各紙の社説

社説:福田新総裁 早くまともな政治に戻せ 解散・総選挙が近道だ(毎日新聞 2007年9月24日(月))

福田康夫官房長官が23日、自民党新総裁に選出された。25日、国会での首相指名選挙を経て、福田新内閣が発足する見通しだ。だが、首相が交代しても参院与野党逆転という状況は何ら変わらない。しかも、あまりに未熟で無責任だった安倍晋三首相の辞任表明の後を受ける内閣だ。瀬戸際の状況が続く中での多難なスタートである。
福田氏330票、麻生太郎幹事長197票。麻生氏の善戦が目立つ結果だったが、勝敗は最初から見えていた。福田氏の名前が浮上した瞬間、麻生派を除く自民党内の8派閥が雪崩を打つように福田氏支持に傾いたからである。
若さを露呈した安倍首相の後だけに、福田氏の「安定感」に期待するというのも理解できないわけではない。しかし、「ともかく勝ち馬に乗りたい」という雪崩現象は、「国民的人気がありそうだ」との理由で早々と安倍氏支持で党内の大勢が固まった昨秋の総裁選とまったく同じではなかったか。


◇脱「安倍路線」は評価する
麻生氏が党員票の実数で上回るだけでなく、予想を上回る議員票を獲得したのは、昨秋以上に派閥が前面に出たことへの批判が大きかったからでもあろう。街頭演説での聴衆の反応を見て、福田氏で次の衆院選に勝てるのかとの不安があったのかもしれない。だが、ならば、どうして「第三の候補」を立てる動きが出なかったのか。
若手の間では小泉純一郎前首相の再登板を期待する声もあったが、小泉氏本人の不出馬宣言で一気にしぼんだ。いったん出馬を表明した額賀福志郎財務相も、福田氏が優勢と見るや取りやめた。
かつてのような派閥の形は崩れ、影響力が小さくなったのは福田氏が指摘した通りだ。だが、それに代わる新しい仕組みが依然、見つからず、多様な論戦を展開する活力も失われている。そんな現状を示す総裁選でもあった。
自民党をぶっ壊す」と豪語して小泉氏が首相に就任したのは01年4月。福田氏は「自民党の再生」を強調したが、多くの国民は「再び古い自民党に戻るのか」と疑っていることを忘れてはいけない。その意味で党役員人事や組閣が大きなポイントとなる。また、新閣僚に「政治とカネ」の問題が浮上すれば、たちまち国民の支持は離れていくだろう。
改めて指摘しておくが、今回は安倍首相の唐突な辞任表明を受けた総裁選だ。所信表明演説で続投の意欲を示しながら、なぜ、代表質問直前に辞めると言い出したのか。そもそも7月の参院選後に辞任していれば済む話ではなかったか。なぜ、もっと早く首相の体調の異変に気づかなかったのか。
2カ月近くにわたる政治空白を生み出した自民党政権担当能力が疑われているのだ。福田、麻生両氏が地方行脚のパフォーマンスを繰り返すのもいいが、議員全員で長時間、反省討論会を開くくらいの危機感が必要だった。
福田氏は政治がここまで異常な事態に至ったことを国民に謝るところから始めるべきだろう。そして一刻も早く、国会を正常化し、まともな政治に戻すことだ。
突然の総裁選だったが、「福田政治」とは何か、明らかになった点はいくつかある。
一つは「戦後レジームからの脱却」といった安倍路線の否定だ。安倍首相が最大の目標に掲げていた憲法改正の発議について福田氏は今の参院の状況を踏まえ慎重な姿勢を示した。小泉、安倍政権と比べ、アジア重視の外交も進めていくことになるだろう。靖国神社への参拝も否定している。
とかく偏狭なナショナリズムに陥る危うさがあった安倍政治に、毎日新聞は再三疑問を呈してきた。参院選でもその路線は大きな支持を得られなかった。福田氏が転換を図ることは評価したい。
ところが、内政ではあいまいさが目立つ。総じて言えば、福田氏は小泉政権構造改革路線は堅持しながら、地方対策などを手厚くしていく姿勢なのだろう。バラマキ型公共事業の復活も否定している。だが、それに代わる策はあるのか。福田氏は「知恵を出す」と繰り返しているが、今後は早急に具体策が求められる。
福田氏の強みは長い官房長官時代に培った中央官庁とのパイプだろう。安倍内閣は官僚と対決することで政権浮揚を狙ったが効果は上がらなかった。確かに対決するだけが政治主導ではない。必要なのは、政治がどう官僚組織を使うかである。


