マスコミと自衛隊は同じではない

自衛隊:情報収集問題 防衛次官「真がん確認は困難」 内部文書、現物なし(MSN-Mainichi INTERACTIVE 2007年6月8日(金))

◇市民調査の内部文書、現物なし
陸上自衛隊情報保全隊が、自衛隊イラク派遣に批判的な団体などの活動を調査した内部文書を作成していた問題で、防衛省守屋武昌事務次官は7日、共産党の公表した文書の真がんの確認について「保管期限を過ぎたので現物はない。確認は難しい」と説明した。
守屋次官は、保全隊の活動根拠として、「派遣が無意味」などとする誤った報道や反対する市民団体の指摘の中で、隊員に、正しい派遣理由を説明することや隊員家族の不安の除去などをあげた。
国民春闘年金問題など派遣問題以外を調査した記載がある点については「あったものとしての質問には答えられない」と説明を避けたほか、「誤った報道」の具体的中身についても「いついかなるということでは言えません」と述べるにとどまった。
また同日の参院外交防衛委員会では、同隊が市民団体の集会の風景を写真撮影していたことについて、久間章生防衛相は「マスコミでも写真はぱちぱち撮っていますよ。取材上よくて自衛隊は悪いという法律上の根拠はない。特定の誰かを狙っているのではない」と述べ、肖像権侵害との指摘を否定した。【本多健】



自衛隊情報収集 防衛相『悪くない』(東京新聞 2007年6月7日(木))

久間章生防衛相は七日午前、参院外交防衛委員会で、陸上自衛隊情報保全隊イラクへの自衛隊派遣に反対する市民活動などの情報を収集していた問題で「たえず情報収集は行っている」と、事実関係を認めた。その上で「自衛隊が情報を収集して分析することは悪いことではない」と述べ、正当性を強調した。
また、久間氏は保全隊がデモや抗議活動の写真を撮影していたことについて「特定の誰かをクローズアップしたのではなく、デモ、抗議行動の風景を撮ることは違法ではない」との認識を示した。
これに対し共産党の緒方靖夫氏は「警察でも撮影が認められているのは、犯罪が行われたか、犯罪の証拠保全の必要性があるときなどだけだ」と述べ、「警察官が正当な理由なく個人の容ぼうを写真撮影することは憲法一三条に反する」とした最高裁判決に抵触する恐れがあると指摘した。
久間氏は「マスコミだって写真をパチパチ撮っている。取材が良くて、自衛隊だと駄目だという法的根拠はない」などと反論した。



文書の信用性、防衛相が示唆 情報保全隊問題(asahi.com 2007年6月8日(金))

陸上自衛隊情報保全隊が、イラクへの自衛隊派遣に反対する市民活動や報道機関の取材などを情報収集・分析していた問題で、久間防衛相は7日午後の参院外交防衛委員会で、共産党が示した文書の信頼性について「(偽物)ではない、という感じを受ける。作られたような気配はない」と述べ、本物である可能性が高いこと示唆した。
白真勲氏(民主)の質問に答えた。




共産委員長、防衛相の問題なしは「居直り」(asahi.com 2007年6月8日(金))

共産党の志位委員長は7日の記者会見で、陸上自衛隊情報保全隊による市民活動の情報収集や写真撮影問題をめぐる久間防衛相の発言について「(共産党が)違法行為として指摘した集会やデモ参加者の写真撮影を『当然の活動だ』と居直るのは極めて重大だ。報道機関が行うのは国家権力ではない。それを同列にして違法活動をやると宣言している」と批判し、久間氏の責任を追及する考えを示した。




自衛隊の「市民監視」、各団体が抗議声明(asahi.com 2007年6月8日(金))

