伊東一長長崎市長が殺害された件についてその他

平和行政に尽くした長崎市長の銃撃死、悲しみと動揺広がる(YOMIURI ON-LINE 2007年4月18日(水))

「どうしてこんなことに……」。回復を信じる家族や市民の願いはかなわなかった。
18日未明、懸命の治療もむなしく凶弾に命を奪われた伊藤一長(いっちょう)・長崎市長(61)。統一地方選さなかの凶行に、長崎市長選の候補者らには動揺が広がり、被爆者たちも、平和行政に尽くした市長の死を悼んだ。


■病院、現場 
長崎大医学部・歯学部付属病院(長崎市)では、午前1時50分ごろから約10分間、妻の十四子(としこ)さん(61)ら家族が集中治療室内に入った。十四子さんは伊藤市長の右手を両手で強く握り締め、「お父さん、元気になって」と呼びかけた。
江石清行・心臓血管外科教授が「状況は厳しい」と伝えると、十四子さんは覚悟を決めたような表情を見せ、心臓が完全に停止すると、娘らとともに泣き崩れたという。
江口勝美病院長と江石教授は午前4時30分から記者会見し、「全力を尽くしたが、残念な結果になった」と唇をかんだ。
銃撃のあった長崎市大黒町の選挙事務所前では、18日朝も県警による警備が続いた。雨の降る中、足を止めて表情をこわばらせる会社員や、涙ながらに花束を手向ける女性の姿も見られた。
通勤中のアルバイト女性(53)は、「なぜ市長が撃たれなければならないのか。悲しくて言葉が出ない」と声を詰まらせた。市内の高校教諭(59)は「選挙中に現職市長が撃たれるなど、長崎市の恥。今後、市はどうなるのか」と涙ぐんだ。


■市役所 
長崎市役所では同日午前9時から臨時部長会が開かれた。黙とうの後、内田進博(のぶひろ)・副市長が、「志半ばで凶弾に倒れた無念を思うと、残念でならない。残された職員が一丸となって全力を尽くそう」と述べた。
涙ながらに副市長の言葉を聞いた山本正治・企画部長(57)は、「気さくな人柄で、喫煙所でたばこを交換して吸うこともあった」と振り返り、「告示を控えた公務最終日に握手し、『あとは頼むけんね』と言われたのが最後のやり取り。亡くなったのは信じられない」と話した。
午前10時ごろには、市役所の総合案内前に記帳所が設置された。支所11か所と行政センター7か所にも、記帳所が設けられた。


■選挙運動 
22日投開票の同市長選、市議選では、選挙運動を差し控える動きが広がった。
市長選に立候補している無所属新人・前川智子候補(59)の陣営は、18日は喪に服すため、個人演説会を中止。共産党新人・山本誠一候補(71)も、最後の追い込みとして予定していた市内全域への遊説と演説会を取りやめた。無所属新人・前川悦子候補(57)は病院を訪れ、「頭が真っ白で、今は選挙のことは考えられない」と話した。
一方、長崎市議会の各会派と無所属の現職議員は18日、代表者会議で、この日の選挙運動を自粛することを申し合わせた。



長崎市長射殺、各国メディアが速報「日本で銃撃まれ」(YOMIURI ON-LINE 2007年4月18日(水))

【ニューヨーク=佐々木良寿】伊藤長崎市長が射殺された事件について、各国メディアは、東京発の通信社電などを引用する形で一斉に速報した。
AP電は「銃所持が厳しく禁止されている日本では、銃撃はまれで、第2次大戦後、わずか5人の政治家殺害が知られているに過ぎない」と説明。ロイター電も、「日本は銃規制が極めて厳しく、銃の大半は『ヤクザ』らの手元にある」と伝えた。
米国では、16日にバージニア工科大で米史上最悪の銃乱射事件が発生したばかりで、両通信社の報道は、銃を使った犯罪が多発する米国との対比を暗に示したものといえる。
フランス通信(AFP)は、城尾容疑者が、「日本最大の犯罪シンジケートの一員」だと伝えた上で、暴力団について「闇社会で暗躍し、ショービジネスや、利幅の大きい産業に関心を持っている」などと解説した。



