イラク派遣に対する重い司法の意見

自衛隊イラク派遣:空自の多国籍軍輸送は違憲 「首都は戦闘地域」−−名古屋高裁判決毎日新聞 2008年4月18日(金))

◇派遣差し止めは退ける
イラクへの自衛隊派遣は違憲だとして、市民団体などが国に派遣差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決が17日、名古屋高裁であった。青山邦夫裁判長(高田健一裁判長代読)は原告の請求を退けた1審・名古屋地裁判決を支持し、控訴を棄却したが、「航空自衛隊による多国籍軍の空輸活動は憲法9条に違反している」との判断を示した。
全国で行われている同種の訴訟で空自の活動の一部を違憲と認定したのは初めて。原告団は「控訴は棄却されたが、違憲の司法判断が示された」として上告しない方針で、勝訴した国は上告できないため判決が確定する。
青山裁判長は判決で「イラクでは、多国籍軍と国内武装勢力の間で武力紛争が行われ、特に首都バグダッドは多数の犠牲者が出ている地域でイラク復興特別措置法でいう『戦闘地域』に該当する」と認定。多国籍軍の兵士をクウェートからバグダッドへ空輸する空自の活動について「戦闘行為に必要不可欠な後方支援を行っており、他国による武力行使と一体化した行動」と述べ、武力行使を禁止した憲法9条1項とイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反すると判断した。
また原告は派遣により平和的生存権が侵害されると訴えていたが、判決は平和的生存権を「憲法上の法的な権利」と認定。「憲法9条に違反する国の行為により個人の生命が侵害されるような場合には、裁判所に違憲行為の差し止めを請求するなどの具体的権利性がある」と判断した。
そのうえで、今回の原告の請求については「戦争への協力を強制されるまでの事態が生じているとは言えない」などとして控訴を全面的に棄却した。
同訴訟原告団は04〜06年、自衛隊の派遣差し止めと違憲確認、原告1人当たり1万円の損害賠償を求め、7次に分かれて計3268人が集団提訴し、うち1122人が控訴していた。原告団によると、イラク派遣を巡り、全国の11地裁で提訴されているが、判決はいずれも原告側の訴えを退けている。【秋山信一】


◇首相「傍論だ」
福田康夫首相は17日夜、名古屋高裁判決について「傍論だ。わきの論。判決は国が勝った」と述べた。今後の影響については「問題ない。特別どうこうすることはない」と語った。【木下訓明】


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イラク派遣訴訟判決骨子◆
・「戦闘地域」に該当するバグダッド多国籍軍の兵員を輸送する航空自衛隊の活動は、他国による武力行使と一体化した行動で、イラク特措法憲法9条に違反する。
・原告らが主張する平和的生存権憲法上の法的権利として認められるべきであり、憲法9条に違反する国の行為により個人の生命、自由が侵害されるような場合などには、裁判所に対して違憲行為の差し止めを請求するなど具体的権利性がある。
イラク派遣が原告の具体的権利としての平和的生存権を侵害したとまでは認められない。
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■ことば
自衛隊イラク派遣
イラク戦争初期の03年12月から同国の再建支援を目的に自衛隊を派遣している活動の総称。具体的な活動内容はイラク特措法に基づく基本計画で規定。活動の柱は人道復興支援活動と安全確保支援活動で、活動は非戦闘地域に限定されている。陸上自衛隊は06年7月に撤収したが、航空自衛隊は現在も約200人を派遣している。防衛省によると、04年3月3日〜今年4月16日の間の輸送は694回、計595・8トン。兵士の輸送人数は公表していない。



イラク空自違憲の判断 政府の理屈の矛盾突く(朝日新聞 2008年4月18日(金))

周辺でゲリラ攻撃や自爆テロが頻発しても、航空自衛隊の輸送機が離着陸するバグダッド空港は「非戦闘地域」。戦地への自衛隊派遣と憲法とのつじつま合わせのために政府がひねり出した理屈の矛盾を、名古屋高裁が突いた。空自の活動は来年7月に期限切れを迎えるが、違憲判断で派遣継続のハードルが高まった。