◇「官僚お友達内閣」では…
公務員制度改革行政改革は緊急課題だ。これにどう取り組み、官邸と霞が関との関係を再構築するのか。「官僚お友達内閣」と評されるようなことになっては国民の支持は得られない。
国会の当面の焦点はテロ対策特別措置法の延長問題だ。福田氏は海上自衛隊のインド洋での給油活動を継続させるため新法を臨時国会で成立させる意向を示しているが、民主党が賛成する見込みは薄い。会期を大幅延長し、参院で否決、衆院で再可決という局面も予想される。対する民主党小沢一郎代表は政権を追い込み、早期の衆院解散に持ち込む構えだ。
「私を信じてついてきてください」。福田氏は総裁選中、こう語った。だが、国民に白紙委任を求められる状況でないのは承知だろう。今の衆院の巨大与党勢力は小泉政権下で獲得した議席だ。やはり、ここは早く総選挙を行い、有権者の信を問うべきだ。
福田氏は来春の予算成立後を念頭に野党とも協議したうえで総選挙に臨む「話し合い解散」に言及している。時期はともかくこれも一案だろう。次の衆院選自公政権の継続か、民主党政権か、文字通り有権者が政権を選択する選挙となる。政治に国民の信頼を取り戻すにはそれが近道である。



社説:自民党福田新総裁―「荒々しい政治」からの転換(朝日新聞 2007年9月24日(月))

自民党の総裁選は福田康夫氏の大勝に終わった。週明けには新首相に就任する予定だ。53歳の安倍氏から71歳の福田氏へ、理念突出型から手堅い調整型へと、日本のリーダーが大きく変わる。
参院選の歴史的惨敗、安倍首相の突然の政権投げ出し……。いまの自民党は「政権交代前夜」ともいうべき瀬戸際の危機にある。
この重大なピンチのなかで、福田氏を自民党のトップに押し上げたものは何なのか。


●小泉・安倍時代に幕
個性や主張が対照的なリーダーにすげかえて、いわゆる「疑似政権交代」で世論を納得させる。自民党が得意としてきた政権延命への知恵が働いたのは間違いないだろう。
安倍氏と福田氏は、同じ小泉内閣官房長官をつとめたが、政治スタイルも政策的な力点も大きく異なっている。
安倍氏国家主義的な理念を掲げ、強引な国会運営も辞さずに政策の実現に突き進もうとした。「私の内閣」「私の指示で」と連発し、リーダーシップを強調したのも安倍氏だった。
一方の福田氏は、首相の靖国参拝に眉をひそめ、中国や韓国との関係修復に腐心する。対北朝鮮でも強硬策一本やりには批判的だ。歴代最長の官房長官時代の調整力には定評がある。リーダーシップを振りかざすわけでもない。
安倍氏の挫折のあとだから、次は福田氏で――。党内の大勢がそう流れたのは不思議ではない。
同時にこの選択の底流には、小泉―安倍と続いた一つの時代に区切りをつけたいという、政治の大きな潮目があるのではないか。
小泉政権が幕をあけた今世紀初めの日本は、経済危機のまっただ中にあった。「失われた10年」の後遺症が深刻化し、金融機関が揺らぎ、大企業の倒産が相次いだ時代だ。