警察庁、候補者周辺の情報収集徹底を指示(YOMIURI ON-LINE 2007年4月18日(水))

長崎市伊藤一長市長銃撃事件を受け、警察庁は17日夜、全国の警察本部に対し、統一地方選候補者の周辺の情報収集を徹底するよう指示した。
同庁によると、遊説などを行う候補者には原則、警護は行わず、伊藤市長についても特別危険な情報はなく、陣営から警護要請などもなかった。
しかし、同庁は政治的な背景などから候補者が襲撃されることが今後も起きる可能性があるとして、情報収集を急ぎ、候補者に危険が及ぶような情報があれば、適正な警戒措置を取るように指示した。



社説:長崎市長銃撃 蛮行を許してなるものか(MSN-Mainichi INTERACTIVE 2007年4月18日(水))

統一地方選真っただ中の17日夜、4選を目指していた伊藤一長長崎市長が、拳銃で撃たれ、意識不明の重体となった。容疑者は暴力団関係者という。犯行の動機や背後関係などは不明だが、いずれにせよ、政治家を選挙中に襲撃するとは言語道断だ。市長だけでなく、市長を支持し、一票を投じようとした有権者の声までを封殺したに等しい。強い憤りを覚える。
事件は、JR長崎駅前の繁華街で起きた。容疑者は拳銃を隠し持って伊藤市長が現れるのを待ち伏せしていたらしい。雑踏の中で凶弾を数発も浴びせる冷血の犯行に、背筋が凍りつくような恐怖を覚える。周囲の市民に取り押さえられたところをみると、逮捕覚悟の凶行のようだが、平然と人を撃つ大胆不敵さが不気味だ。捜査当局には背後関係など徹底した真相解明を求めたい。
長崎市は周辺7町との編入合併や裏金問題などをめぐって、市民の間にも意見対立があったという。警察当局は事前に何らかの不穏情報を得ていなかったのか。選挙期間中は政治家が平素にもまして群衆の前に姿を見せるだけに、警察は情報収集に努め、必要に応じて身辺警護を含めた警備を実施すべきことは言うまでもない。容疑者は暴力団関係者であるだけに警察の視野に入っていても不思議ではなく、事件を未然防止できなかったことが悔やまれる。
それにしても民主主義を否定する暴力が、憎んでも憎んでも繰り返されるのはなぜなのだろう。長崎市長と言えば90年、当時の本島等市長が右翼団体構成員に銃撃され、重傷を負った事件が記憶に新しい。テロで政治家が死亡した事件としては、1960年に当時の浅沼稲次郎社会党委員長が演説中、右翼の少年に刺殺された事件が有名だが、その後も暴漢らが政治家を狙った事件は少なくない。02年には東京の住宅地で、石井紘基衆院議員が金銭トラブルから知人の右翼団体代表に刺殺されている。また、昨年8月には加藤紘一衆院議員の山形県鶴岡市の実家が、右翼団体構成員に放火される事件も起きている。
今回は米国で乱射事件が起きた直後だけに、拳銃が使われたことへの衝撃も大きい。国内は銃器汚染とは無縁とみられてきたが、旧ソ連の崩壊後、軍用拳銃が流出した影響から、日本への密輸が増加したといわれている。警察の摘発が後手に回っている面は否めず、最近は暴力団だけでなく、周辺の関係者が不法所持する事件なども目立つ。米国の事件は今や対岸の火事ではない。再発防止のため、警察は銃器取り締まりにも全力を挙げねばならない。
言うまでもなく、あくまでも話し合いで解決を目指すのが民主主義の基本ルールだ。選挙中ならばなおさら立候補者の政見に耳を傾けねばならない。ややもすれば少数意見を口に出しにくくなっている折、市民の一人一人が犯行を憎むと同時に自由な言論を守る世論を確立し、暴力を一掃しなければならない。



