君が代不起立呼びかけ・起訴異例の裁判「当然」「擬間」 都立板橋高元教諭あす判決(朝日新聞2006年5月29日(月)夕刊)

東京都立板橋高校で04年3月、卒業式の開式前に保護者らに国歌斉唱時の不起立を呼びかけた藤田勝久・元同校教諭(65)が威力業務防害罪に問われた裁判は、30日に東京地裁で判決を迎える。卒業式での君が代斉唱と日の丸掲揚の徹底を進める都教委。その強硬姿勢に沿って学校側が警察に被害届を出し、東京地検が元教諭の在宅起訴に踏み切った。異例の展開を見つめる関係者の思いを探った。
●「開式5分遅れた」
元教諭は、教員生活最後の年に受け持った1年生の卒業を見届けるために来賓として来ていた。開式約20分前、国旗・国歌に関する都教委の方針に批判的な週刊誌記事のコピーを保護者に配布。不起立を呼びかけた。
検察側は、元教諭が教頭の制止を振り切って呼びかけをし、学校側の退出の求めに「何で追い出すんだ」などと怒号を発して式場を喧噪(けんそう)状態に陥れ、開式が5分ほど遅れた−と主張。懲役8ヵ月を求刑している。
弁護側は「配布や呼びかけの際には制止を受けていない」と争い、問答になったのも「退出要請に抗議しただけだ」と無罪を主張している。
●「校外でやるべき」
「厳粛な式を混乱させたのだから起訴は当然」と検察幹部は語る。
警察や検察の調べに、ある母親は「卒業式でなぜこんな騒ぎを起こすのかと思った」と述べた。取材に応じた別の母親も「普通は校門の外でやることだと思う」と批判的だ。ただ、「呼びかけは普通の声。保護者たちの雑談でざわざわしていた時間帯だった。裁判にかけるなんて擬問」とも言う。
式揚にいた教諭は「学校行事で、生徒の集合や整列が遅れて開式が5分くらい遅れるのは珍しくない」と話す。
●9割が着席
元教諭が退出させられた後、会揚に卒業生が入場した。国歌斉唱時、270人の卒業生の約9割が一斉に着席した。来賓には、不起立を問題視していた地元選出の都議もいた。都議は直後の都議会で卒業生の着席を「異常事態」として取り上げ、捜査機関に対して刑事罰を科すよう明確に求めた。
●強制と反発
元教諭は式場に入る前、各教室を回って生徒らに不起立を促した。ただ、不起立の雰囲気は式前日から広がっていたという。ある卒業生は「同級生は強制を嫌う人たちが多かった。校長の起立要請は教育委員会の指示をそのまま伝えているという感じで嫌だった」と打ち明ける。
式の最後、「旅立ちの日に」を全員起立して歌った。ある卒業生は「自分たちで歌うと決めた歌だったから」と話した。