。授業で愛国心を教えることも、できるでしょう。しかし「親を敬う」「友だちに親切に」「障害を持つ子もみんな一緒に」と、同じように大切なことの中から愛国心だけ選びとられ、「これがないからおかしい」という言い方をされるのは、変だと思いますね。