■あいまいな「非戦闘地域
「政府は総合的な判断の結果、バグダッド飛行場は非戦闘地域の要件を満たしていると判断している。高裁の判断は納得できない」。町村官房長官は17日の記者会見で、あからさまに不満を示した。
高裁判決は「バグダッドは、国際的な武力紛争の一環として行われる、人を殺傷し、物を破壊する行為が現に行われている。イラク特措法にいう『戦闘地域』に該当する」と指摘。空自の活動はイラク復興支援特措法にも憲法9条にも違反するとした。
政府はバグダッド全体が戦闘地域か非戦闘地域かの判断はしていないが、少なくとも「バグダッド空港と輸送機が飛ぶ経路は非戦闘地域」(防衛省幹部)と認定している。
町村氏は会見で、「バグダッド飛行場には商業用の飛行機が多数出入りしている。本当に戦闘地域で、俗な言葉で言うと、危険な飛行場であれば、民間機が飛ぶはずがない」と反論した。
高裁判決は戦闘地域であるバグダッド多国籍軍武装兵員を輸送することは「武力行使と一体化する」とも指摘したが、政府は「そもそも非戦闘地域だし、武力行使と一体化するものではない」(町村氏)との立場だ。
ただ、あいまいな「非戦闘地域」という概念は、イラク派遣をめぐるこれまでの国会審議でも、たびたび大きな論争を巻き起こしてきた。
政府はイラクへの自衛隊派遣が憲法9条に違反しない根拠として、「非戦闘地域への派遣」を挙げてきた。だが、非戦闘地域と戦闘地域の区別を聞かれた当時の小泉首相は「どこが戦闘地域で、どこが非戦闘地域か、私に聞かれたってわかるわけない」。さらには「自衛隊が活動しているところは非戦闘地域だ」との答弁まで飛び出した。
政府は「戦闘」を「国または国に準ずる者による組織的、計画的な攻撃」と定義し、自衛隊や米軍などが攻撃を受けて反撃しても、「国家かそれに近い組織」が相手でなければ、その地域は「戦闘地域」にはあたらないとした。「弾が飛び交う状態でも戦闘地域ではない」との論法も成り立ってしまう。
今回の判決は、この矛盾点を指摘した。武装勢力の攻撃や、米軍の度重なる掃討作戦を理由にバグダッドを「戦闘地域」と断定。「バグダッドへの空輸は、他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」とした。
特措法策定にかかわった政府関係者は「『非戦闘地域』の概念は(インド洋で給油活動をする)テロ対策特措法にも盛り込まれた。だが、イラクの治安がここまで悪くなるとは予想できず、結果的にこの概念が大論争を招いた」と漏らす。


■特措法延長に障壁
「それは判断ですか。傍論。脇の論ね」
福田首相は17日夜、名古屋高裁違憲判断への感想を記者団に聞かれ、こう語った。そして、空自の活動について「問題ないんだと思いますよ」と言った。
06年7月に陸上自衛隊サマワから撤退させた後も、日本政府はイラクでの空自活動を継続してきた。「日米同盟維持と国際貢献の観点から、当面、活動を続ける必要がある」との判断で、イラクでの空自は「日米同盟の象徴」の役割を引き受けてきた。
それだけに政府は、違憲判断にかかわらず、「(空自の活動を)今の時点で見直す考えはない」(増田好平防衛事務次官)との立場だ。
ただ、自衛隊イラク派遣に反対してきた野党側は勢いづく。民主党菅直人代表代行は17日の記者会見で「非戦闘地域の判断が、しっかりやれていなかった」と批判。そもそも「非戦闘地域を線引きできるという発想がおかしい」(幹部)との意見が民主党内では大勢だ。
政府・与党は今年1月、インド洋での給油活動を可能にする補給支援特措法を、国会の大幅延長と衆院の3分の2再可決を使ってようやく通したばかり。イラク特措法が来年7月に期限切れとなることから、早くも「(苦労した給油継続の)二の舞いになることだけは避けたい」との声が出る。
そんななか、政府・与党が検討を進めているのが、自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法(恒久法)だ。
自民党は10日、イラク特措法と補給支援特措法、国連平和維持活動(PKO)協力法の3法を統合した形での法整備を目指すプロジェクトチーム(PT)を発足させた。座長の山崎拓・元幹事長は「今国会中に一般法の政府案を提出しないと間に合わない」と意欲を示す。
ただ、公明党が慎重姿勢を崩しておらず、与党間協議のめどすら立っていない。そのうえ、民主党も17日の判決を受け、「まだ一般法の議論をする時期ではない」(幹部)。今回の違憲判断は今後の一般法の議論にも影を落としそうだ。


