各紙の社説

社説:内閣改造 安倍カラーより国会重視 瀬戸際状況は変わらない(毎日新聞 2007年8月28日(火))

安倍改造内閣が27日発足し、合わせて自民党三役も入れ替えとなった。参院選で大敗しながら安倍晋三首相が早々と続投を表明してから約1カ月。今回の人事で失敗すれば後がないことは首相自身が十分承知だろう。しかも、「衆参ねじれ国会」の中、今後は民主党など野党との戦いが中心となる。ベテランを配置し、国会論戦に備えるという意図は明確に見える人事だ。
だが、これで安倍政権が浮揚するかと言えば無論、未知数だ。バランス重視の結果、この政権が今後一体、何を目指していくのか、焦点がぼやけてしまった印象も強いからである。
反省すべき点は反省する−−。参院選以来、首相はそう繰り返してきた。昨秋の政権発足時には身内を多く起用し、「お友達内閣」とやゆされ、閣僚の「政治とカネ」の問題も相次いで浮上した。自民党も先の参院選については「国民から指導力、統治能力に疑問を呈されたのではないか」と厳しい総括をしたほどだ。


◇「お友達」は十分反省
そうした反省は生かされたのか。その意味では注目されていた官房長官人事で、「お友達」の代表格だった塩崎恭久氏を代え、無派閥でベテランの与謝野馨氏を起用したのは一種のサプライズだった。与謝野氏は、経済成長と歳出削減を優先し、増税は極力抑えるという安倍内閣の経済成長路線とは一線を画し、財政再建重視派とみられてきたからだ。
首相は与謝野氏が政策に通じていることに加え、そのバランス感覚や、党内に敵が少ない点などに期待したと思われる。官房長官は首相の出身派閥・町村派からの起用も取りざたされていたが、首相は「派閥重視に逆戻りした」との批判を恐れたのだろう。
もちろん、消費税増税をどう考えていくのかなど、目指す経済財政政策に関しては、首相と与謝野氏との間ですり合わせる必要がある。また、これまで安倍内閣霞が関の官僚と対決している姿を演出することで、政権浮揚を図ろうとしてきたが、効果を上げたとは言えない。今回、首相補佐官を減らした点も含め、中央省庁との関係をどう再構築するかも「安倍・与謝野」官邸の課題となろう。
塩崎氏より年長になったとはいえ、与謝野氏も党内に確たる基盤がないという問題もある。麻生太郎幹事長をはじめ、自民党の新三役も同様である。こうした事情を踏まえ、安倍首相が町村派会長である町村信孝氏を外相、高村派会長の高村正彦氏を防衛相、津島派の次期首相候補と言われる額賀福志郎氏を財務相に起用したのは、派閥への配慮があったことは否定できない。
ただ、今回は挙党体制を整えれば済むわけではない。そこに首相の苦しさがある。
臨時国会では、さっそく内閣の命運がかかるとさえいえるテロ対策特別措置法の延長問題が控えている。延長反対の立場を示している民主党に国会でどう対応していくか。外相経験者の高村氏を防衛相にすえたのは国会答弁で行き詰まれば、途端に内閣が瓦解するという危機感からだろう。
参院選後、首相続投批判を繰り返した舛添要一氏を厚生労働相に起用したのも批判勢力を取り込む理由にとどまらず、引き続き大きな焦点となる年金問題などでの「答弁力」に期待したはずだ。増田寛也岩手県知事の総務相起用は、地方分権に精通している点に加え、参院選で指摘された「地方の自民党離れ」を食い止め、地方重視の姿勢を示すためでもあろう。
このほかにも内外の課題は山積している。
外相再登板となる町村氏は小泉前内閣での外相当時、中国などの理解を得られず、日本の国連安保理常任理事国入り構想を進められなかった経緯がある。北朝鮮問題をめぐる6カ国協議では今、日本が置き去りになるのではとの懸念がある。核と拉致問題をどう解決していくのか。現状では道筋がまったく見えていないのが実情だ。
事務次官人事でお粗末な内紛が起きた防衛省には、テロ特措法に加えて、沖縄の普天間飛行場移設問題も控えている。
今回の内閣改造前に政治資金収支報告書を訂正する自民党議員が相次いだことも国民は忘れないだろう。これまでいかに、ずさんな資金管理をしてきたかの表れであり、今回の入閣組の中からも問題が浮上しないとも限らない。その場合、一気に改造内閣の評価は下がることになるだろう。


◇支持率次第で退陣論も
しかし、何より最大の課題は首相自身が何を目指すのか、ということではないだろうか。
首相は記者会見で「美しい国」「戦後レジームからの脱却」路線について、「戦後作られた仕組みを原点からさかのぼって改革していく方針に変わりはない」と語り、教育や公務員制度改革を挙げたが、憲法改正は口にしなかった。これも「生活」を前面に掲げた民主党に負けた反省なのだろう。安倍色は明らかに薄まっている。
世論に謙虚に耳を傾け政策の優先順位を変えることは大いにあっていい。だが、それに代わる新しい「旗」を掲げているかといえばそうではない。これでは「安倍首相でなくても構わない」との声が早晩、与党内からも出てくる可能性がある。人事を経ても安倍政権が瀬戸際の状況にあるのに変わりはないというべきである。
自民党内には次の衆院選を待たずに総裁選を行い、首相交代したうえで衆院解散・総選挙に臨むべきだとの声もくすぶっている。首相の頼りはやはり国民の支持だ。今回の人事を、そして臨時国会での与野党論戦を国民がどう評価するか。支持率が一向に回復しないようだと、退陣要求は再び強まることになるだろう。



社説:改造内閣発足―「脱安倍色」で、さて何をする(朝日新聞 2007年8月28日(火))

安倍改造内閣がようやく発足した。参院選挙での歴史的惨敗から1カ月。退陣を求める民意や自民党内の批判を押し切っての出直しである。
外相、財務相、防衛相などの主要な閣僚や党三役に、派閥の会長をはじめ経験豊かなベテランを多く配した。挙党態勢づくりに腐心したとも言えるが、何よりも首相の続投に対する党内の批判を封じ、出直し安倍政権の船出をスムーズにするのが目的だったのだろう。
来年の洞爺湖サミットの準備などに当たる外相には町村元外相、財政再建の重荷を背負う財務相に額賀元防衛庁長官、テロ特措法の延長などを抱える防衛相には高村元外相をそれぞれあてた。


●薄れる首相の存在感
昨秋の党総裁選で対立した谷垣禎一財務相の派閥からは、今回も入閣者はゼロだった。だが、それ以外の派閥からはまんべんなく起用した。選挙後、首相の続投を批判した舛添要一参院政審会長を厚生労働相に起用したのも、党内融和への配慮と見られる。
一方で、前内閣から留任した閣僚は甘利経産相ら5人もいる。「人心を一新したい」と大見えを切ったわりに、新鮮味を欠くのは否めない。
党内外の批判を浴びた「お友だち」からの起用は、党幹事長代理から登用した石原伸晃政調会長と、留任した渡辺行政改革担当相くらいにとどめた。
美しい国」「戦後レジームからの脱却」をはじめ、首相と同じ思想信条で結ばれた中川昭一政調会長高市沖縄・北方相らは、はずれることになった。官房長官、政務の副長官、首相補佐官らの官邸スタッフも一部を残して入れ替わり、売りものにしてきた「チーム安倍」は解体された。
党の実力者を結集したことで、首相自らの存在感が薄れるのは避けられない。だが、現在の窮地から脱して出直し政権を軌道に乗せるには、プライドや安倍カラーなどにこだわっている場合ではない。そんな危機感が、閣僚や党役員の顔ぶれからくっきりと浮かび上がる。
教育再生公務員制度改革で担当閣僚を留任させたことで、なんとか「安倍色」継続への思いをにじませた。


