安倍氏続投について加藤紘一氏の見解

「逆転」考:衆参ねじれ国会/5 加藤紘一・元自民党幹事長(毎日新聞 2007年8月18日(土))

◇続投判断、傷を広げた
−−安倍晋三首相の続投をどう評価しますか。
◆開票日の夜、極めて早い段階で続投表明を聞き、ん?えぇ?と驚いた。非常に心配になりましたね。(報道機関の)調査では、自民党支持者の4人に1人が民主党に投票した。国民の意思を無視して続投すれば、首相だけでなく自民党そのものがズタズタになってしまう。


−−なぜ自民党は惨敗したんでしょう。
自民党の支持基盤は「地域」なんです。地域社会の中でまとめ役を務めている人たちが、いわゆる保守の人たち。そういう基盤に穴が開き始めた。小泉(純一郎前首相)さんは、「自民党をぶっ壊す」と言ったが、地域を壊す政策をやっちゃった。その影の部分に気づかず、首相が「改革」と言い続けているところにすべての原因がある。それが分からずに続投したら、有権者は「次は衆院選でやっつけろ」となる。


−−安倍内閣が再び国民の支持を得ることは可能でしょうか。
◆ 難しいと思います。一度離れた信頼のきずなはそう簡単には戻らない。選挙で示された民意の受け取りを拒否したわけですから。それは民主主義社会の政治プロセスではやってはいけないこと。「参院選は政権選択ではない」というのなら、安倍首相は「私か、小沢一郎民主党代表のどちらを選ぶか」と選挙で演説しちゃいけなかった。政策評価中間選挙だと言うんならば、「私の政策は支持されている」と言うのはおかしい。矛盾だらけですよ。


−−しかし、党内議論は盛り上がりません。
◆まったくそうですね。もうじき組閣があるからです。誰しもポジション得たいと当然思うし、その手助けをしたいと派閥の長は思う。そうなると今の執行部に歩調を合わせようとなる。


−−ポスト安倍の人材が枯渇しているから、首相は続投できているとの指摘もあります。
◆後継者に誰もいないと言うが、いますよ。皆で談合して「この人だね」っていう人がいないだけです。総裁選をやれば、麻生太郎(外相)さんも額賀福志郎(元防衛庁長官)さんも鳩山邦夫(元文相)さんも、皆出てくると思いますよ。その中で決まった人が一番いい人なんです。


−−秋の臨時国会参院与野党逆転で迎えますが。
◆前例がない。98年の金融国会(参院選後で逆転)では、自由党公明党というバッファー(緩衝材)がありました。


−−当時、民主党菅直人代表は金融問題を「政局にしない」と。
◆ そこは非常に重要なところで、菅さんがそう言ってくれました。しかし、(民主党は)今度は解散に追い込むため、厳しい対応をしてくると思いますね。参院では問責決議の手段があります。(可決されても)法的拘束力はないと言っても、首相への支持とか信用力など、それなりの論理、理屈がなければ乗り切れない。その時に、参院選の結果を拒絶し続投したことが、大きな傷跡として響いてくる。


−−衆院選についてはどう見ていますか。
◆年末か、来年度予算を通した後か。どちらかにはあるんじゃないでしょうか。常に臨戦態勢。後援会にはそう言っています。


【聞き手・小林多美子】