自衛隊イラク派遣に反対する市民運動などの情報を陸上自衛隊情報保全隊が収集していたことについて、自由法曹団松井繁明団長)は7日、「国民監視活動に抗議する」との声明を発表した。自由法曹団などが呼びかけた04年の「ピースキャンドルナイト」が対象になっていた。
署名活動が資料に記録されていた原水爆禁止日本協議会原水協)も「(署名などは)憲法が保障する基本的権利にもとづいた行動。国家機関の監視は明白な違憲行為だ」との抗議文を安倍首相に送った。
日本国民救援会は「戦争推進と国民監視が表裏の関係にあることは歴史の教訓。憲兵隊が国民を監視する役割を果たした時代の再来を許してはならない」と声明で訴えた。
新聞労連自衛隊員への取材が「反自衛隊活動」とされていたことを挙げ、「記者の取材が知らぬ間に監視・記録され、レッテルまで張られている」と抗議する声明を発表した。



社説 - 情報保全隊―自衛隊は国民を監視するのか(asahi.com 2007年6月7日(木))

自衛隊は国民を守るためにあるのか、それとも国民を監視するためにあるのか。そんな疑問すら抱きたくなるような文書の存在が明らかになった。
イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」と「情報資料」というタイトルに、それぞれ「情報保全隊」「東北方面情報保全隊長」と印刷されている。文書は全部で166ページに及ぶ。共産党が「自衛隊関係者」から入手したとして発表した。
久間防衛相は文書が本物であるか確認することを拒んだが、この隊がそうした調査をしたことは認めた。文書の形式やその詳細な内容から見て、自衛隊の内部文書である可能性は極めて高い。


■何のための調査か
明らかになった文書の調査対象は03年から04年にかけてで、自衛隊イラク派遣への反対活動ばかりでなく、医療費の負担増や年金改革をテーマとする団体も含まれている。対象は41都道府県の290以上の団体や個人に及んでいる。
文書には映画監督の山田洋次氏ら著名人、国会議員、地方議員、仏教やキリスト教などの宗教団体も登場する。報道機関や高校生の反戦グループ、日本国内のイスラム教徒も対象となっていた。
自衛隊イラク派遣は国論を二分する大きな出来事だった。自衛隊が世論の動向に敏感なのは当然のことで、情報収集そのものを否定する理由はない。
しかし、文書に記されているのは、個々の活動や集会の参加人数から、時刻、スピーチの内容まで克明だ。団体や集会ごとに政党色で分類し、「反自衛隊活動」という項目もある。
これは単なる情報収集とはいえない。自衛隊イラク派遣を批判する人を頭から危険な存在とみなし、活動を監視しているかのようである。


■「反自衛隊」のレッテル
文書によると、調査をしたのは陸上自衛隊情報保全隊だ。保全隊は03年にそれまでの「調査隊」を再編・強化してつくられた。陸海空の3自衛隊に置かれ、総員は約900人にのぼる。
情報保全隊の任務は「自衛隊の機密情報の保護と漏洩(ろうえい)の防止」と説明されてきた。ところが、その組織が国民を幅広く調査の対象にしていたのだ。明らかに任務の逸脱である。
防衛庁時代の02年、自衛隊について情報公開を請求した人々のリストをひそかに作り、内部で閲覧していたことが発覚した。官房長を更迭するなど関係者を処分したが、その教訓は無視された。
調査の対象には共産党だけでなく、民主党社民党も含まれている。野党全体を対象にしていたわけだ。
04年1月に福島県郡山市で行われた自衛隊員OBの新年会で、来賓として招かれた民主党増子輝彦衆院議員が「自衛隊イラク派遣は憲法違反であり、派遣に反対」と述べた。保全隊はこれを取り上げ、「反自衛隊」としたうえで、「イラク派遣を誹謗(ひぼう)」と批判している。
イラク派遣の是非は政治が判断すべき問題だ。どういう結果にせよ、自衛隊はそれに従うまでで、政治的に中立であるはずだ。自衛隊にまつわる政策に反対する議員らをそのように扱うことは、あってはならないことだ。
イラク派遣については、自衛隊のことを思えばこそ反対した人たちも少なくなかった。イラク派遣に反対することが「反自衛隊」だとはあまりにも短絡的な考え方である。自衛隊がそんな態度をとっていけば、せっかく築いた国民の支持を失っていくだろう。
報道機関を調査の対象にしていたことも見逃せない。
たとえば、岩手県で開かれた報道各社幹部との懇親会での質問内容が、個人名を挙げて掲載されていた。自衛隊が厳しい報道管制を敷いていたイラクでの活動については、「東京新聞現地特派員」の記事や取材予定をチェックしていた。
イラク派遣について自衛隊員や地元の人々の声を伝えた朝日新聞青森県版の取材と報道について、「反自衛隊」と記録していた。「県内も賛否様々」と題して両論を公平に伝えたこの記事が、なぜ反自衛隊なのか。