●新しい目標を語れ
とはいえ、「第2幕」を迎えた安倍内閣が反転攻勢のチャンスをつかみたいなら、内向きに首をすくめるだけでは世論の支持は期待できまい。
首相にとって大切なのは、この人事の先にある「次の一歩」である。
選挙の惨敗を受けて、首相は「反省すべきは反省する」と語った。ならば「反省」の中身は何なのか。安倍カラーを脱するのは賢明だが、ではこの改造内閣で目指す新しい政策目標は何なのか。首相はそこを明確に語らなければならない。
その意味で、増田寛也・前岩手県知事を民間から総務相に起用したことに注目したい。地方分権や都市と地方の格差是正などを担当する特命相も兼ねる。
増田氏は「改革派知事」として補助金廃止や自治体への税源移譲を求める旗を振り、安倍政権でも地方分権改革推進委員会の委員長代理などを務めてきた。
分権改革には霞が関の役所の抵抗が強い。増田氏が補助金の半減、地方交付税の抜本改革といった持論を貫こうとすれば、政府内での衝突は必至だろう。公共事業や地方への補助金の削減に反対が強い自民党ともぶつかるに違いない。これをだれが支え、政権の新たな看板にしていくのか。
内閣の要である官房長官にベテランの与謝野元経済財政相をあてたのは、「少年官邸団」などと揶揄(やゆ)された首相官邸スタッフの強化が一つの狙いだろう。
だが与謝野氏は、首相と中川秀直前幹事長が主導してきた経済成長重視の「上げ潮戦略」に財政再建を頼ることには懐疑的だった。与謝野氏が霞が関、とりわけ財務官僚の厚い支持を得てきたのはそうした面もあってのことだ。
与謝野氏の起用は、安倍政権の経済政策の路線を変えることにつながるのか。秋からの税制改革論議では、消費税の税率アップ問題が焦点になると予想される。額賀財務相ら経済閣僚を含め、どこが司令塔になるのか。


民主党との総力戦
首相の経験不足や求心力の乏しさを補うのが、今回起用されたベテラン組に求められる役割だろう。懸案のテロ特措法の延長をはじめ、こうした政策課題をめぐって、新陣容の総力が試されることになる。
首相はきのうの記者会見で、「政治とカネ」の問題で閣僚らに疑惑が発覚した場合、「十分な説明ができなければ去っていただく」と述べた。当然のことであり、記憶にとどめておく。
これからの国会は民主党など野党との折衝が死活的な重要性を持つ。これまでのように、与党の数の力を頼んでの強引な政治はやりたくてもできない。
その最前線に立つのは麻生太郎幹事長、石原政調会長二階俊博総務会長ら党側の幹部たちだ。参院選後、いち早く首相の続投を支持した面々でもある。
だが、新三役はいずれもこれまで内閣や党の要職にいた人を、いわば「席替え」したに過ぎない。これで、先の通常国会での乱暴な国会運営を「反省」したことになるのか。これでは、民主党など野党側も態度を硬くせざるを得まい。
民主党は31日に役員人事を行い、小沢代表を支える執行部体制を手直しする予定だ。対するは、ベテランを動員して総力戦の陣容で臨む安倍政権。いよいよ2大政党ががっぷり四つに組む舞台の幕が開く。



社説:安倍改造内閣 必要な政策の遂行に邁進せよ(読売新聞 2007年8月28日(火))

新体制の下での、安倍政権の再出発である。安倍首相にすれば、視界不良の荒波の中を、改めて航海に出る思いだろう。前途は、多難だ。
安倍改造内閣の狙いは、明白だ。次期衆院選に向けて、先の参院選での歴史的大敗で大きく揺らいだ政権を立て直し、求心力を回復する。与党が過半数割れした参院で第1党となった民主党との政策の主導権争いに対処する……。その態勢の構築だ。
自民党の要である幹事長に就任した麻生前外相は、安倍首相と政治理念や基本政策が共通し、参院選大敗後、いち早く首相続投を支持した。自民党内になお安倍首相への不満がくすぶる中、信頼する麻生前外相の幹事長起用は、政府・党一体の態勢を作る狙いだろう。
今後、民主党との政策調整の責任者となる石原伸晃政調会長は、1998年秋の臨時国会民主党とも協調して金融危機に対処し、「政策新人類」と言われた。二階俊博総務会長は、かつて小沢民主党代表と長く政治行動を共にし、民主党内にも太いパイプを持つ。
衆参ねじれという新たな政治構図の下で政策を推進するには、出来る限り、民主党の協力を得る必要がある。自民党執行部の主要人事は、民主党との調整も重視した布陣と言える。
政権を担当する以上、政治状況がどうあれ、必要な政策は着実に遂行しなければならない。


◆重要な民主党との調整◆
改造内閣では、「お友達内閣」「論功行賞内閣」などと揶揄(やゆ)された陣容は、大きく変貌(へんぼう)した。挙党体制作りにも一定の配慮をしつつ、派閥領袖(りょうしゅう)を含め、実績、能力のある人材を起用したことに、政策に取り組む「仕事師内閣」として邁進(まいしん)することを目指す意図は見える。
内閣の要の官房長官に起用された与謝野馨・元経済財政相は、党内有数の政策通だ。内閣のスポークスマンとしてだけでなく、政府内や政府・与党間の政策調整に中心的な役割を果たすことへの期待がうかがえる。
外交・安全保障では、北朝鮮の核をはじめ日本の安全保障環境の悪化に対処するために、日米同盟を強化しなければならない。
国際社会の責任ある一員として、国際平和協力活動に積極的な役割を果たす上で、11月1日で期限切れとなるテロ対策特別措置法の延長は、秋の臨時国会の焦点ともなる、当面の最重要課題だ。
いずれも派閥領袖である町村信孝・元外相を外相に、高村正彦・元外相を防衛相に、それぞれ起用したのも、そうした課題の重要性を踏まえたものだろう。


◆強化すべき危機管理◆
安倍首相は、「改革や新経済成長戦略は引き続き進めていかねばならない」と言う。甘利明経済産業相大田弘子経済財政相の留任は、政策継続の意思を示すものだ。経済力が日本の国力の基盤である以上、当然である。
自民党内には、地域格差や雇用格差など、小泉前首相の構造改革の負の側面が参院選大敗の一因だったとし、その修正を求める声がある。今後、来年度予算編成に向け、地方への予算配分増など、自民党内の圧力が強まる可能性がある。
格差是正も担当する総務相増田寛也・前岩手県知事を起用したことに、地方分権などと併せ、地方対策を強化する狙いもうかがえる。次期衆院選に向けた対策という側面もあるのだろう。
だが、行き過ぎた構造改革の一定の「修正」は必要だとしても、それが「迎合」になってはなるまい。改革の停滞や後退、ましてバラマキになるようなことがあってはならない。
先の自民党参院選総括では、前内閣で相次いだ閣僚の事務所費問題や失言に対する安倍首相の対応の甘さを指摘し、今後の内閣に、危機管理能力の強化を求めている。
安倍改造内閣として、当然、留意すべきことだ。だが、今後の危機管理は、単に個別の閣僚の「管理」にとどまるものではあるまい。厳しい政権運営、政策対応を余儀なくされる状況の下では、政権運営イコール危機管理という意識で臨むことが必要になる。


