新内閣の顔ぶれ

安倍改造内閣:発足 閣僚はこんな人(毎日新聞 2007年8月28日(火))

◆官房、拉致問題与謝野馨(かおる)(69)[無]
◇税制通、がんから復帰
歌人与謝野鉄幹・晶子夫妻の孫。小泉政権の05年、党政調会長として郵政民営化関連法案を取りまとめた。安倍政権では見識を買われ、党税調会長に就任したが、がん治療のため政治活動を休止、今年4月に活動を再開した。就任の記者会見では「十分療養を重ねたので官房長官の職に耐えうると確信しているし、そのように判断した首相の期待に応えるため全力を挙げたい」と語った。
父秀氏は外交官。中学3年から高校2年までエジプト・カイロで過ごし、「日本人であることを自覚せざるを得なかった」と語っている。東大卒業後、日本原子力発電でサラリーマンを経験後、中曽根康弘元首相の秘書となった。「税制や都市問題で政治の矛盾を肌身に感じた」と、72年に衆院東京1区から立候補したが落選。76年、2度目の挑戦で国政デビューを果たした。
しかし、大平政権が打ち出した一般消費税の逆風で2期目は落選。以後は連続6回当選し、故梶山静六氏(旧竹下派)と懇意にするなどして政策通として頭角を現した。96年の第2次橋本内閣では旧渡辺派所属ながら官房副長官に抜てきされた。
00年の衆院選で落選し、派閥を離脱。今回は町村派出身の安倍晋三首相を無派閥の官房長官として支える。


◆総務、格差是正増田寛也(55)
◇官僚から、改革派知事3期
95年の岩手県知事選で初当選。43歳は当時、史上最年少知事だった。旧建設官僚からの転身には、同県選出で新進党幹事長だった小沢一郎氏(現民主党代表)の強い勧めがあった。父の故盛氏も参院議員を務めた。
在任中は、政策の達成期限・数値目標を公約に盛り込む「マニフェスト選挙」を仕掛け、「改革派」の旗手に。昨年秋「多選は弊害を生む」と4選出馬見送りを表明。安倍内閣が発足させた地方分権改革推進委員会の委員長代理を務める。


◆法務・鳩山邦夫(58)[津]
◇対立、接近繰り返す名家の弟
祖父は鳩山一郎元首相、父は鳩山威一郎元外相、兄は由紀夫・民主党幹事長という名門出身。自民党で文相を務めたが、93年に離党して非自民連立政権に参加。94年の羽田内閣で労相を務めた。96年に由紀夫氏とともに民主党を結党。しかし、兄弟対立から00年には再び自民党に戻った。最近、兄弟で政治塾の設立を検討していることが分かり、自民、民主両党の大連立構想との憶測も呼んだ。チョウの研究や料理など多趣味。妻は元タレントのエミリさん。


◆外務・町村信孝(62)[町]
アジア外交で強硬路線貫く
小泉内閣で約1年間外相を務め、在日米軍の再編問題に取り組んだ。アジア外交では、対中ODA(政府開発援助)削減を提唱、対北朝鮮でも経済制裁発動を促すなど「強硬派」のイメージが強い。
通産省出身で、自民党税調では重鎮の一人。安倍内閣発足に伴い、森喜朗元首相から派閥会長の座を引き継ぎ、内外の政策に加え、政局でも中心的な役割を担う立場になった。趣味はゴルフからチューリップ栽培と多彩。周辺からは「器用貧乏」との声も。


◆財務・額賀福志郎(63)[津]
普天間代替、地元合意に奔走
小泉内閣防衛庁長官時代、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題を打開するため、代替施設に滑走路をV字形につくる案を構想。地元・名護市と自ら調整に乗り出し、06年4月、合意に達した。津島派の衰退で存在感が薄れていただけに、久々の面目躍如となった。
座右の銘は、自らの名前にちなんだ「福志大道」。国民の幸福を求め堂々と歩む決意を表す。同派では数少ない総裁候補の一人。旧小渕派時代からの「万年プリンス」は、ここが正念場だ。