●協調型に期待と不安
ここから脱するにはかなりの荒療治が必要だ。そんな社会の気分に、「自民党をぶっ壊す」と叫んで登場した小泉氏はすっぽりとはまった。
公共事業の大幅削減など歴代政権が手をつけられなかった施策に切り込んだ。党内の反発を「抵抗勢力」と呼んで対決を演出し、高い支持率を得た。
安倍首相も、基本的にこの路線の継続でいけると踏んだところに大きな誤算があったのではないか。
小泉路線は、地方経済の疲弊や福祉の切り下げ、雇用の不安定化などの「痛み」を生んだ。参院選の結果は、そうしたところに真剣な手当てが求められていることを示したといえる。
さらに、小泉流の「強いリーダーシップ」も、安倍時代に入ってからは憲法改正集団的自衛権の解釈変更といったテーマに広がり、いささか暴走の様相を呈していた。
派手な劇場型政治、感情的なナショナリズムをあおるような政治、お友だちで固めた身内政治。そんな小泉―安倍時代の「荒々しい政治」への疲労と不安が確実に強まっていたということだろう。
朝日新聞世論調査では、62%の人が次の首相に「協調型」を望み、「決断型」の31%を大きく引き離した。時代が政治の基調の転換を求めたからだろう。福田氏という選択には、そうした社会の変化が読み取れる。
今回の総裁選では、東京や大阪などで行われた街頭演説に多くの人々が集まり、予想外の関心の高さとなった。参院選後も安倍首相が居座るという肩すかしが続いたなかで、政治がようやく動いたからかもしれない。
そのなかで麻生太郎氏の人気が目を引いた。投票結果は大差となったが、地方の予備投票では福田氏を上回る勢いだった。メリハリの利いた語り口、北朝鮮政策での強硬論など、分かりやすさと保守路線が支持を集めたようだ。
小泉―安倍路線の名残でもあったのか。福田氏の掲げる政策のあいまいさや指導力に、物足りなさを感じる党員も少なくないということだろう。


小沢民主とどう対決
それだけに、「協調型」の福田流で問われるのは、政治をどう前に進めていくかという実行力だ。
総裁選後の記者会見で、福田氏は勝因について「あんまり変なことはしないだろうという安心感かな」と語った。だが、荒々しかった小泉―安倍時代からとりあえずひと休み、というわけにはいかない。
格差是正の掛け声のもと、ばらまき予算への期待が盛り上がっている。解散・総選挙が近いとなればなおさらだ。その一方で、財政再建や年金・福祉の立て直しなど、早急に答えを出さねばならない難題は山積している。
そして、なによりも小沢民主党の攻勢にどう向かい合うか。政権をかけた戦いが待ち受けている。
福田新総裁はいずれ遠からず、衆院の解散・総選挙に踏み切ることになる。参院選での惨敗で安倍政権は国民の信を失った。あとを継いだ新政権として審判を受けない限り、自信をもって政局を運営していくことはできないからだ。
民主党など野党との話し合いを強調する福田氏だが、政権交代をめざす民主党はあらゆる局面で対決を迫ってくるだろう。その攻勢をかわしつつ、ある時点で総選挙を決断する。「協調型」だけで済まないのは明白だ。
そのかじ取りを誤れば、政権を民主党に渡すという不名誉な役回りを、福田氏が演じることになりかねない。



社説:福田自民党総裁 政治の再生へ着実に踏み出せ(読売新聞 2007年9月24日(月))

自民党総裁選は、下馬評通り福田康夫・元官房長官が大勝した。福田赳夫元首相の長男として、初の親子2代の総裁の誕生である。
だが、直面する課題と職責の重さ、今後の多難な政治運営を考えれば、とても、そんな感慨や喜びに浸っている余裕はあるまい。
福田新総裁は、党三役人事や公明党との連立合意の上、25日には国会で首相指名を受け、福田内閣を発足させる。


◆国会審議を軌道に◆
安倍首相の突然の辞任による総裁選の結果、10日余の政治空白が生じた。国会日程のずれ込みは、インド洋での海上自衛隊の給油活動継続のための法案処理などに大きな影響を与えている。会期の大幅延長も避けられない情勢だ。
最小限の空白にとどまったとはいえ、早急に国会審議を軌道に乗せねばならない。福田新総裁は、衆参ねじれの下で、重要政策の円滑な遂行のために、参院第1党の民主党との協議の重要性を強調している。そうした関係を構築するためにも国会論戦を深める必要がある。
今回の総裁選の課題は、何よりも先の参院選で惨敗した党勢を立て直すとともに、唐突な首相辞任で大きく揺れた政権態勢の再構築にあった。
福田新総裁が、「党の再生を期す」と決意表明したのは、無論、そうした危機認識に立つものだ。
今回の総裁選では、党内9派閥のうち8派が「福田支持」を表明し、福田元長官の大勝は当然視されていた。だが、麻生太郎幹事長は、国会議員の3分の1以上、地方票の半数近くの票を獲得した。全体の4割近い得票は、予想を上回る善戦と言っていい。
派閥選挙という見方もあったが、派閥の締め付けが効くような時代ではないことを改めて示した結果でもある。
福田新総裁の勝利はやはり、官房長官時代に示した調整能力やバランス感覚、安定感といった重厚な「資質」を重視しての期待感の表れだろう。
参院選惨敗の原因として、自民党は、「年金記録漏れ」や「政治とカネ」「閣僚の失言」などの問題で、有権者が、安倍首相の指導力、統治能力に疑問を持った、と総括している。政策の優先順位にも「民意とのずれ」を指摘している。
こうした観点から、党内の大勢は、混迷を深めた安倍政治の転換を求めたのだろう。参院選直後、いち早く安倍首相続投を支持した「麻生総裁」では安倍政治の延長になる、という懸念も一部にあったようだ。
新政権が取り組むべき課題は、総裁選の論戦で既に明らかになっている。