◆混乱すれば大連立も◆
今後、改造内閣が順調に動き出し、安倍首相の自民党内での求心力が回復しても、さらに次期衆院選で与党が過半数を確保して政権を継続しても、展望が開けるわけではない。参院での与党過半数割れ民主党第1党という構図には、何の変化もないからだ。
しかも、こうした状況は、6年後の次々期参院選以降、10年近くもの間、続く可能性がある。
この間、自民、民主両党の競合、対立によって、国政の停滞と混乱が続くようなことになれば、日本の国益が大きく損なわれかねない。国民生活にも重大な影響を与える。
外交・安全保障は無論、国内政策では、財政再建、年金をはじめとする社会保障制度の再構築、財源としての消費税率引き上げを中心とする税制改革など、緊急に取り組むべき課題が山積している。
自民党内には、こうした課題に対処するために大連立も必要ではないか、とする声もある。国政運営が混乱したりすれば、そうした声が一層、強まることもありうるのではないか。



【主張】内閣改造 総力挙げ改革路線貫け ねじれ国会へ重厚な布陣だ(産経新聞 2007年8月28日(火))

政権の立て直しに、派手さよりも手堅さを重視した布陣といえよう。
改造内閣自民党新三役の顔ぶれからは、がけっぷちの安倍晋三首相が何とか踏みとどまり、与党内に幅広く人材を求めながら、改革路線を継続していこうという決意が読み取れる。
参院選大敗から約1カ月を経て、内閣支持率や首相の求心力に回復の兆しはまだない。人心一新をもってしても、厳しい再出発であることに変わりはない。


◆ベテラン起用で安定感
首相は改造を機に、新しい国づくりを再スタートさせると述べた。参院選1人区の惨敗などを背景に、与党内では地域間格差への対応を求める圧力が強まっている。首相の基本路線に揺らぎがあってはならない。もしそうなれば、続投の意義は失われる。
主要閣僚では、内閣の要役となる官房長官塩崎恭久氏から与謝野馨通産相に代えたほか、外相に町村信孝、防衛相に高村正彦の両元外相を起用し、内閣の危機管理や外交・安全保障担当にベテランを配置した。
安倍内閣発足後、事務所経費や失言などで閣僚が辞任する度に、首相や内閣官房の対応のまずさが指摘され、参院選にも悪影響を及ぼした。
与謝野氏は組閣後の会見で、「地味でも着実に仕事をしていく」と基本姿勢を述べたが、若い首相を支える観点からも、政策通で党務にも通じたその手腕が期待される。
日米同盟の維持、強化を図りながら「価値の外交」「主張する外交」を継続する意味で、外相経験のある町村、高村両氏の起用は安定感を与える。秋の臨時国会では、テロ対策特別措置法の延長が焦点となるが、それを見据えた人事ともいえよう。
政策通で「族議員」でない舛添要一氏を、年金問題などの対応が急務となる厚労相に起用したのも人事の柱の一つだ。公然と首相批判を展開していた人物を登用した意外性もある。
全体としては、町村、高村両氏や額賀福志郎財務相の起用に象徴されるように、各派の領袖クラスを閣内に取り込むことなどで挙党態勢を図った。
派閥の均衡うんぬんよりも、要所にベテランを置くことで、若さと稚拙さが同居していた前内閣の印象を拭(ぬぐ)うねらいがあったと受け止めたい。


◆力点置いた「対民主党
自民党三役人事では、外交政策などで首相と政治路線が重なり合う麻生太郎氏を、党再生の先頭に立つ幹事長に起用した。総務会長には、国会運営や選挙対策に通じ、かつて新進党時代に民主党小沢一郎代表と行動を共にした二階俊博氏を充てた。政調会長には、平成10年の「金融国会」で、金融再生関連法をめぐり民主党との協議にあたった石原伸晃氏を起用した。
3氏とも、参院第一党となった民主党との政党間協議に取り組む考えを示しており、衆参のねじれ現象に対応して政策運営にあたるシフトだ。
もっとも、民主党の小沢代表は話し合い路線はとらず、徹底して安倍政権を弱体化させ、解散・総選挙に追い込む戦術をとるものと予想される。
その意味で、与野党協議の態勢は組むにせよ、重要な政策、法案で政府・与党が譲れない点については、ベテラン閣僚が明確に答弁し、必要な反論を行うことが重要である。
テロ特措法の延長に民主党が反対を表明していることについて、町村氏が就任早々、民主党は方針を転換すべきだと主張したのは適切である。
民間人の増田寛也岩手県知事を総務相に起用し、地方対策重視の姿勢も示した。地方分権に取り組み、改革派知事と呼ばれた人物だが、担当分野の広い重要閣僚に抜擢(ばってき)したのは注目される。問題は、地方重視を名目に、公共事業を通じた対策に与党内の関心が集まっていることだ。
厳格な財政再建路線に立つ与謝野氏が閣内に入り、石原政調会長は従来型の公共事業による地方対策は効果が薄いと明言する。しかし、麻生幹事長や二階総務会長を含め、公共事業に一定の効果を期待する意見は多い。
憲法改正への取り組みなど、新しい国づくりを含む構造改革路線を貫けるかどうか、参院選大敗への反省という文脈で安倍首相は進むべき道をあいまいにしてはならない。



【社説】ぬぐえるか手遅れ感 安倍改造内閣が発足(東京新聞 2007年8月28日(火))

高揚感というよりも後のないがけっぷち感が先に立つ。安倍改造内閣が発足した。要所をキャリア豊富な人で固める。が、悪循環は断ち切れるか。そこが問題だ。
いずれのメディアの世論調査も、「内閣支持せず」が優に60%を超えていた。参院選の与党の惨敗からもう、ひと月近くたっている。
その間に、政権の求心力の陰りをうかがわす防衛省人事の内輪もめ、そして主要閣僚の事務所費問題にまたも火がつく事態も起きていた。
失敗したら終わり−こんな解説がワイドショーの“にわか評論家”からも語られた。締まりのなさと切迫感。それが入り交じる中での内閣改造自民党役員人事であった。


自分を除く「人心一新」
安倍晋三首相は人事断行にあたって「反省」と「改革続行」を旗印にした。参院選の歴史的惨敗にも「基本路線は支持された」と続投した以上は、よほどの大義名分がなければ自分を除いての「人心一新」など世間に通用するはずがない。
幾人もの閣僚交代を余儀なくされた、これまでの任命責任を痛感してのことだろう。「反省」は閣僚の人選に事前の“身体検査”で時間をかけたことにも表れている。
総務相から官房長官への起用も取りざたされた菅義偉氏は党の選挙対策総局長へ転出、自主申告で難を認めたとされる二階俊博氏は国対委員長から官房長官などへの入閣はかなわず総務会長で処遇された。
二階氏は党内各派との良好な関係に持ち味がある。「党内治安」を期待されての三役入りであった。
党を表で仕切る幹事長には下馬評通り外相の麻生太郎氏が就いた。早期の衆院解散に追い込まれたときの選挙向けということでもある。
内外に意外感のあるのが石原伸晃氏の政調会長起用だ。首相の友人の一人で、かつての政策新人類。参院過半数の野党との政策調整が託される。党は守りの布陣となった。