■緊張の離着陸、700回近い輸送
空自によるイラクでの空輸活動は、小牧基地(愛知県)から派遣された3機のC130輸送機が担っている。クウェートを拠点に、当初はイラク南部のアリとを結んでいたが、06年7月に初めて首都バグダッド、同年9月にはイラク北部アルビルの各飛行場への輸送を開始した。04年3月の活動開始から4年。派遣が5回目となる隊員もいる。
これまでの派遣隊員数は延べ約3千人。クウェートイラク国内の3空港との間を週4〜5日結び、輸送回数は総計694回、運んだ物資の量は約600トンに上る。15次となる派遣隊は3月10日と4月14日に派遣されたばかりだ。
空輸活動では、米軍など多国籍軍の兵士や国連要員、武器・弾薬以外の物資を運ぶとされているが、日本政府・防衛省は詳細を明らかにしていない。差し止め訴訟の原告らによる空輸実績の開示請求でも、開示資料はいずれも日付や内容の部分が「黒塗り」の状態だった。
日本政府は「バグダッドなどの空港は非戦闘地域」としているが、実際は「飛行場の離着陸時に地上から攻撃を受ける危険性が高い」(自衛隊関係者)とされ、隊員の精神的負担は大きい。C130がイラク国内で離着陸する時には、通常時に比べて急角度での上昇や降下をすることで低い高度にいる時間を短くしているという。
バグダッドなどへの飛行では、C130に取り付けられたミサイル警報装置が鳴り、旋回やフレア(おとりの熱源)を出すなどの回避行動をとることもある。昨年12月、現地を視察した田母神俊雄航空幕僚長もC130でバグダッド空港に着陸する間際、「ミサイル警報装置が鳴り、一瞬緊張した」と話した。
これまでの飛行で、C130が実際にミサイルの追尾を受けたことは確認されていない。しかし、05年には英空軍のC130が、バグダッド空港離陸後に地上からの攻撃を受けて墜落するなどの被害が出ている。
「空輸活動が武力行使になるのか」「インド洋の給油活動なども違憲になってしまうのではないか」。活動を続ける制服組は今回の判決にとまどう。ある自衛隊関係者は「判決に法的な効力がないなら活動にすぐに影響はないが、今後は政治で議論されるのではないか」と、判決の波及を懸念した。「活動を続ける隊員や家族がかわいそうだ」との声も漏れた。



自衛隊イラク派遣:イラク活動、一部違憲判断 「実質、完全勝訴だ」(毎日新聞 2008年4月18日(金))

原告団、喜び全開「速やかに撤退を」
市民3000人以上が原告となった自衛隊イラク派遣差し止め訴訟の控訴審判決。航空自衛隊による多国籍軍の空輸活動を違憲とした名古屋高裁の判決に、原告団は「歴史に残る画期的な判決」と喜びを分かち合った。自衛隊イラク派遣開始から4年半。混迷するイラク情勢を踏まえ、原告団は「司法判断を重んじ、速やかに政府は撤退を決断すべきだ」と語気を強めた。【式守克史】
「司法はまだ生きていることを感じた。勇気のある判決だ」。04年2月の提訴から4年決後に開かれた原告団の報告集会で、内河恵一弁護団長は涙ぐんだ。
憲法判断に踏み込まなかった1審・名古屋地裁判決に、憤りを抱いて控訴審に臨んだ原告団。06年から始まった審理では、軍事史憲法問題の専門家の証人尋問を行ったり、空自の空輸活動のDVDを法廷で放映するなどして、イラク派遣の違憲性を主張してきた。
原告団長で大学講師の池住義憲さん(63)は「憲法9条を持つ国に生きている人間として誇りを持って語れる判決」と喜び、「私たちの行動は今日から始まる。この判決を使って、どのように違憲行為を止めるかだ」と話した。
集会には原告の一人で元レバノン大使の天木直人さん(60)も参加。「法廷でこの判決を一字一句聞いた。一原告として元官僚として今日の判決は実質的な完全勝訴だ」とかみしめるように語った。
集会の会場には「画期的判決」「平和的生存権を認める」などと書かれた幕が張られ、弁護団が説明をするたびに、参加者から大きな拍手がわき上がった。山梨から原告団として参加した男性は「非常に感無量です」と涙声で語り、大阪から来た女性も「涙が出てとまらない。本当に参加してよかった」と話した。


◇最後の判決文 先月、依願退官−−青山裁判長
自衛隊イラク活動の一部を違憲と判断した青山邦夫裁判長は66年司法試験に合格。福井地裁判事補を振り出しに、94年名古屋地裁民事7部の部総括判事、01年金沢地裁所長を歴任し、03年1月から名古屋高裁民事3部の部総括判事を務めていた。今年6月の定年を前に、今回の判決文を書いたのを最後に3月31日に依願退官した。
名古屋地裁の部総括判事として中華航空機墜落事故(94年)をめぐる訴訟の審理を途中まで指揮し、96年の口頭弁論で航空機事故の賠償について規定した改正ワルソー条約に基づく裁判の管轄権が日本にあるとの判断を事実上示した。
一方、名古屋高裁の部総括判事としては04年1月、核燃料サイクル開発機構が放射性廃棄物の処分地選定調査に関する文書を不開示とした処分の取り消しを命じた1審判決を破棄し、差し戻す判決を言い渡した。07年6月には、太平洋戦争末期に名古屋市の軍需工場に「女子勤労挺身(ていしん)隊員」として動員された韓国人女性らが国と三菱重工業に損害賠償などを求めた訴訟で、動員を強制連行と認定する一方、原告側の控訴を棄却した。【石原聖】