文民統制が揺らぐ
自衛隊は国を守る組織だが、それは自由な言論や報道ができる民主主義の国だからこそ真に守るに値する。そうした基本認識がうかがえないのは残念だ。
防衛省はこうした情報収集について、イラク派遣への反対運動から自衛隊員と家族を守るためにしたことで、業務の範囲内という立場だ。しかし、それはとても通用する理屈ではない。
忘れてはならないのは、武力を持つ実力組織は、国内に向かっては治安機関に転化しやすいという歴史的教訓である。戦前、軍隊内の警察だった憲兵隊がやがて国民を監視し、自由を抑圧する組織に変わっていった。
よもや戦前と同じことがいま起きるとは思わないが、よくよく気を付けなければならないことだ。自衛隊を「軍」にするという憲法改正案を政権党の自民党が掲げている現状を考えれば、なおさらである。
今回明らかになったのは全体の活動の一部にすぎまい。政府はこうした活動について、詳細を明らかにすべきだ。
守屋武昌防衛事務次官は「手の内をさらすことになるので、コメントするのは適切ではない」という。開き直りとしかいえず、とても納得できるものではない。無責任の極みである。
こうした事実を政府がうやむやにするようでは、文民統制を信じることはできない。国会も役割を問われている。



【社説】自衛隊 市民の自由を尊重せよ(東京新聞 2007年6月8日(金))

陸上自衛隊情報保全隊が、イラクへの部隊派遣に反対する市民活動を監視していた。言論や思想信条の自由に対する圧力と受け取られても仕方ない。政治的中立の立場に徹すべきだ。
自由な意見を表明する市民らの行動が、これほど詳細に自衛隊に監視されていたのかと驚かされる。
高校生らが「イラク派兵おかしいよ」と題して二〇〇三年十一月、東京都新宿区で開催した集会も、同じころ愛知県の航空自衛隊小牧基地に派遣中止の申し入れ書を届けた九人の訪問も、大規模デモと並べて記録されていた。
共産党が入手した「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」という文書には、街頭行動などの主催団体、実施日、場所、参加者数、発言内容といった情報が細かく整理されている。抗議行動の参加者に丸印をつけた記録写真や、運動の形態や規模などで分類した集計も添付されている。編集に関与した組織として情報保全隊などの名があり、自衛隊の内部文書だとされる。
集会に参加した市民らが閲覧すれば無言の圧力を感じるだろう。「自衛隊が情報を収集して分析することは悪いことではない」という久間章生防衛相の説明は、表現の自由や人権に対する配慮が欠如している。
文書によると、自衛隊は市民団体のほか報道機関や労働組合、政治家などを幅広く監視していた。自衛隊イラク派遣に反対すればただちに“反自衛隊”と警戒して情報収集していたのなら、あまりに短絡的だ。その多くは、平和憲法下の自衛隊の役割を理解したうえで派遣に反対した行動、意見表明だったからだ。
実力組織の自衛隊は政治的中立を厳守すべきであり、特定の人物や団体を色眼鏡で監視すれば立場や権限の逸脱につながる。思想の自由が保障されなかった時代に軍部が市民活動を抑圧した記憶も刺激される。
かつて自衛隊への接近を企てたオウム真理教のような危険団体を警戒するというのなら、市民と社会の安全を守る任務として理解も得られよう。しかし、小さな集会まで監視する活動は、自衛隊が何から何を守ろうとしているのか、市民らに疑いを抱かせかねない。イージス艦の能力に関する秘密が流出していた事件などをみると、市民より隊内を先に監視すべきだとさえ思える。
防衛省自衛隊は、まず今回の文書の目的、根拠、運用の状況を明らかにして、人権の尊重を確認してもらいたい。過剰な監視活動については組織内の責任を検証し、再発防止策を講じねばならない。