手堅いが新鮮味乏しく
「改革続行」は、総務相に改革派知事で知られた増田寛也氏の起用、伊吹文明文部科学相渡辺喜美行革担当相、甘利明経済産業相大田弘子経済財政相らの留任に、首相の思いを読み取ることができる。続けたいのは、分権、教育、行革、成長路線ということなのだろう。
内閣改造のポイントとなった官房長官、直面する九月臨時国会で焦点になるテロ対策の特別措置法延長を抱える防衛相と外相、さらに財務相に、それぞれベテランや派閥領袖クラスを配置している。
年金問題厚生労働相に首相続投を厳しく批判した参院自民の政審会長舛添要一氏を起用したのは、「お友だち内閣」と批判された学習効果がしのばれて、わかりやすい。
主要閣僚は入れ替えて重厚さを感じさせるが、目新しさに欠けるのは「かつての自民党内閣」復活の印象が否めないからだ。
官僚を束ねられない的場順三官房副長官が引き続きその職にある、として、不満を隠さない議員も多い。
官房長官与謝野馨氏はかつて官僚に近すぎると指摘された。病み上がりの懸念もある。財務相額賀福志郎氏には二度閣僚を途中辞任した「ツキのなさ」がつきまとう。
町村信孝外相、高村正彦防衛相は思想的にタカ派とされるが、首相の外交姿勢や復古調の歴史認識といささか趣の異なるものがある。
対米・対アジア関係や、歴史観で閣内一致は保たれるのかどうか。万一、テロ特措法延長をめぐって内閣が混乱するようなことになれば政変にも発展しかねない。そんな不安を改造内閣は抱える。
首相と思想的に極めて近く、政調会長から重要ポストでの入閣を取りざたされていた中川昭一氏は、なぜか人選に漏れている。
新内閣の売り物だったはずの五人の首相補佐官は二人を残して事実上の解散状態らしい。論功行賞の内閣発足時人事が十分な説明や総括のないまま修正された格好だ。首相の手がける人事に一貫性が欠けては、みんなが戸惑うだろう。
この組閣にあたって首相の唱える「戦後レジーム(体制)脱却」はどこまで意識されたのか。首相はこの顔ぶれでいったい何を志すのか。新閣僚の記者会見でも、そのへんはさっぱり聞けずじまいであった。
首相は記者会見で「美しい国、新しい国づくりに取り組んでいく」と力説した。クギを刺しておきたい。先の参院選で問われたのは首相の資質、統率力の欠如でもあった。内閣の顔ぶれを変えても、そこを不問にしては政権再浮揚など考えにくい。


行き詰まったら解散を
改造人事後の記者会見で首相は述べた。「政策の実行力に力点を置いた。適材適所で人事を行った」。はじめからそうしていれば、また別の展開があったのかもしれない。いまさら、の手遅れ感がある。
これをどうぬぐうか。ぬぐえず行き詰まれば総選挙で信を問うしかない。それでも選挙を避けるなら、党の参院選総括が答えを出している。
「自分の起こした問題を説明できなければ、自ら辞める覚悟を」と。



社説 後がない安倍改造内閣の活路は改革(日本経済新聞 2007年8月28日(火))

安倍晋三首相が改造内閣を発足させた。7月の参院選で惨敗し、与党が参院過半数を大きく割り込む中での背水の陣である。改造内閣は挙党態勢を意識し、与党の結束を重視する布陣となった。集団的自衛権憲法解釈変更など安倍カラーの強い政策は当面棚上げするほかない。参院で第一党となった民主党と粘り強く話し合い、財政改革や行政改革規制緩和を着実に進めて経済の持続的成長を図ることが安倍政権の最大の使命である。


人事能力問われた首相
参院選での自民党の主要な敗因に安倍内閣の閣僚の相次ぐ失態が挙げられる。事務所経費問題で不明朗な点を指摘されても説明責任を果たせない閣僚や有権者の神経を逆なでする発言をする閣僚が後を絶たなかった。事務所経費問題を追及されていた松岡利勝農相(当時)の自殺は極めて衝撃的だった。
安倍首相の任命責任が厳しく問われたのは当然である。問題は閣僚の失態が明らかになったにもかかわらず、安倍首相が閣僚をかばい続けたことで傷口を大きく広げたことである。迅速な対応を怠ったために安倍首相や首相官邸の危機管理能力にも疑問が呈されるようになった。閣僚を定期人事異動のように頻繁に変えるのは好ましくないが、不適格な閣僚を更迭することに躊躇(ちゅうちょ)してはなるまい。
今回の改造で安倍首相は時間をかけて慎重に人選を進めた。首相就任時の組閣が総裁選での論功行賞人事に偏り、「お友達内閣」との批判もあったことを踏まえ、今回は広く党内から人材を募る挙党態勢を意識した人事となった。安倍内閣自民党の置かれた厳しい政治状況を考えれば、党内結束を最優先するのは当然だろう。
自民党三役人事では幹事長に麻生太郎氏を据えた。麻生氏は安倍首相と政治理念が近く、参院選開票日にいち早く首相続投支持を伝えるなど個人的にも親しい関係にある。半面、党運営の力量は未知数である。政調会長に起用された石原伸晃氏も清新さはうかがえるが、力量には不安がある。党内とりまとめや国会対策などで総務会長に昇格した二階俊博氏の調整手腕に依存するケースが増えそうである。
内閣の要である官房長官には与謝野馨氏が起用された。とかく安定感に欠けると指摘されていた首相官邸の機能を取り戻すため政策通で調整力のあるベテラン議員の起用となった。年金問題社会保険庁解体を担当する厚労相には舛添要一氏、テロ対策特措法の延長問題を抱える防衛相には高村正彦氏が就任した。ともにがたついた省内の立て直しが当面の課題になる。
来年の「洞爺湖サミット」をにらんで外相には町村信孝氏、環境相には鴨下一郎氏が起用された。首相が重視する財政改革、経済成長戦略を担う財務相には額賀福志郎氏が就任し、経済産業相と経済財政担当相には甘利明氏と大田弘子氏が留任した。今回の組閣で目立つのは党内の有力ベテラン議員の起用である。
改造の目玉は地域の活性化を重視し、総務相に民間から改革派知事として定評のあった増田寛也岩手県知事を起用したことである。これは参院選惨敗の要因の1つに改革に取り残された地方の格差に対する強い不満があったことを踏まえたものとみられる。
地域活性化のカギはばらまき行政ではなく、地方分権と規制改革の推進である。増田総務相には地方分権道州制推進で閣内の議論を積極的にリードしてほしい。
許されない改革後退
改造人事を通じて安倍首相の今後の政権運営の意図がうかがえる。従来の安全保障、憲法改正、教育改革重視から経済成長戦略、年金対策、地域再生重視への軌道修正である。これは参院選惨敗の結果を踏まえれば当然の帰結である。大きく離れた有権者の支持を取り戻すには内政重視の姿勢を示し、自民党立て直しのために挙党態勢を演出する必要に迫られたといえよう。
参院選で惨敗した安倍内閣にはもう後がない。内閣支持率も低迷している。参院では野党が多数派となり、テロ対策特措法の延長もメドが立たない状況である。衆院ではなお3分の2以上の多数を与党が占めているとはいえ、秋の臨時国会や来年の通常国会の運営は極めて苦しく、いばらの道が予想される。
安倍内閣に活路があるとすれば、改革の手を緩めることなく、景気を着実に回復軌道に乗せて持続的な経済成長を実現することである。地域の再生も究極的には経済成長を通じて実現されるものである。安易なばらまきによって改革を後退させてはならない。有権者の信頼を回復するには安倍首相が改革継続へ揺るぎないメッセージを内外に示し、これを実行することである。



社説:安倍改造内閣 地方の格差是正に全力を挙げよ(愛媛新聞 2007年8月28日(火))