◆まずは信頼回復だ◆
当面の臨時国会の最大の課題は、国際平和協力活動の柱である海自の給油活動継続問題だ。福田新総裁は、給油活動継続のための新法案を今国会中に提出し、成立を期す意向を表明している。
福田新政権にとっても、今後の政権運営を占う最大の試金石となる。
自民党内では、小泉政権以来の構造改革路線が、結果として都市と地方の格差を生み、これが参院選での惨敗の一因となった、との見方が多い。自民党にとって、構造改革の“負”の部分の修正が、次期衆院選を視野に、予算編成とも関連する当面の重要課題となっている。
社会保障制度の改革と財源としての消費税率引き上げを含む税財政改革、財政再建、対北朝鮮政策などにも、国民生活の安定や日本の国益のために、着実に取り組み、前進させねばならない。
一連の重要政策を推進する上で肝要なのは、福田新総裁が総裁選中に繰り返したように、政治への信頼の回復だ。
政治資金規正法を改正し、1円以上のすべての支出に領収書を添付するかどうかなどが論点となっている「政治とカネ」の問題に、誠実に対応する必要がある。
年金記録漏れ問題の処理も急がねばならない。閣僚などの不祥事が起きないよう、内閣・党の危機管理に万全を期すのも当然のことだ。
変化の激しい時代にあって、困難で多様な課題を処理するには、調整能力やバランス感覚だけで済むものではない。
福田新総裁には、調整に留意しつつも、政策の正しい方向性をゆるがせにすることのないよう、しっかりと指導力を発揮してもらいたい。
そのためにも、重要なのは、挙党態勢を構築し、福田新総裁の求心力を確立することだ。


◆挙党態勢の確立を◆
福田新総裁は、総裁選中、「国会開会中で、閣僚を大きく代えるのは難しい」と語っていた。所信表明演説、代表質問、衆参両院の予算委員会審議と続く国会日程などを考慮してのことだろう。
閣僚については、おおむねそうだとしても、可能な限り、党、内閣を通じた挙党態勢を固めることに尽力すべきだ。それには、麻生幹事長が総裁選で一定の得票を得たことにも、何らかの配慮をする必要があるかもしれない。
ただ、派閥が前面に出て、順送りや総裁選の論功行賞がまかり通るようなことがあっては、信頼回復を妨げるだけだ。これも、福田新総裁の国益第一に立脚した指導力が試されるところだ。
新総裁を先頭に、党を挙げて立て直しに取り組む気概がなければ、「新生自民党」は、おぼつかない。



【主張】福田新総裁 「安定」で危機脱せるか 改革の継承を明確にせよ(産経新聞 2007年9月24日(月))

この国をどうするのか。危機にひんした自民党に、再生の道筋をつけられるのか。自民党の新総裁に選出された福田康夫官房長官の発言から、その答えはまだ見いだせない。
福田氏の勝利は、混乱が続いた安倍内閣の後継体制づくりで、党所属国会議員らが政治の安定を求めた結果といえよう。福田氏の手腕に期待したい。だが、それは政権運営に臨む心構えにすぎない。日本が内政外交とも危機的な状況に置かれていることを直視してもらいたい。
構造改革を続けながら新しい国づくりを進めることも、不変の課題だ。直ちに取り組む組閣人事や所信表明演説を通して、真の福田イズムを提示すべきである。