◇「画期的」「勇み足」−−専門家
今回の名古屋高裁判決について専門家の反応は「画期的」「勇み足」と分かれた。
浦部法穂(のりほ)・名古屋大法科大学院教授(憲法学)は「小泉元首相は『自衛隊が行く所が非戦闘地域』などと言っていたが、そうしたイラク特措法制定過程のごまかしを法的な観点から突いた論理的な判断」と評価した。
小沢隆一・東京慈恵会医科大教授(憲法学)も「イラク特措法が合憲だという政府よりの解釈をしても、自衛隊の空輸活動は違憲だとするのは画期的。政府は判決を厳粛に受け止め、反省してほしい」と評価した上で「差し止め請求自体が却下されているのは残念だ」と述べた。
これに対し、百地章・日本大法学部教授(憲法学)は「原告の訴えを退けながら原告の政治的主張を認めたねじれ判決だ」と批判。「自衛隊派遣は自衛隊の合憲性とともに国の存立にかかわる高度な政治的問題で、判決で国家の統治行為に踏み込むのは司法の勇み足であり支持できない。また国は上告できないため、最高裁の判断が示される機会が奪われており、違憲審査制度のあり方から見ても問題がある」と疑問を示した。【飯田和樹、中村かさね、木村文彦】


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■解説
◇海外活動拡大に一石
航空自衛隊による多国籍軍の空輸活動を明確に違憲と指摘した名古屋高裁判決は、憲法論議をあいまいにしたまま拡大を続ける自衛隊の海外活動に疑問を投げかけた。一方で、判決は原告の控訴を棄却し、政府も早々と派遣を見直す考えはないことを表明したことから当面の“実効性”はない。それでも、自衛隊に関する憲法判断を避けてきた司法が、踏み込んだ指摘をした意味は重い。
同様の訴訟は全国11地裁に起こされたが、原告敗訴が続いた。いずれも自衛隊イラク派遣は原告の具体的な権利、義務に直接影響を及ぼすものでないとして門前払いした。
今回の判決も結論への道筋では同様の判断をしている。しかし、憲法9条の政府解釈やイラク特別措置法の規定に基づき、自衛隊イラクでの活動実態を詳細に検討したのが画期的だ。「自衛隊が行く所が非戦闘地域」と繰り返してきた政府に対し「首都バグダッドでは一般市民にも多数の犠牲者が出ており『戦闘地域』だ」と認定した。
自衛隊を巡る訴訟で過去に憲法判断に踏み込んだ判決は、自衛隊の存在を違憲とした73年の「長沼ナイキ基地訴訟」の札幌地裁判決があるくらいだ。さらに、今回の判決は原告が主張した「平和的生存権」についても、国の武力行使などで個人の生命や自由が侵害される場合は、裁判所に保護や救済を求められる具体的な権利と認める異例の判断をした。
憲法改正の議論に加え、自衛隊海外派遣の要件を定める恒久法に向けた論議も活発化している。名古屋高裁自衛隊の活動に関する国民的議論に向け、問題提起したと言える。【式守克史、北村和巳】



イラク輸送違憲:政府は静観 海外派遣への影響懸念も(毎日新聞 2008年4月17日(金))