◆厚生労働・舛添要一(58)[無]
◇介護経験から福祉に精通
東大助教授を退職後、国際政治学者・評論家としてテレビなどで名声を高めた。これに目を留めた小泉純一郎前首相が01年の参院選比例代表に担ぎ出し、158万票でトップ当選。今回は逆風のため、得票47万票と3分の1以下に減らしたが、比例代表候補では1位を保った。
評論家時代から舌鋒(ぜっぽう)鋭く、政界転身後も安倍晋三首相の政権運営を厳しく批判してきた。柳沢伯夫厚労相の「女性は産む機械」発言の際には、任命した首相を「裸の王様」とこき下ろし、参院選敗北後の続投表明にも「早すぎる」と苦言を呈した。今回の入閣は予想外とも言え、遠慮のない批判は封印を迫られそうだ。
秩序を重んじる面もある。05年の自民党憲法草案のとりまとめでは、事務局次長として条文作りだけでなく、党内有力者の根回しに奔走した。青木幹雄参院議員会長に重用され、当選1回で参院政審会長に登用される異例の厚遇を受けた。
先の参院選では選挙中に暴漢に襲われて腰を痛め、体内に「置き針」数十本を施してやり抜いた頑張り屋の側面もある。認知症の母親の介護経験から福祉政策にも明るく、厚労行政に「現場感覚」をどう反映させるのか注目される。05年衆院選で「刺客」となった片山さつき衆院議員は元妻。


◆文部科学・伊吹文明(69)[伊]
◇多趣味、プライド高い京男
一昨年の郵政政局で離党者が相次いだ旧亀井派を引き継いで派閥会長に。昨年の自民党総裁選ではいち早く「安倍支持」を打ち出し、主流派入りに導いた。
京都の繊維問屋に生まれ、囲碁や料理など多彩な趣味を持つ。旧大蔵省出身で、蔵相秘書官を経て83年に初当選した。労相や国家公安委員長文科相を歴任した政策通で、党税調幹部として税制改革にも強い発言力を持つ。派内には「プライドが高すぎる」と謙虚さを求める声も。


◆農林水産・遠藤武彦(68)[山]
◇農政一筋、BSE問題で苦労
「地方が良くならなければ、国が良くなるはずがない」がモットー。
大学卒業後、農業、養豚業を営み、山形県庁職員から山形県議に。衆院議員に当選後も農政畑を歩み、農水政務次官、副農相などを歴任してきた。副農相時代には、BSE問題に直面し、心労で円形脱毛症に。現在のトレードマークの坊主頭は、その際にそり上げたものだという。明るい人柄で同僚からは「エンタケ」の愛称で親しまれる。長い苦労が実っての初入閣。


◆経済産業・甘利明(58)[山]
◇商工族、武田武将の末えい
組閣直前の25日にマニラで開かれた日本と東南アジア諸国連合ASEAN)の経済相会合で、経済連携協定(EPA)の最終合意にこぎつけた。新潟県中越沖地震で被害を受けた柏崎刈羽原発の問題でも、安全確認まで運転再開を認めない方針をいち早く打ち出すなど着々と実績を上げている。
商工族で知的財産権がライフワーク。政権と距離を置く山崎派のなかで首相支持を鮮明にしている。先祖は武田信玄重臣だった甘利虎泰


少子化男女共同参画上川陽子(54)[古]
◇「国会で育児支援を」が持論
カップルが希望している子供の数と実際に生むことができる数にギャップがある。希望の人数の2人に近づけたい」
初入閣の記者会見では、2人の娘の母として訴えた。長女を出産後の86年、民間シンクタンクから米ハーバード大学院に留学。米民主党上院議員政策立案スタッフを経験し、議員も職員も平等に使える育児支援制度に感銘。帰国後の90年には次女を出産。0歳児保育も利用したが、日本の育児支援制度の貧弱さを思い知らされた。
初当選した00年の衆院選は小学生の次女を抱えながら戦い、日本でも国会こそが率先して子育て中の議員や職員を支援する制度を作るべきだと痛感した。この経験を生かし、党女性局長として「少子化対策」を重点政策に掲げ、国民から意見を募って政策に反映させる「子どもHappyプロジェクト」をスタートさせた。
当選3回、副大臣も未経験での初入閣は異例の抜てき。女性閣僚を確保するための方策との声もあるが、犯罪被害者等基本法では党のプロジェクトチームの事務局長を務め上げた実績もあり、党内には「即戦力として活躍できる人材」との期待もある。
趣味は「みこしを担ぐこと」。地元・静岡の祭り「夜桜乱舞」が好き。