七月末の参院選惨敗を受け安倍晋三首相は内閣改造自民党役員人事に踏み切った。
昨年九月発足した安倍政権にとり初の全国規模の国政選挙だった参院選で「不信任」というべき審判を受けた。それから一カ月近くたってようやく新態勢が整った。
「反省すべきは反省し、人心一新を図る」と首相は繰り返してきたが、首相の求心力低下は否めない。政権をどう立て直すかが注目される。
内閣改造に先立つ党役員人事では、幹事長に麻生太郎氏が起用された。政調会長石原伸晃氏、総務会長の二階俊博氏を合わせ三役はいずれも有力派閥でない点が特徴だ。思い切った布陣ともいえるが、挙党態勢を築けるかどうかが問われる。
自民党にとっても官邸にとっても連携強化はこれまで以上に重要な課題となる。衆院解散・総選挙を視野に入れる必要があり、与野党逆転となった参院などの国会対応を考え併せると、なおさらだ。
内閣の要である官房長官与謝野馨氏を起用したのも、その事情がみてとれる。ともすれば党と官邸との連絡調整がおろそかになった前内閣の教訓から、与謝野氏の調整力が新内閣のカギを握るだろう。
新閣僚は全体に新味や強力さをアピールする布陣とは言いにくい。経験者を多く登用するなど重厚さに腐心している。前内閣で首相側近を重用した「お友達内閣」との批判を踏まえた反省の表れだが、一方で、個性をなくす恐れもはらんでいる。
こうしたなかで、「地方・都市格差是正担当相」を新設し、総務相との兼務で前岩手県知事の増田寛也氏を、年金記録不備問題を抱える厚生労働相舛添要一氏をそれぞれ起用したのが目を引く。
地域間格差年金記録不備など生活密着の課題は参院選での惨敗の大きな要因になった。首相が重要視するのは当然だ。
とりわけ格差問題は大都市と地方、大企業と中小零細などの間で急速に拡大している。政策的な対応を急ぐべき課題だ。改造後の会見で、安倍首相は「中央と地方の格差問題で敗北した点を教訓に、地域活力を回復するよう政策に反映したい」と最重視する姿勢をみせた。
格差是正担当相を設けたのも意気込みの表れに違いない。形だけのものに終わらせず、実効を挙げる必要がある。
年金問題も大きな焦点だ。記録が宙に浮いた五千万件の照合作業は始まったものの、年金制度への国民の不安と不信はなおぬぐえていない。記録問題の解決とともに制度の抜本的改革に取り組むべきだ。
政治とカネをめぐる政治姿勢も懸案だ。組閣にあたって事務所費問題はチェックしたとみられるが、もし疑惑が浮上すれば厳格に臨まねばならない。
なにより首相は閣僚に対する自らの指導力が厳しく問われたことを再認識すべきだ。前内閣のときのような優柔不断ぶりでは国民の信頼は回復できないことを、肝に銘じるべきだ。



社説:安倍改造内閣 今度こそ強い指導力を/「沖縄の課題」解決忘れずに(琉球新報 2007年8月28日(火))

安倍改造内閣が発足した。
自民党が歴史的惨敗を喫した参院選から間もなく1カ月。内閣の支持率は、低迷のトンネルに入ったまま回復の兆しが見えない。加えて安倍晋三首相の党内での求心力は減速著しく、目を覆うばかりである。
今回の改造はこうした中で断行された。安倍首相にとっては、足元が揺らいだ政権の立て直しに向け、政権の命運を懸けた人事の刷新である。
年金問題や政治とカネの問題など山積する課題への対応を誤るようなことがあれば、今度こそ国民は間違いなく政権を見限る。首相にはもはや後がない。政権を支える新閣僚らも同様だ。


痛みへの目配り
安倍政権はいま、正念場に立たされていることをしっかり肝に銘じてほしい。そして国民が求める要望、期待などへの目配りを忘れないでほしい。さらに痛みを訴える声などに対しても、配慮が十分に行き届いた政権運営を常に心掛けてもらいたい。
内閣改造の前に行われた自民党三役人事では、選挙対策など党運営の要となる幹事長に麻生太郎前外相を起用したほか、政策立案を担う政調会長石原伸晃氏、党内をまとめる総務会長には2階俊博氏を充てた。
新閣僚の顔ぶれは、冬柴鉄三国土交通相ら5人が留任し、初入閣は民間から起用し総務相兼任で新設の地方・都市格差是正担当相に充てた増田寛也・前岩手県知事ら7人で、官房長官与謝野馨前経済財政担当相ら5人は再入閣組だ。
党内外から批判を浴びた側近重用による「お友達内閣」の色彩を一掃できるかが焦点だった。
町村信孝外相、高村正彦防衛相、留任した伊吹文明文部科学相ら各派閥の領袖を重要閣僚に配置。経験豊富な実力者を並べ、重厚な布陣を敷いた形となった。
首相は組閣に際し、前回に比べて相当に頭を悩ませたのかもしれない。閣僚の不祥事などへの対応を中心に危機管理能力を欠いたことが厳しく指摘され、挙党一致を求める党内の意見に配慮せざるを得なかったからだ。
しかし、挙党態勢は国民の目には「派閥均衡」と紙一重だ。「先祖返り」したと批判されかねない。人心一新を強調した手前、清新さも必要だし、小泉純一郎前首相ばりの「サプライズ」とはいかないまでも、なんとか安倍カラーをにじませたい。あれやこれや腐心したのではないか。
増田氏の起用や、年金問題を担当する厚生労働相に首相の対応を批判してきた舛添要一氏を抜てきしたことなどが、首相が国民に示した回答の一つと見ることができる。
疲弊した地方の活性化、地域間格差への対応については、自民党参院選総括委員会が敗因などを分析した報告書でも「構造改革の痛みの先にあるべき将来展望を示せず、地方の反乱が広がった」と指摘された。


隔たりを埋めよ
沖縄担当相には岸田文雄氏が就いた。沖縄相は、米軍基地問題をはじめ、将来を見据えた振興開発の在り方、経済の自立的発展に向けた諸施策の展開など解決すべき課題は数多い。
岸田氏は就任の記者会見で「自立型経済の構築に向けた取り組みを進めたい」と述べた。在沖米軍基地問題への対応では「沖縄県民の負担が少しでも軽減されるよう」全力を尽くす考えを明らかにした。
県民の声に耳を傾け、沖縄が抱える諸問題の解決に真摯(しんし)な対応を求めたい。
米軍再編問題の中核である普天間飛行場の返還・移設問題は、県民が望む形で道筋を付けたとは言い難い状況だ。仲井真弘多知事が公約した普天間飛行場の3年内の閉鎖状態にも程遠い。
名護市辺野古海域の環境影響評価(アセスメント)をめぐっては、国はアセス方法書を一方的に送付した。政府の強硬な姿勢は、県や県民の意思とは隔たりがありすぎることに思いをいたすべきだ。
岸田氏は、国が県や地元の頭越しに先走りをする場合などには、政府や防衛省をいさめるぐらいであってほしい。
秋の臨時国会が来月中旬には始まる。政権交代民主党の攻勢が一段と強まるのは確実だ。
新体制はどんな政策課題を示し、論戦を挑んでいくのか。多くの国民が注視している。



社説:安倍改造内閣 重厚な布陣生かせるか(中国新聞 2007年8月28日(火))

七月の参院選大敗を受け、安倍晋三首相の命運を懸けた改造内閣が、きのう発足した。国民から事実上の不信任を突き付けられたにもかかわらず、続投を決めた安倍首相。主要閣僚に派閥会長やベテランを据えるなど、「重厚な布陣」を敷いたといえる。それだけに首相のリーダーシップが問われる。「改革」のひずみや痛みに対し、どう立ち向かっていくのか。
注目されたのが、内閣の要になる官房長官のポストだ。「お友達内閣」とやゆされた前内閣のシンボル的存在だった塩崎恭久氏(56)が退任。代わって文相、通産相や党政調会長を歴任し、政策通として知られる与謝野馨氏(69)を起用した。