社説 - 自衛隊の国民監視 矛先の向かう先が違う(琉球新報 2007年6月8日(金))

いつから自衛隊は国民に矛先を向けるようになったのだろうか。陸上自衛隊自衛隊の活動に批判的な市民団体や政党、労組、ジャーナリストなどの動向を調査した内部文書の存在が6日、明らかになった。国民を守るべき自衛隊が、自衛隊を守るために国民を監視する。本末転倒だ。
共産党が入手・公表した自衛隊の「内部文書」は2種。「イラク派遣に対する国内情勢の反対動向」(2003年11月―04年2月)と「一般情勢」(04年1―2月)で、いずれも陸上自衛隊情報保全隊が作成したものだ。
文書にはイラク派遣に反対する集会やデモ、ビラ配布などを行った289の団体・個人の動きが詳細に記録されている。
県内でも沖縄弁護士会沖縄平和運動センターなど15団体、5個人の活動が「監視対象」となっていた。
7日の参院外交防衛委員会で、久間章生防衛相は、「監視活動」が陸上自衛隊に限らず、海上航空自衛隊でも行われていた可能性を認めている。
反対集会への参加者の撮影も行われていた。「撮影は違法」との野党の指摘に久間防衛相は、マスコミ取材を例に「取材が良くて自衛隊が駄目だという法律の根拠はない」と反論している。マスコミの取材と自衛隊の監視を同列に並べる感覚も、いかがなものか。
自衛隊による「国民監視」の事実を内部文書で暴露された防衛省は「部隊の保全のために必要な情報活動」「情報収集はイラク派遣時に限ったこと」と釈明している。
これに対し野党は「個人のプライバシーに対する侵害行為で、憲法違反」(共産党)「シビリアンコントロール文民統制)が全く効いていない」(民主党)「税金を使った憲法違反の行為で言語道断」(社民党)と批判している。
戦前、戦中は特高警察が国民を監視し、発言によっては逮捕・拘留し、反戦の声を抑えた。加えて、負け戦すら勝ち戦にすり替える軍の「大本営発表」で情報操作し、国民を戦争に駆り立て、多くの国民を死に追いやった歴史がある。
自衛隊による「国民監視」に、市民からは「戦前の特高警察の復活を思わせる」「戦前回帰に身震いする」などの声が上がっている。
自衛隊は、存在自体が憲法違反との意見もある。改憲論争の焦点の一つに「9条改正」による自衛隊の“軍隊化”もある。
国の平和と独立を守り、直接・間接侵略に対処するのが自衛隊の主任務のはずだ。しかし実態が、戦前の特高警察を想起させる国民の監視機関だとするならば、やがて矛先を国民に向ける軍隊に変わりかねない。そんな自衛隊なら、民主国家・日本には不要だ。



社説 - 陸自の「市民監視」 文民統制への懸念募る(中国新聞 2007年6月8日(金))