≪補給延長への道筋示せ≫
参院選から2カ月近くが実質的に浪費され、これ以上の政治空白は許されない。最優先の課題は、インド洋での海上自衛隊の補給活動延長をどう実現するかである。
福田氏はテロ対策特措法の延長ではなく、新法を臨時国会で成立させる考えを明確にしている。新法であっても反対だという民主党を相手に、何らかの合意点を得ようと協議を呼びかけるのか。衆院での再議決も視野に入れ、不退転の覚悟で臨むのか。
国会運営やその他の政治課題のことも考え、民主党小沢一郎代表に協議を呼びかけることは重要だが、明確な対処方針を決めておく必要がある。
安倍内閣政権運営のまずさから行き詰まったことを考えれば、福田氏としては早々に「安倍カラー」を払拭(ふっしょく)したいだろう。
しかし、それと一緒に憲法改正への取り組みや自由と民主主義の価値観に基づく「主張する外交」などを後退させてしまうのか。
小泉内閣から安倍内閣にかけて、自民党政権が保守再生を目指すものだったと位置付ければ、福田氏の視線の先にはリベラル色の強い、異なるものが見受けられる。
さすがに、党内外に異論の強い靖国神社とは別の国立追悼施設問題では、慎重な考えを示した。拉致事件の解決に以前より積極的な姿勢も見せた。
それにしても、民主党から「私たちは10年前から使っている」と皮肉られるような「自立と共生」をスローガンにした意図はどこにあるのか。
8派閥が推す福田氏の前に劣勢といわれながら、麻生太郎幹事長は保守政治の継続を強く打ち出して善戦した。福田氏への批判票を、麻生氏が相当数つかんだともいえるだろう。


≪逆戻りは許されない≫
小泉政権以来の構造改革についても、福田氏は路線の継続を表明しながら、その姿勢がいまひとつ鮮明でない。とくに税財政改革は、参院選大敗の原因を格差拡大に求める声が自民党内に強く、ばらまき型への逆戻りが懸念される。
福田氏は総裁選で地方間格差への配慮だけでなく、来年度からの高齢者医療費自己負担増の凍結を検討する考えを示した。しかし、この医療制度改革は2011年度の基礎的財政収支黒字化という政府目標の前提でもある。
財政再建には社会保障費、とりわけ急増が予想される医療費の国庫負担抑制がカギだ。ここで手を緩めれば、それがアリの一穴となって瞬く間に財政規律は崩れ目標達成も危うくなる。
いや、与党公明党は目標年度そのものを先延ばしするよう求め始めた。福田氏は「目標は変えない」とするが、24日の政権協議で妥協姿勢をみせれば財政再建路線は決定的に揺らごう。
2011年度の目標は、団塊の世代が本格的な年金受給年齢に達する前に可能な限り財政健全化を進めるためだ。その後には債務残高の国内総生産(GDP)比引き下げが待っており、この目標は一里塚にすぎない。
こうしたことを考えれば、安倍内閣が先送りした税制抜本改革という歳入面への取り組みも不可欠だ。焦点の基礎年金国庫負担割合引き上げだけでなく、将来の社会保障財源としても消費税増税は避けられまい。
将来世代に負担を先送りしないよう、どう歳出・歳入一体改革で財政再建に道筋をつけるか。それは成長の持続だけでなく、福田氏の掲げる「希望と安心」にもつながるはずだ。



【社説】中堅若手に活入れよ 自民新総裁に福田氏(東京新聞 2007年9月24日(月))