調整能力に期待
首相の女房役ともいわれる官房長官は、気心の知れた首相の出身派閥から選ぶケースが多い。塩崎氏に対する首相の信任は厚く、一時は留任するとみられていた。しかし、交代を求める党側の意向が強く、無派閥ながら調整能力に定評がある与謝野氏を選んだ。重鎮を担ぎ出すしかないほど、官邸が危機的な状況にあるとも受け取れる。
主要ポストでは、外相から党幹事長に転じた麻生太郎氏(66)の後任に、元外相の町村信孝氏(62)が就任。来年七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)を担う。財務相には元防衛庁長官額賀福志郎氏(63)、テロ対策特別措置法の延長や在日米軍再編問題を抱える防衛相には経企庁長官、外相、法相など閣僚経験が豊富な高村正彦氏(65)を充てた。高村氏には、地元である岩国基地への米軍再編に絡む空母艦載機の移設計画について、住民の視点に立った対応を探ってほしい。
町村、高村両氏はともに派閥会長を務め、額賀氏も津島派の会長代理。改造前とは一転して、派閥の実力者を取り込んだ重厚な態勢といえる。当選回数は首相より多く、政治経験も勝るとも劣らない。その力をどう使いこなしていくか。
社会保険庁による年金記録のずさんな管理問題や労働法制見直しなど難問が山積する厚生労働相に起用された舛添要一氏(58)。首相への歯に衣(きぬ)着せぬ発言で国民の支持を得たが、行政手腕は未知数だ。被爆者の高齢化が進む中で、原爆症認定基準の見直しも急がれる。
改革の影の部分といえる都市と地方の格差も新内閣の大きな課題だ。「改革派知事」として知られた前岩手県知事の増田寛也氏(55)を総務相に抜てき。疲弊が進む地方の活性化や分権推進が期待される。初入閣組では岸田文雄氏(50)が沖縄北方担当相に就任した。
留任した閣僚は、伊吹文明文部科学相(69)、甘利明経済産業相(58)ら五人。首相が目玉としてきた教育再生や歳出削減などの改革を進めるため、継続性を重視した結果だろう。
ただ、サプライズもあった小泉内閣の二回の改造時に留任した閣僚(担当換えを含む)はいずれも六人で、今回は一人少ないだけ。党内から「新鮮味がない」との批判がある。「人心一新」の掛け声と裏腹な印象がぬぐえない。


「お友達」色残る
首相は党役員人事で、ポスト安倍に意欲を燃やしながら、参院選後いち早く首相続投支持を打ち出した麻生氏を幹事長に起用。政調会長には首相に考え方が近いとされる石原伸晃氏(50)を充てた。党人事の方は逆に「お友達」色が強まったようにも見える。
内閣改造後の記者会見で、首相は「閣僚の不適切な発言や政治とカネの問題、年金の記録問題で失われた信頼を取り戻すために、新しい内閣のメンバーで全力を尽くす」と表明。「適材適所の強力な布陣をつくった」と胸を張った。
参院選で示された民意を、この内閣でどのように実現していくのか。国民が求めているのは、言葉を裏付ける実行力である。



社説:安倍内閣改造 続投理由が分からない(秋田魁新報 2007年8月28日(火))

深く憂慮せざるを得ない。内閣改造自民党役員人事という新たな船出に至っても、肝心の安倍晋三首相の続投理由がよく分からないからである。
先の参院選で安倍首相は指導力の面でも政策の面でも国民から「ノー」を突き付けられた。それは自民がまとめた「参院選総括報告」でも明らかだ。
もし引き続き政権を担うというのなら、この民意よりはるかに大事で、かつ国民が十分納得できるような根拠や理由がなければならないはずである。
参院選からほぼ1カ月。安倍首相はそれを国民に提示し得ただろうか。昨夜の内閣改造後の会見でも反省点を幾つか挙げていたとはいえ、説得力のある説明があったとは言い難い。
安倍首相の国づくりへの熱意を評価するのはやぶさかではない。しかし、それも国民の支持があってこそ成り立つ話だ。支持を欠いた熱意は「独り善がり」に陥りかねないのである。
安倍政治のエッセンスは言うまでもなく、「美しい国」と「戦後レジーム(体制)からの脱却」である。せんじ詰めれば、9条をはじめとする「憲法の改正」に行き当たる。
参院選では国民がこの動きに危うさをかぎ取り、「ノー」と判断した側面も色濃いのだ。エッセンスをほぼ封印されたまま、安倍改造内閣は今後、何を目指すというのだろう。
「いばらの道」の行く末に、悲願達成の可能性も低くなったとすれば、潔い決断こそ、自ら掲げる「美しい国」にかなった身の処し方ではないのか。
国民の不支持に加え、首相の求心力に心配の残る内閣に、一体何ができるのかという懸念も指摘せざるを得ない。
確かに従来の「お友達内閣」に比べれば、幾分重みのある新布陣となった。自民党の新役員も基本的にそう見受けられる。しかし、重みが増した分、逆に安倍首相が操縦し切れるのかという不安が出てくるのだ。
自民党内も決して一枚岩ではない。参院選惨敗から内閣改造までの1カ月間は静かだった。それは大敗ショックのほかに、閣僚や党役員のポスト狙いの面もあったからである。
いったん決まってしまえば、参院選直後からくすぶる「首相責任論」と相まって不満が噴出。党内がまとまらないどころか、混乱する可能性もある。
今回の参院選で生じた衆参勢力の「ねじれ」がこれに拍車をかける。民主党をはじめとする野党が参院過半数獲得を背景に、あの手この手で与党に揺さぶりをかけるのは確実だ。
国会の空転が十分想定されるばかりか、政局に収拾がつかず、最悪の場合、秋の国会で何も決められないまま、解散・総選挙へとなだれ込む恐れも否定し切れないのである。
この「政治空白」によって最も被害を受けるのは国民にほかならない。それでなくても年金記録不備、公務員改革、格差解消、税制改革、財政再建など解決に道筋をつけなければいけない難題がめじろ押しなのだ。
安倍首相はこれまで民意から遊離した政策を強行しただけでなく、今後も理解の得られない続投によって、再び国民に不利益を与えかねないのである。



社説:「改造」を延命策に使うな(神奈川新聞 2007年8月28日(火))