任務の枠組みを大きく逸脱しているのではないか。そんな疑念がぬぐえない。陸上自衛隊情報保全隊が、二〇〇三年十一月から翌年二月にかけ、イラクへの自衛隊派遣に反対する団体や個人の情報を収集。「内部文書」にまとめていたことが分かった。
情報収集の対象は、市民団体をはじめ、労働組合や政党、宗教団体、地方議会、報道機関など広範囲に及ぶ。高校生のグループも含まれていたというから驚きだ。全国四十一都道府県の計二百八十九団体・個人の活動状況がつぶさに記録されていた。共産党志位和夫委員長が、自衛隊関係者から文書を入手したとして記者会見で明らかにした。防衛省側も情報収集の事実を認めている。
公表された内部文書によると、イラク派遣の基本計画が閣議決定される直前から陸自の主力部隊がサマワに到着する時期の抗議行動などを一週間ごとに調査。集会やデモの報告には参加者の写真が添えられ、個人が送ったはがきの内容まで記録の対象になっていた。
久間章生防衛相や塩崎恭久官房長官は、こうした活動について当然のことで問題はないとしている。しかし、集会、結社など一切の表現の自由の保障と検閲の禁止を明記した憲法二一条に背く行為ではないと言い切れるのか。大いに疑問がある。
岩手駐屯地からの派遣人数や時期についての電話確認、青森駐屯地の正門前で退庁する隊員に対して行われた取材も「反自衛隊活動」に識別されていた。あっけにとられる思いだ。思想、信条や表現の自由が奪われ、救いのない戦争へと突き進んでいった暗い過去が連想され、ぞっとする。
情報保全隊小泉政権下の〇三年三月、海上自衛隊幹部によるロシアへの機密漏えい事件などを受け、それまでの調査隊を再編・強化する形で発足。民間の情報収集対象については、防衛庁長官(当時)が「防衛秘密を取り扱う者として指定した関係者に限定している」と国会で明言していた。
自衛隊イラク派遣を決めた小泉政権からバトンを引き継いだ安倍政権の政治姿勢も厳しく問われよう。沖縄のキャンプ・シュワブ沖の環境調査に海自隊の掃海母艦を派遣したことも含め、自衛隊が市民団体を直接監視する動きが目にあまるのではないか。戦後の国防の根幹である「文民統制」が揺らぎかねない。国会は事態を軽視してはならない。



社説 - 自衛隊の内部文書/自由の国で気味が悪い(河北新報 2007年6月8日(金))

なんとも薄気味悪く、背筋がぞっとした。今時こんなことが、組織的に、日常的に行われていたのか。
陸上自衛隊が、自衛隊の活動に批判的な市民団体のほか、政党、労組、ジャーナリスト、宗教団体などの動向をまとめた「内部文書」の存在が判明した。共産党自衛隊関係者から入手したとして公表し、防衛省が資料作成について認めた。
文書はA4判、166ページで、(1)陸自東北方面情報保全隊が収集した「情報資料」(2004年1―2月)(2)情報保全隊本部が作成した「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」(03年11月―04年2月)の2種類ある。
文書には、自衛隊の活動に反対するデモや集会、ビラ配りについて、日時や場所、団体名、個人名、内容などを記載。写真も添付されていた。派遣反対の集会やデモの関連だけで全国41都道府県の289団体・個人に上り、高校生も含まれている。
さらに、国会議員の発言、新聞記者の取材活動や、派遣反対運動とはおよそ関係がないとみられる年金制度や消費税に関する集会なども記録されていた。
情報収集は、イラク派遣の基本計画閣議決定を控えた直前から、陸上自衛隊本隊の主力部隊がイラクサマワに到着した時期に当たる。イラク派遣について、国内で賛否が渦巻き、反対運動も高まっており、自衛隊が神経質になっていたことは間違いない。
情報保全隊の任務は自衛隊施行令に基づく各自衛隊の訓令で規定されており、隊員と外部の不審者との接触などを監視。自衛隊施設に対する襲撃や業務の妨害などを防ぐための情報収集も含まれるが、民間の情報収集対象については、極めて限定されている。
政府は「法律をもとにした調査活動や情報収集は当然、受け入れられるべきだ」(塩崎恭久官房長官)と、今回の自衛隊の対応について、許容範囲との認識を示しているが、果たしてそうだろうか。
多様な議論や主張を認めず、一方的に敵と決めつけ、多数の市民を監視するのは、常軌を逸しているとしか思えない。何かしらざわっとするし、憤りも覚える。
個々人の行動や正常な職業活動が、本人が知らぬ間に、権力からチェックを受けるとすれば、プレッシャーを感じ、息苦しい社会になる。
言論、集会、結社の自由が保障され、個人のプライバシーが守られることが、自由、民主主義の根幹であることは確認しておきたい。
防衛省は、自衛隊の内部文書を明らかにし、調査の意図や方法などについて説明する必要があろう。
自衛隊は、国内はもとより海外での大規模災害救助活動などで実績を積み上げ、信頼を勝ち得てきた。国土の防衛を担ってもらうことについても、国民の間でほぼ合意に達している。
市民の監視は、国民の信頼に水を差し、道を逆行しているのではないか。