自民党新総裁に福田康夫氏が就任した。あす国会で安倍晋三氏に代わる首相に指名される。自滅の五十三歳を継ぐ七十一歳。党の危機が並大抵でない認識はあるか。
衆参国会議員三百八十七人のほぼ三分の二の二百五十四票、四十七都道府県の地方組織票百四十一の二分の一強、七十六票を獲得して、福田氏は新総裁に選出された。
派閥のほとんどが福田氏支持へ雪崩を打つ中で、唯一の対立候補だった麻生太郎氏は善戦したと見るべきなのだろう。
しかし、しょっぱなに麻生氏が漏らしたように「幕を開けたら終わっていた」印象の否めない、結果の見えていた総裁選であった。
忌避されたドタバタ劇
投票の行われた両院議員総会のあいさつで福田氏は、党の再生に懸命に取り組む決意を表明した。
党は大きな困難に直面している、着実な政策実行で国民の信頼を回復せねばならない、とも述べた。
言外ににじむのはこの一年、政治経験の浅い総理総裁のもとで続いたドタバタ劇への批判である。閣僚の不始末にも、国民の関心事にも、空気が読めずに後手対応を繰り返し、ついには政権を投げ出した。
所属議員も地方組織も世論の動向を無視するわけにいかない。「落ち着き」と「安心感」が総裁選の流れを決めるキーワードであったのだ。
それにしても奇怪なのは、つい一年前に安倍晋三氏に雪崩を打った、党所属議員たちの変わり身の早さである。
在任中の憲法改正集団的自衛権行使の検討を内外に公約するなど、右派色を隠さなかった安倍氏から、改憲には相当な年数を要するだろうと言い切る福田氏へ、そんなに簡単に乗り換えられるものなのか。
未熟な政権運営参院選惨敗の総括をそこそこに、もうドタバタするのはごめんみたいな厭戦(えんせん)気分で、党再生、信頼回復、とは恐れ入る。
選挙恐れては始まらぬ
小泉政権以来の構造改革がもたらした負の部分もそうだ。空中分解する安倍政権の教育再生も、戦後レジーム脱却なるものも、きちんと区切りがつけられないまま、街頭で「私を信じてついてきてください」と演説した福田氏に今後を委ねる。
表立っての政権批判を封印してきた派閥の領袖や幹部たちが、言葉のないまま、場あたりな政策転換を図ろうとしている。融通無碍(むげ)はこの党の体に深く染み込み、昔も今も何も変わっていないように見える。
いったい中堅若手議員たちは何をしていたのか。総裁選にせめて同世代の代表を担ぎ出すでもなく、熱い政策論を提起するでもなく、諾々、七十一歳と六十七歳の二人の候補の多数派工作の「数」になった。
福田新総裁に促しておきたい。彼らに活をいれることである。
次々と表ざたになっている、不透明なカネの絡んだ卑しい政治のありように、彼らからは声も出ない。
そもそも首相が政権を投げ出して生まれた壮大な政治空白をどうしたのか。責任を自覚する政治家なら、開店休業みたいな国会を何とか動かせないか、動かすべきだと、党執行部に求めるのが筋だったろう。
早急な総選挙が怖い、国民の信を問う選挙はずっと先にしてほしい−そんな空気が党全体に漂う。
総裁選を通じて福田氏がアピールしたのは「柳に風」の物腰だった。福田氏ならけんかにならない、野党も攻めにくいだろうという、なんとも情けない話も聞いた。
福田氏は民主など野党との「話し合い解散」にも言及している。何事も穏便に、の構えが気にかかる。選挙を恐れては始まらないのに。
新総裁に就任しての記者会見で福田氏は、海上自衛隊のインド洋給油活動の継続も、年金問題や消費税の扱いをめぐっても、民主党との話し合いに努めるとして、自分の考えを明らかにしなかった。
「危機感」は語られた総裁選だったが、緊張感の乏しかった原因は、多分このあたりにあった。
福田氏の父、赳夫氏は一九七六年に同じ七十一歳で政権の座に就いている。安倍氏岸信介氏の孫であるより血は濃い。福田氏は記者会見でこういう世襲じみたことはいけないと言いつつ、やむを得ざる局面であったと弁明して、理解を求めた。
「国家、党の危機」との福田氏の弁は、まさにそのことでないか。
世襲の政治家、ブランドつきの人が要所を占める。自ら志を立てて国家運営に取り組もうとする人が育っていないのだ。そして寄らば大樹、勝ち馬に乗ろうと、力量不詳であろうが、雪崩を打つ。政治の劣化が指摘される理由はここにある。
リーダーの育成が急務
衆院与党の圧倒多数で福田氏は首相になる。が、参院は民主を軸とする野党が過半数だ。協調は容易に望めず、政権運営は困難を極めよう。
混乱が避けられないにしても、政権放棄の空白よりはましである。この場面、リーダーたる人材の育成が急がれる。たとえ党は壊れても日本の政治は救う。そんな気概と責任感を、福田康夫新総裁に求める。