長崎市長銃撃―このテロを許さない(asahi.com 2007年4月18日(水))

またも長崎市長が撃たれた。
この卑劣なテロを断じて許すことはできない。
選挙運動中の伊藤一長市長が選挙事務所のそばで銃撃され、重体となった。伊藤氏は被爆ナガサキの市長として核廃絶運動の先頭に立ち続けてきた。
長崎市では17年前に、当時の本島等市長が右翼団体の男に銃撃されて重傷を負った。被爆地で繰り返される凶行に、強い怒りを覚える。
事件は午後8時前、JR長崎駅に近い繁華街で起きた。多くの市民が行き交う目前で、伊藤市長は待ち伏せていた男に背後から襲われた。
その場で逮捕された容疑者は、暴力団幹部だった。動機についてはまだはっきりしない。市発注工事に絡んで市との間にトラブルがあったとの情報もあるが、警察は全力を挙げて捜査し、背後関係を含めて解明しなければならない。
伊藤市長は22日投開票の同市長選に4選を目指して立候補していた。警察の警備に落ち度はなかったのか。それも検証が必要だ。
伊藤市長は95年には国際司法裁判所の法廷で証人として立ち、「核兵器使用が国際法に違反していることは明らかであります」と世界に訴えた。核保有国の核実験には抗議を重ねた。
北朝鮮の核実験に関し、日本国内で自民党幹部から核保有論議の容認発言が出ると、「看過できない」として非核三原則堅持と外交での解決を求めた。
容疑者の動機がなんであれ、反核運動が萎縮(いしゅく)するのではないかと心配だ。反核運動に携わる人々はひるむことなく、発言を続けることが、伊藤市長への激励となる。
17年前の銃撃事件では、その1年ほど前、本島市長が市議会で「天皇の戦争責任はあると思う」と答弁していた。その後、市役所に銃弾が撃ち込まれるなど、不穏な動きが続いた。
首長や議員を狙った事件としては、11年前、産廃処分場建設に待ったをかけた岐阜県御嵩町長が襲われて重傷を負ったことが思い出される。昨年は小泉前首相の靖国神社参拝に反対した自民党元幹事長の加藤紘一衆院議員が、実家と事務所を右翼団体幹部に放火された。
相手が言うことをきかないからといって、暴力で封殺するようなことがまかり通れば、言論の自由が封じ込められた結果、国の針路を誤った戦前の暗い時代に後戻りすることになりかねない。
この数年、国内の発砲事件や短銃の押収は減る傾向にある。しかし、今回の事件を機に、改めて銃の取り締まりに全力を挙げてもらいたい。
今回の事件は選挙運動の最中だった。これで候補者がものを言うのをためらうようなことがあってはならない。
テロに屈しない道は、多くの人たちが声をあげることをやめないことだ。そのことをいま一度確認しておきたい。



長崎市長銃撃 統一地方選さなかに起きたテロ(4月18日付・読売社説)(YOMIURI ON-LINE 2007年4月18日(水))