社説 - 自衛隊*市民監視まで、に慄然(北海道新聞 2007年6月8日(金))

戦争に反対し、平和を求める市民の活動が自衛隊に監視されていた。
その事実を示すという内部文書を共産党が入手し、公表した。
文書によると、陸上自衛隊イラク派遣に反対する全国各地の市民集会やデモなどのほか、報道機関の取材活動も調べられていた。情報収集したのは自衛隊情報保全隊という組織だ。
派遣部隊第一陣が送り出された北海道でも当時、さまざまな市民活動が繰り広げられた。それらが知らない間に監視されていたことに慄然(りつぜん)とする。
憲法が保障する集会・結社の自由や表現の自由プライバシー権を脅かす許しがたい行為だ。市民活動を委縮させることにもなりかねない。
久間章生防衛相は「自衛隊として当然の情報収集だ」と述べ、監視していたことを認めた。だが「三週間で破棄することになっている文書だから(内容については)調べようがない」と、詳しい説明を拒否している。
ことの重大さが分かっていないのではないか。政府はすみやかに事実関係を調査し、国民に開示すべきだ。
文書に記された監視期間は二○○三年十一月からイラク派遣が始まった翌年二月にかけて。集会やデモの日時、場所、参加者数、個人の発言内容などが記載され、一部には写真も添えられている。
登場する名前は全国二百八十九団体・個人、このうち道内関係は六十三団体・個人にのぼる。
見過ごせないのは、こうした集会やデモを「反自衛隊活動」と色分けし、集会での声を「(イラク派遣を)誹謗(ひぼう)する発言」と断じたりしていることだ。
政治的に中立でなければならない自衛隊が、守るべき一線を踏み越えているといわざるを得ない。
自衛隊は制度上、厳格なシビリアンコントロール文民統制)のもとに置かれている。日本には戦前・戦中、軍部を暴走させてしまった苦い体験があるからだ。
自衛隊にこんな勝手を許せば、文民統制まで危うくなる。
情報保全隊の本来の任務は、自衛隊の秘密を探ろうという外部の動きや襲撃から自衛隊を守るための情報収集であり、市民監視ではない。
塩崎恭久官房長官は、防衛省設置法が定める「必要な情報の収集整理」を根拠に今回の監視活動を正当化したが、この規定も国土防衛や警備を第一に想定したものであるはずだ。
○二年には防衛庁が、情報開示請求者の個人情報のリストを作っていたことが発覚し、大きな問題になった。
国民を守るはずの自衛隊が、国民を監視する。なし崩しのうちに組織がひとり歩きを始める。
政府がそれを放っておくのなら、歯止め役は国会だ。その責任は重い。



社説 - 陸自情報保全隊 市民を見張ってどうする(新潟日報 2007年6月8日(金))