◆国土交通・冬柴鉄三(71)[公]
◇「自自公」以降の連立支える
弁護士出身で、堅実な仕事ぶりには定評があるが、政局の先々を見抜く先見性も兼ね備えている。関西国際空港の第2滑走路供用開始など「アジア・ゲートウェイ構想」で、首相官邸とのすれ違いもあったが、持ち前の調整力で何とかまとめ上げた。
党が再結成された98年11月から幹事長として、自自公連立以降の政権運営を支えてきた。当時の幹事長仲間である山崎拓二階俊博両氏とは今も太いパイプがある。趣味は陶磁器鑑賞。


◆環境・鴨下一郎(58)[津]
◇「まず社会病理治療」と政界入り
昨年9月の安倍政権発足前には、津島派の入閣候補だったが、同僚の佐田玄一郎氏が行革担当相(辞任)に就任し、涙をのんだ。今回が念願の初入閣となる。
身体疾患を心身両面から治療する心療内科医としてストレスを抱えたサラリーマンを診察するうちに、「現代人の心の病を治すには、まず社会病理を直す必要がある」と決意。93年衆院選日本新党から立候補し、初当選した。新進党を経て97年に自民党入り。「小さな政府」を提唱する。


◆防衛・高村正彦(65)[高]
◇弁護士出身、官僚の信頼厚く
03年に小泉純一郎首相(当時)が再選を目指した自民党総裁選に立候補し、小派閥でありながら54票を獲得して存在感を示した。
外交に明るく、官僚の信頼も厚い。イラクへの自衛隊派遣では、特使として中東各国を訪問し、理解を求めた。日中友好議員連盟会長でもあり、06年4月にはアジア外交重視の政策提言を発表して、小泉政権の外交方針に苦言を呈した。弁護士から国政に転身した理論派。少林寺拳法は四段の腕前。


◆国家公安、防災・泉信也(70)[二]
運輸族、二階氏と二人三脚
運輸官僚出身で、92年に比例代表で初当選。93年の新生党結成に参加後、新進党自由党、保守党と変遷し、03年に自民に復党した。運輸政策に明るく、「観光立国」を進めてきた二階俊博総務会長と長年行動を共にしてきた。
二階派事務総長でもある。自民党各派で参院議員の事務総長は泉氏だけで、二階氏との太いきずながうかがえる。趣味は読書とゴルフ。画廊を回って、美術品を鑑賞するのが心を休ませるひとときという。


◆沖縄・北方、岸田文雄(50)[古]
◇「大宏池会構想」けん引役
祖父、父ともに衆院議員を務めた政治家一家。3代目にして悲願の初入閣を果たした。
森内閣時代には党改革を求める若手グループ「自民党の明日を創る会」に参加し、00年の「加藤の乱」では加藤紘一元幹事長に同調した。その後、加藤氏から離れ、旧堀内派に合流した。旧宮沢派の3派による「大宏池会構想」のけん引役の一人でもある。副文科相、厚生労働委員長などをこなし、今や派閥の「ホープ」。「エース」に育つきっかけをつかんだ。


◆金融、行革・渡辺喜美(55)[無]
◇亡父思わせる弁舌の財政通
昨年12月、事務所費問題で辞任した佐田玄一郎・前行政改革担当相の後を受け「ピンチヒッター」として就任。安倍内閣が「看板政策」に掲げた公務員制度改革を任され、先の通常国会で関連法を成立させた。金融・財政政策に通じ、90年代後半の金融国会で注目を集めた「政策新人類」の一人。父は自民党の故美智雄元副総理。亡父のミッチー節をほうふつとさせるヨッシー節で存在感を高めつつある。旧江藤・亀井派を00年に退会して以降は無派閥を通す。


