林真理子「私と愛国(5) - 表現しきれぬ思い大切 いろんな心共存がいい」(朝日新聞2006年5月29日(月)夕刊)

オリンピックで日の丸が揚がり、君が代の歌が流れると素直に感動します。学校の卒業式や入学式で起立しない、君が代を歌わないという姿をみるとマナー知らずだと不愉快に感じるけど、露骨に「愛国心」を持ち出すことも嫌。そんな矛盾した感情を持ってます。
中国や韓国でナショナリズムが燃えさかり、日の丸を燃やす映像がテレビで流れますよね。ムッとしちゃいます。
ただ、私の子ども時代は日教組の力が強くて、日本軍がアジアを侵略し、現地でどんなにひどいことをしたのかを学びました。どこかで、過去の罪を償うには時間がかかるんだろうな、仕方ないのかな、と思う面もあるのです。
ところが、今の若い人たちは、ネットで中国や韓国の人々をけなし、むかつくという感情をストレートに出す。格好いいと思っている。私たちの世代にある「ちょっと待てよ」という感覚がなくなった気がします。
国を愛し、歴史や伝統を大切に思う気持ちそれ自体は大切で、教育基本法改正案は、バランスがとれた内容です。
ただ、「愛国心」という言葉が若い世代に広がる右翼的な動きをさらに助長したり、(日の丸・君が代の強制を進める)各地の教育委員会のおじさんたちをますます勢いつけたりしないかが、心配の一つです。天皇陛下も「(日の丸・君が代の)強制は望ましくありません」って、おっしゃってましたよね。
スポーツ選手の活躍を見ながらでもいい、自然に国を愛する気持ちが育てばいいと思います。愛国心を語るのに雄弁さはいらない。寡黙に教える方法がないか、探ってほしいと思います。