陸上自衛隊情報保全隊が、自衛隊活動に批判的な市民団体や政党、マスコミなどの動向を監視し、文書にまとめていたという。憲法が保障する結社の自由や表現の自由を脅かす不当な行動というしかない。
共産党が内部文書を暴露して明らかになった。久間章生防衛相や塩崎恭久官房長官は「情報収集は当然の活動だ」と言明し、防衛事務次官も違法性はないと強調している。
まず確認しておきたいのは、陸自情報保全隊が広範な市民の監視活動を行っていたという事実である。共産党の指摘を否定せず「何が悪い」と居直っているのがその証拠だ。
自衛隊という軍事組織が、日常的に市民の行動やマスコミ取材内容をチェックし、記録にとどめていた。一体何のために行っていたのか。防衛省は陸、海、空三自衛隊保全隊業務の全容と目的を明らかにすべきだ。
保全隊は自衛隊の機密情報漏洩(ろうえい)事件をきっかけに二〇〇三年、調査隊を衣替えして誕生した。重要な軍事秘密が外部に流出するのを防ぐのが本来の任務だったはずだ。
それがなぜ「市民監視」なのか。防衛省自衛隊内部には「意図を持って近づいてくる人物を調べるのは、どこの組織でもやっていることだ」とする声がある。自衛隊という実力組織の重みを理解していない発言だ。
文書には自衛隊イラク派遣に反対する集会などへの参加状況や演説の内容が、実名で記載されていた。個人の思想信条にかかわるこれらの情報は、何に使われるのか。チェックしているという事実だけでも、反戦活動などを委縮させる効果はあるだろう。
さらに問題なのは、監視のガイドラインが見当たらないことである。問題意識もないまま、手当たり次第に市民の行動を記録していたとすれば、職権乱用も甚だしい。
イラク派遣に反対する行動を「反自衛隊的活動」と認定すること自体、無理がある。国論が二分している問題で、一方を敵と見なす考え方は危険である。こうした思考法は自衛隊文民統制の根幹を揺るがしかねない。
情報保全業務には「隊員保全」が含まれている。久間防衛相が「(イラク派遣隊員の)留守家族を安心させるため情報を集めていた」というのはこのことだ。イラクの情勢を正しく伝える方がよほど大切だろう。
一連の監視活動は憲法はもちろん、自衛隊法にも抵触する疑いが濃い。こうした業務に違和感を抱かない自衛隊とは何なのか。政府は虚心に振り返るべきである。国民に疑念を抱かせるような自衛隊では困る。居直りはやめて、説明責任を果たしてほしい。



社説 - 「監視」ならばやり過ぎだ 自衛隊情報活動(2007年6月8日(金))

陸上自衛隊が、イラク派遣など自衛隊の活動に批判的な市民団体の行動や報道の情報を収集、分析していた。
共産党自衛隊関係者から入手したとして発表した「内部文書」には、全国の289の団体や個人の活動状況が記録されていた。
情報収集の対象は市民団体や労組、政党、地方議会、報道機関などで、高校生のグループも含まれていた。文書には、“反自衛隊的”とみなされた議員や記者、ジャーナリストらの実名もあった。反対デモや集会への参加者の写真も撮影していたという。
市民団体などは「自衛隊による国民監視だ」と反発を強めている。
太平洋戦争を経験した世代は、戦争遂行の邪魔になる言論や活動を弾圧した「憲兵」や「特高警察」という言葉を思い浮かべたかもしれない。
情報収集を担当したのは、情報保全隊という部署で、自衛隊の機密情報が漏れるのを防ぐことが主な仕事だ。海上自衛隊幹部によるロシアへの機密漏えい事件をきっかけに、2003年、前身の調査隊を強化して発足した。
防衛省は、外部の不審者と隊員との接触の監視や、自衛隊活動の妨害や施設への襲撃を防止するために必要な情報収集も、情報保全隊の任務としている。
これを踏まえ、今回明らかになった情報収集も「所掌事務の遂行に必要な調査・研究だった」(守屋武昌事務次官)と正当性を主張している。
だが、自衛隊に批判的な活動や言論を個別に調査し、「反自衛隊」だとか、特定の政党の系列とかに色分けするのは、やり過ぎではないか。
調査対象がイラク派遣問題にとどまらず、消費税や医療費負担増に反対する活動にまで及んでいるのも問題だ。本来の任務から逸脱していると言われても仕方がない。
何より、自衛隊は強大な軍事力を持つ組織である。その内部文書に、自分の名が“反抗分子”扱いで記録されるのを歓迎する人はいまい。市民運動や言論にとって大きな圧力となり得る。
イラクへの自衛隊派遣は、世論の反対を押し切る形で行われた、極めて政治的な判断だった。だからこそ、実行組織である自衛隊は、文民統制シビリアンコントロール)の原則を順守し、自らは政治的に中立であるべきだ。
自衛隊は、平和憲法の理念に忠実であったから、多くの国民の信任を得てきた。憲兵特高を想起させる振る舞いは期待を裏切るものだ。
国会では、航空自衛隊イラク派遣を2年延長するイラク復興支援特措法改正案の審議が大詰めを迎えている。
派遣延長が決まる前に、防衛省は、自衛隊の情報活動の在り方と法的権限についてきちんと説明し、国民の理解を得る必要があろう。