◆経済財政・大田弘子(53)
◇学者出身、歳出削減を継続
財政学、経済政策が専門。02年に大学教授から内閣府参事官に転じ、04年には女性初の政策統括官に昇格。小泉改革の「司令塔」だった経済財政諮問会議を裏方として支えた。昨年9月の安倍内閣発足で唯一の民間閣僚として経済財政担当相に抜てきされた。竹中平蔵総務相の私的懇談会で座長を務めるなど「竹中人脈」の一人。安倍内閣の「骨太の方針2007」では歳出削減路線の継続にこだわった。鹿児島県出身。焼酎好きの酒豪でもある。


官房副長官・的場順三(72)
◇官邸主導、洞爺湖サミット実現
旧大蔵省出身で安倍晋三首相の経済ブレーン。旧内務省系が慣例だった事務の官房副長官に抜てきされ、官邸主導型のシンボリックな存在だ。来年7月の北海道洞爺湖サミットでは、誘致に消極的だった北海道に働きかけ、実現にこぎつけた。
しかし、中央省庁との政策調整などでは情報集約がうまくいかず「官邸は機能不全」と酷評される一因と指摘された。政府・与党内には今回、交代を求める声も起こったが、首相の強い意向で残留となった。


官房副長官岩城光英(57)[町]
◇地方政治17年、実務豊富な鉄人
福島県いわき市議、同県議、いわき市長を歴任し、全国青年市長会長も務めた。17年間に及ぶ地方政治の実務経験を買われ、県知事候補に推されたことも。与野党が逆転した参院の切り盛りで、官邸と与党を円滑につなぐ役割を担う。
趣味はトライアスロン。市長時代に自転車を活用したまちづくりに取り組もうと思い立ち、41歳からトレーニングを始め、46歳でレースに初挑戦した行動派だ。愛読書は「小説上杉鷹山」(童門冬二著)。


官房副長官大野松茂(71)[町]
◇国会には電車乗り継ぎ通勤
当選4回で官邸入りを果たした。埼玉県狭山市長時代は、徒歩で市役所に通勤した。国会議員になってからも同市内の自宅から電車を乗り継いで国会まで1時間かけて通うなど「自動車に極力頼らない生活」を心がけてきた。
農家の長男。農業高校を卒業し、43歳で県議になるまで農作業に精を出した。党内に農林族は数多いが、実務経験者として一目置かれる存在。趣味はソフトボールで、市ソフトボール協会長も務める。


◆補佐官(拉致問題担当)・中山恭子(67)[無]
◇旧大蔵出身、「拉致」解決に執念
小泉内閣時代の02年から内閣官房参与として北朝鮮による拉致被害者家族の支援を担当。安倍内閣の発足で首相補佐官に抜てきされた。7月の参院選で初当選し、議員として拉致問題に向き合うことになった。
旧大蔵省出身で女性初の課長、財務局長を歴任した。「物腰は柔らかいが、芯は強い」が周囲の評。ウズベキスタン大使時代、キルギスで日本人拉致事件が発生。解放を求めて武装勢力と直接交渉にあたるなど、その行動力には定評がある。


◆補佐官(教育再生担当)・山谷えり子(56)[町]
◇主張は保守的、調整力が課題
保守的な考えが目立ち、安倍晋三首相とは拉致議連靖国神社参拝推進などで行動をともにしてきた。父がラジオ番組を担当していたことから、マスメディアに関心が高く、テレビキャスターや新聞編集長なども務めた。
教育再生会議を担当してきたが有識者委員の意見が割れた際には、調整し切れず、下村博文官房副長官(当時)の助力を仰ぐ場面もあった。留任した今回、改めて政治的な力量が問われることになる。


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※敬称略。各閣僚の名前の次は年齢、囲み文字は自民党の派閥([町]=町村派、[津]=津島派、[古]=古賀派、[山]=山崎派、[伊]=伊吹派、[高]=高村派、[二]=二階派)。[公]は公明党