安倍晋三改造内閣が発足した。かつては派閥の会長が顔をそろえた「実力者内閣」とか「重量級内閣」、または「派閥均衡内閣」など、いろいろな名前があったが、今回はどう呼ぶべきか。少なくとも驚く人事ではなかった。
平均年齢は六十歳。派閥にある程度配慮した「政権延命内閣」ではないだろうか。あるいは「挙党態勢」確立に名を借りた「ガス抜き内閣」か。首相は参院選惨敗の反省から改造では自分に近い人物の重用は控えたとされる。
その例は、自民党総裁選で戦った麻生太郎外相を党幹事長に起用し、首相続投を批判してきた町村信孝前外相を外相に、舛添要一参院政審会長を厚生労働相にそれぞれ充てた人事に見られる。
首相は元来、自分が知らない人物を使うのが怖いタイプではないか。昨年九月、政権発足の閣僚人事は「論功行賞」「お友達の偏重」「官邸の『チーム安倍』体制の強化」が特徴だった。それが裏目に出て党内外から批判を浴びた。事実、閣僚の失言、放言が続き、わずか十一カ月で四人が辞任した。今回はそうもいかず、「人心一新」「ゼロから出直し」を掲げた以上、閣僚の大幅入れ替えはそれなりに首相の“覚悟”を示したものかもしれない。
「反省すべきは反省する」と言うが、何をどのように反省し、政権を立て直していくのか、具体像がはっきりしていない。首相は記者会見で「参院選の結果は厳しい」として、再スタートのため改造を行ったと述べた。失われた信頼を取り戻したいとも話した。だが、ちょっと待ってほしい。
首相自身は選挙で大敗しても「私の基本政策は否定されてはいない」「続投して改革を続けることが使命だ。政治の空白はあってはならない」と言っている。だが自身が与党敗因のど真ん中にいながら、その自覚がない。何か、首相と国民の間に深い溝があるように思える。確かに参院選は政権選択の選挙とはいえないが、首相は民意を見誤っていないか。そうでなければ、国政選挙とは何か、ということになってしまう。
有権者は「戦後レジームからの脱却」「美しい国」に、うさんくささを感じたのではないか。それ以上に首相の政治指導者としての資質に疑問を持ったに違いない。支持率がさらに低下し、求心力が落ちる一方だと、この改造は「幕引き内閣」になる可能性もある。
ともあれ、改造内閣は発足した。秋の臨時国会、特に参院での与野党対決が注目の舞台になる。「政治とカネ」、テロ特措法の延長、年金記録不備、地域や所得の格差問題…。論戦のテーマには事欠かない。その対応を誤ると、改造政権は自壊の一途をたどるだろう。なぜ改造するのか。その説明と自問が足りない。参院選で負けたからでは何も分からない。



社説:安倍改造内閣*何を、どう変えるのか(北海道新聞 2007年8月28日(火))

安倍晋三首相が内閣改造自民党人事を行った。
参院選で歴史的大敗を喫しながら辞任を拒んだ首相は「反省すべきは反省し、人心を一新する」と出直しを約束し、続投に理解を求めた。
具体的に何を反省し、どう改めるのか。初の改造人事は一カ月近い時間をかけて首相がようやく国民の前に提出した宿題の答えというべきものだ。
だが、このままで及第点が得られるだろうか。
改造の焦点は挙党態勢の確立と安倍政治の見直しの二つだった。
首相に近い人物を党総裁選の論功行賞で集めたこれまでの「お友達内閣」は実力に欠け、閣僚にあるまじき失言や政治資金をめぐる疑惑の続出で参院選敗北の原因の一つになった。
新閣僚と新しい党三役の顔触れを見ると、各派閥の領袖を主要ポストに起用し、重厚さを印象づけようとの意図は伝わる。
首相の政権運営を批判してきた舛添要一参院政審会長を厚生労働相に抜てきするなど、批判勢力の取り込みにも一定の目配りをした。
ただ総裁選以来、首相と一線を画してきた谷垣禎一財務相は引き続き無役となり、同派からの入閣も前回同様ゼロだった。党内の人材を文字通り網羅したといえるか疑問だ。
一方、首相は改革路線の続行を明言するとともに、「陰の部分」への対策に取り組む方針を表明してきた。
党の参院選総括委員会は敗因分析で「政策の優先順位が民意とずれていなかったか」と指摘した。「戦後体制からの脱却」を唱えて改憲に力を入れた首相は、格差をはじめ国民生活の問題に鈍感すぎたということだろう。
その反省の表れが地方政策を扱う総務相増田寛也岩手県知事を民間から起用したことだけというのなら、期待外れと言わざるを得ない。
首相は記者会見で「地域が活力を回復するよう全力を挙げる」と強調した。しかし、格差は地域間にだけ存在するわけではない。非正規雇用者の増大や所得格差の拡大は都市と地方に共通の社会問題だ。
地域を越えた格差問題こそが参院選有権者が突きつけた大きな政策課題であり、自民党を惨敗に導く結果となった。首相はこの民意をどうくみ取って今後の政権運営に生かすつもりか、明確に語らねばならない。
改造後は首相補佐官も五人から二人に減り、政権の「チーム安倍」色は薄まった。政策の面でも理念先行でタカ派色が強い安倍カラーは変わっていくのか。国民はこの点についても首相から丁寧な説明を聞きたいはずだ。
単なる化粧直しでは信頼回復も内閣の支持率回復も到底望めない。このことを肝に銘じ、民意と向き合っていく覚悟が首相にあるだろうか。



社説:内閣改造・党人事/やはり「派閥政党」なのか(河北新報 2007年8月28日(火))

参院選の大敗から出直しへのきっかけになるだろうか。安倍晋三首相はきのう、初の内閣改造自民党役員人事を行った。
この改造・党人事は選挙戦敗北と「安倍首相はなぜ辞めないのか」という少なからぬ世論に追い込まれる形で断行された。
政権浮揚への「攻め」というより、支持率のさらなる沈下を防ぐ「守り」の色合いが濃い。
昨年の政権発足時に批判を浴びた側近重用の“お友達人事”など許されるはずもなく、そのイメージはなるほど薄れた。
今回の内閣改造のキーワードは「挙党態勢」のようだ。がけっぷちに立つ政権を支えるにはこれしかないというわけか。
ただ、挙党態勢を言い換えると、「派閥配慮型」という、この党にとっては古い価値観を表す言葉がよみがえってくる。
長らく自民党政治の病巣とされてきたのが官と癒着する族議員と派閥。小泉純一郎前首相は「自民党をぶっ壊す」として、この2つを徹底的に否定した。
しかし安倍政権では、「骨太の方針07」で族議員が復活。安倍首相は今度の改造を前に「派閥の推薦は受けない」と明言したが、結局は主要ポストに各派閥の重量級の顔ぶれが並んだ。
増田寛也岩手県知事や党内批判勢力の舛添要一参院政審会長の入閣など注目すべき起用もあったが、全体的に、派閥というこの党の古い岩盤がむき出しとなった改造人事が清新さをアピールできたとは言えまい。
「重厚型内閣」という言い方もあろうが、安倍首相は“体重オーバー内閣”と言われないよう注意を払っていくべきだ。
年金記録不備問題や「政治とカネ」の問題はいたずらに派閥間の調整などに時間をかけている余裕はなく、機動的な足腰で、しかもスピーディーに対応しなくてはならないテーマだ。
「格差」は安倍首相が小泉前政権から引き継いだ市場万能主義的な政治路線の結果として指摘されることが多い。これを是正できるのは、まずは安倍首相のリーダーシップであって、閣内や派閥間で延々と路線論争を繰り返すのは見苦しいだけだ。
党役員人事では、麻生派会長の麻生太郎前外相が党運営の要となる幹事長に起用された。
党総裁(首相)の出身派閥への権力集中を避ける方法として、幹事長を総裁と別の派閥から選ぶ「総・幹分離」は前政権で無視されたが、今回復活した。
しかし、安倍首相の出身派閥の町村派の影響力がこれで低下したかというとそうではない。
麻生派は衆参16人の小派閥だが、麻生氏は参院選後、いち早く安倍首相の続投支持を表明しながら、「ポスト安倍」の意欲をにじませている。町村派を仕切る森喜朗元首相は麻生氏の幹事長就任を事前に容認する考えを示していた。
麻生幹事長の背後に党内最大派閥の存在がちらつく。町村派の支配力は低下するどころか、一段と強化されるとみていい。こうして党役員人事にも派閥の論理が貫かれたのである。
今度の改造・党人事は党改革の一里塚となるべきだが、派閥の影が濃すぎないか心配だ。



社説:安倍改造内閣 惨敗を真に反省したのか(新潟日報 2007年8月28日(火))