統一地方選のさなか、長崎市伊藤一長市長が銃撃された。22日投開票の市長選に4選を目指して立候補していた。
長崎市では、1990年1月にも当時の本島等市長が右翼団体の幹部に拳銃で撃たれ、負傷する事件が起きている。市長の「昭和天皇に戦争責任があると思う」という発言に反発して凶行に及んでいた。このテロを思い起こさせる。
伊藤市長を撃った容疑者は、指定暴力団山口組系の会長代行の男で、その場で殺人未遂の現行犯で逮捕された。遊説を終え、JR長崎駅前の選挙事務所に戻ったところを、背後から狙われた。
男は調べに対し、「市長を狙って撃った。殺すつもりだった」などと供述しているという。
伊藤市長は、長崎市議、県議を経て、95年、本島市長を選挙で破って市長になり、先月には全国市長会長にも立候補していた。
なぜ、山口組の幹部が伊藤市長を狙ったのか。個人的な恨みや市政に絡む何らかのトラブルがあったのか、思想的な背景があるのか。警察は動機や背後関係を徹底的に追及しなければならない。
全国で統一地方選の後半戦が戦われている。テロに屈して、候補者が堂々と政策を訴えることもできないような状況になってはいけない。警察も警備態勢などを見直す必要がある。
事件の背景も考えねばならない。地方財政は厳しい。公共事業は削減され、建設業界の談合なども通らない。
古くからのしがらみを絶つ改革が必要なことは、どの自治体にも共通した問題だが、圧力に屈していては、健全な行政は成り立たない。
地方政界では、1996年10月に、産業廃棄物処分場建設を一時凍結した岐阜県御嵩町の町長が、自宅で何者かに襲われて、重傷を負う事件も起きている。暴力団政治団体などが行政に脅しをかけて利権を得ようとするなど、対行政暴力も深刻化している。
国会議員では、2002年10月に右翼団体主宰者が石井紘基衆院議員を刺殺する事件があった。昨年8月には、加藤紘一・元自民党幹事長の山形県鶴岡市内の実家が、右翼団体構成員によって放火された。警察は、加藤氏の靖国問題などに関する発言に反発して、犯行に及んだとみている。
この事件後、国会議員からは、言論を封じようとするような不穏な空気を憂慮する声も出ていた。
政治活動の自由が封じられるような、重苦しい社会にしてはならない。



【主張】長崎市長銃撃 許されない暴力団のテロ(Sankei Web 2007年4月18日(水))

統一地方選さなかの長崎市伊藤一長市長が銃弾に倒れた。伊藤市長は22日投開票の市長選に4選を目指して出馬、選挙運動中だった。
伊藤市長を撃った男の詳しい動機や事件の背景はまだ分からない。
だが、その暴挙は決して許されない。公職者に対する非道であり、民主主義を冒涜(ぼうとく)する愚劣な行為である。法治国家として認められない。
男は殺人未遂の現行犯で逮捕された。長崎市山口組暴力団幹部という。「伊藤市長を殺害する目的で数発発射した。市の対応が悪かった」などと供述している。
在京の民放テレビ局に男の名前で、長崎市公共工事をめぐるトラブルがあったことなどを伝える郵便物が届いたという。
伊藤市長は選挙カーを降りて、事務所に向かう途中に背後から至近距離で撃たれ、意識を失ってうつぶせに倒れた。選挙期間中の手薄になりがちな警備のすきをついた犯行だった。たとえ男にどんな事情があるにせよ、その行動は卑劣で、銃や暴力団の存在を容認してはならない。
伊藤市長は長崎市議と長崎県議を経て、平成7年4月、5選を目指した本島等前市長を破って長崎市長に初当選した。
被爆地の市長として自民党中川昭一政調会長の核保有議論をめぐる発言や北朝鮮の核実験を強く批判していた。昨年8月の長崎平和宣言では「2006年を再出発の年とすることを決意し、恒久平和の実現に力を尽くすことを宣言します」と訴えた。
政治家への暴力行為は、言論の自由を封殺するにも等しい。
長崎市では2代続けて市長が襲われている。本島前市長も在職中の17年前に長崎市役所前の玄関で公用車に乗り込もうとしたところを、右翼団体幹部に左胸を撃たれて重傷を負った。
中央政界でも、加藤紘一自民党幹事長が昨年8月、右翼団体幹部の男に山形県の実家と事務所を放火された。平成14年には、民主党石井紘基衆院議員が自宅駐車場で自称右翼団体の男に包丁で刺殺された。
拳銃や暴力、脅迫に屈してはならない。社会全体が毅然(きぜん)とした態度で許さないことが肝要である。