自民党が歴史的惨敗を喫した参院選を受け、安倍晋三首相が内閣改造と党三役などの人事を行った。
首相の続投には、国民はもとより自民党の中にも異論が根強くある。それに対して首相は「反省すべきは反省しながら、改革や国づくりに向けて責任を果たしていく」と述べてきた。
それならば、首相は参院選結果をどのように受け止め、反省を今後の政権運営にどう反映させようとしているのか。今回の人事で安倍首相に問われていたのはそのことだった。
美しい国づくりや改革を再スタートさせるために態勢を立て直す。改革は断行しなければならないし、中央と地方の格差問題にも目を向ける」
安倍首相は改造後の記者会見でこう述べた。構造改革に取り組むことで経済成長を維持するとともに、参院選一人区での自民党大敗の反省を踏まえて都市と地方の格差是正にも力を入れるというメッセージである。
だが、首相は政権の基本政策に掲げる「美しい国」「戦後レジームからの脱却」、さらには憲法改正について多くを語ろうとしなかった。「教育再生や公務員改革を通して戦後の仕組みの見直しを進める」と言うだけだ。
戦後レジームからの脱却」は安倍政治の核心的テーマであり、参院選でもその是非が問われた。選挙に示された民意をどう受け止めているのか、首相はもっと明確に語るべきだ。
今回の人事の特徴は、内閣や党の主要ポストに派閥会長や経験豊かなベテランを配し、安定感を演出したことだろう。幹事長に麻生太郎氏、外相に町村信孝氏、防衛相に高村正彦氏、官房長官与謝野馨氏が起用された。
年金記録不備問題の処理に当たる注目の厚生労働相には、安倍首相の参院選敗北の責任を追及してきた参院舛添要一氏を充てた。挙党態勢を印象づけることで、党内にくすぶっている首相退陣論を封じ込める狙いだ。
閣僚の不祥事や失言、機能不全ぶりから「お友達」内閣と酷評された就任時の人事の反省もあったろう。都市と地方の格差是正地方分権推進へ民間から前岩手県知事の増田寛也氏を総務相に抜てきした手法も目新しい。
だが、ちぐはぐさも目につく。一例が首相の盟友である石原伸晃氏の政調会長起用だ。石原氏は東京選出で小泉改革の実践者としても知られる。都市と地方の格差解消がどこまで期待できるのか。「お友達」人事のそしりを受ければ即、政権崩壊につながる。
実力者やベテランを多く配することで政権の布陣は見た目には重厚さを増したが、安倍政治が本当に変わるかどうかは疑問に思えてならない。引き続き国民の監視が必要である。



社説:政策の「優先順位」転換を 安倍改造内閣(西日本新聞 2007年8月28日(火) )

自らの目指す政治を実現するための政治的挑戦や変革よりも、安定を第一に考えた人事である。清新さには欠ける。
安倍改造内閣自民党新執行部の顔触れを見ての印象である。
参院選での歴史的惨敗、その責任を負うべき党総裁でありながら続投を選んだ首相の立場とすれば、政権の継続には喪失した求心力の回復が不可欠で急務と考えるのは、ある意味、当然だろう。
問題は求心力を何によって回復するかである。それが政権出直しの最大の課題でもあった。安倍晋三首相はそれを政権の安定感に求めたようだ。
外相に町村信孝元外相、防衛相に高村正彦元外相、財務相額賀福志郎防衛庁長官官房長官与謝野馨元経財相ら主要閣僚に政治経験豊富な実力者を起用し、閣僚配分を党内各派閥にある程度配慮したことが、それを物語っている。
当面の政権の危機を乗りきるには、安定感もひとつの手段ではある。求心力が低下した歴代首相もよく使ってきた。しかし、それは多分に党内向けの政権求心力の回復手段であった。
選挙で惨敗した安倍政権の出直しに求められているのは、自民党参院選総括が指摘しているように「国民の目線に沿った政権運営」である。言い換えれば、国民の信頼回復であり、党内向けの政権求心力ではない。
その意味で、発足した改造内閣は国民の信頼をどこまで回復できるかが最大の課題となる。安倍政権がいつまで存続できるかも、その成否にかかっている。
そのために第一に必要なのは、参院選で突きつけられた民意にどう応えるかであることは言うまでもない。
具体的には、年金問題に象徴される国民の社会保障に対する先行き不安、行財政などの構造改革の陰で置き去りにされた地方に集中する格差問題をどう是正していくかなどである。
介護や年金問題に取り組んできた舛添要一・党参院政調会長厚労相起用や、改革派知事として地方問題に詳しい増田寛也岩手県知事の総務相登用は、その意味で評価できる。期待したい。
一方で首相は、行革担当相と経済財政担当相を留任させて構造改革路線を継続していく意思を明確にした。改革路線のなかで、格差や社会保障問題にどこまできめ細かく対応できるか。小泉前政権以来の難題ではあるが、いま国民が政治に求めている最大の課題である。
もちろん安倍政権が掲げてきた日米関係や外交・安全保障政策、教育改革、憲法も、国の重要な政治課題である。
しかし、そうした「大政治」に取り組むには、政治への国民の信頼は欠かせない。国民あっての国家である。内閣改造を機に安倍首相には政策の優先順位転換と「小政治」への目配りを求めたい。
それができなければ、安倍政権は国民にもう一度、見放される。



社説:改造内閣 何を目指すか分からない(信濃毎日新聞 2007年8月28日(火))

安倍改造内閣が発足した。何をやろうとする内閣か、分かりにくい人選である。
参院選での自民党大敗を受け、退陣を求める声も少なくない中で、安倍晋三首相は政権の座にとどまる道を選んだ経緯がある。全体に“守りの姿勢”に傾いた印象が濃い。
参院の多数は野党が握った。与党の公明党は選挙の反省から、首相への“直言路線”に転じている。そんな中で目指す方向がよく分からないのでは、求心力回復は難しい。新内閣の前途は険しい。
「反省すべき点は反省する」。選挙で下された審判に対し、首相は自戒の言葉を何度も口にしてきた。
新しい顔ぶれを見ると、どこまで反省しているのか首をかしげたくなる。象徴するのが党三役だ。
党運営の要、幹事長に起用された麻生太郎氏は、選挙のあと首相にいち早く続投を進言した人である。政調会長に起用された石原伸晃氏は、気心の知れた首相の「お友達」の1人だ。「反省」を生かした布陣には、とても見えない。
主要閣僚には派閥の有力者を取り込んだ。外相に起用した町村信孝氏、防衛相の高村正彦氏、文部科学相に留任する伊吹文明氏は、いずれも派閥の会長である。党総務会長に起用した二階俊博氏、そして麻生幹事長も派閥会長だ。
首相は今回、派閥の推薦は受けない方針で組閣に臨んだという。結果は、各派閥に目配りした総主流派体制になっている。
退陣論が再燃するのを封じ込めるのに精いっぱいで、「安倍カラー」を打ち出すどころではなかったのが正直なところだろう。
総務相には前岩手県知事の増田寛也氏を起用した。
参院選自民党が大敗した理由の一つに、都市と地方の格差の拡大が挙げられる。党勢を立て直す上で、地方政策を担当する総務相は最も大事なポストの一つになる。
その仕事を、首相は国政での手腕が未知数な外部の人材に委ねた。これも分かりにくい対応である。
安倍首相は選挙に負けた後は、「戦後レジーム(体制)からの脱却」など、持論に触れるのを避けている。かといって、生活重視路線への転換を明言するでもない。
組閣の後の記者会見でも、新内閣ではどんな政策を進めるのか、はっきりした説明はなかった。
少子高齢化はいや応なく進む。財政健全化も待ったなしだ。権力維持にきゅうきゅうとする首相のもと、性格のあいまいな内閣が時間を無駄遣いするようでは、暮らしの将来がますます心配になる。