航空自衛隊イラク派遣をめぐる17日の名古屋高裁判決は、空自の兵士輸送を「多国籍軍の戦闘行為に必要不可欠な後方支援を行っている」と違憲認定した。「非戦闘地域での支援は武力行使の一体化に当たらない」としてきた政府見解と真っ向から異なり、自衛隊の海外派遣の根拠を否定しかねない判断だ。判決自体は国側の勝訴で、政府は「活動に影響を与えない」(町村信孝官房長官)と静観の構えだが、今後の派遣に与える影響を懸念する声も出ている。
イラク復興特別措置法は戦闘行為が行われておらず、かつ自衛隊の活動期間を通じて戦闘行為ができないと認められる地域を非戦闘地域と定義している。「非戦闘地域ならば派遣しても自衛隊武力行使に参加しない」との論理から生み出された概念だった。
政府は空自が活動するクウェートの空港とバグダッド飛行場、2地点間の空路を非戦闘地域と認定している。しかし、判決は昨年6月に久間章生防衛相(当時)が「バグダッド空港の中でも外からロケット砲が撃たれるということもある」と国会答弁したことなどを引き、バグダッド全体を事実上「戦闘地域」と判断した。
これに対し、町村氏は17日の記者会見で「非戦闘地域の要件を満たしている」と改めて表明し、防衛省首脳は「戦闘地域とは違うに決まってるだろう」と不快感を示した。
高裁判断と政府見解の大きな溝は、兵士輸送をめぐる見解にもある。判決は、輸送について(1)多国籍軍と密接に連携(2)戦闘行為が行われている地域と地理的に近い(3)戦闘要員を輸送している−−などと指摘。多国籍軍の戦闘行為の重要な要素になっているとして、「武力行使との一体化」と認定した。
これは、周辺事態法やテロ特措法などで、自衛隊の海外派遣をめぐって政府がこれまで積み上げた「非戦闘地域での後方支援は合憲」との見解を突き崩しかねない。このため、政府内からは「安全保障を分かっていない法律家の見解」との声も上がっている。【松尾良】



イラク輸送違憲:野党「当然の判断」と評価(毎日新聞 2008年4月17日(金))

航空自衛隊イラク派遣をめぐる17日の名古屋高裁違憲判断を受け、民主党菅直人代表代行は記者会見で、04年に小泉純一郎首相(当時)が「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」と述べたことに触れつつ、「インチキ答弁が裁判所によって否定された。法の趣旨から見て(違憲判断は)当然」と指摘した。
共産党穀田恵二国対委員長は記者団に「政府が言う『人道的支援』ではなく、イラク占領の実質的支援だったと明らかになった」と評価。社民党福島瑞穂党首も「国民の思いを裁判所が言ってくれた」と語った。



イラク輸送違憲:空自幹部「士気に影響出ねばいいが」(毎日新聞 2008年4月17日(金))

防衛省自衛隊では17日、名古屋高裁判決に驚きと失望の声が上がった。増田好平・防衛事務次官は「大変遺憾だが、今の時点で派遣を見直す考えはない」と強調した。
イラク派遣は03年から始まった。航空自衛隊は隣国クウェートからイラクの▽バグダッド▽アリ▽エルビルの3空港に多国籍軍の人員・物資を週4、5回輸送している。大型のC130輸送機を持つ小牧基地(愛知県)を中心に延べ約3200人が派遣された。
空自幹部は「インド洋の給油活動に派遣された海上自衛隊の司令官が『憲法違反と言われた一国民として我々にも意地と誇りがある』と話していたのを思い出した」と残念そう。別の幹部は「現地の士気に影響が出なければいいが」と心配した。防衛省幹部は「(イージス艦衝突事故などの)一連の不祥事が沈静化しただけに、新たな国政の火種にならなければいいが」と話した。
2日前の15日には約100人の交代要員が現地に向かった。イラクでは空色に塗装した自衛隊の輸送機が「幸福の青い鳥」と呼ばれており、それをPRするフィルムを日本の電車内のテレビなどで放映したばかりだった。【本多健】



自衛隊イラク派遣:輸送違憲 政府「活動に影響ない」 「要件満たす」改めて表明(毎日新聞 2008年4月18日(金))

航空自衛隊イラク派遣をめぐる17日の名古屋高裁判決は、空自の兵士輸送を「多国籍軍の戦闘行為に必要不可欠な後方支援を行っている」と違憲認定した。「非戦闘地域での支援は武力行使の一体化に当たらない」としてきた政府見解と真っ向から異なり、自衛隊の海外派遣の根拠を否定しかねない判断だ。判決自体は国側の勝訴で、政府は「活動に影響を与えない」(町村信孝官房長官)と静観の構えだが、今後の派遣に与える影響を懸念する声も出ている。【松尾良】
イラク復興特別措置法は戦闘行為が行われておらず、かつ自衛隊の活動期間を通じて戦闘行為ができないと認められる地域を非戦闘地域と定義している。「非戦闘地域ならば派遣しても自衛隊武力行使に参加しない」との論理から生み出された概念だった。
政府は空自が活動するクウェートの空港とバグダッド飛行場、2地点間の空路を非戦闘地域と認定している。判決は昨年6月に久間章生防衛相(当時)が「バグダッド空港の中でもロケット砲が撃たれるということもある」と国会答弁したことなどを引き、バグダッド全体を事実上「戦闘地域」と判断した。
これに対し、町村氏は17日の記者会見で「非戦闘地域の要件を満たしている」と改めて表明し、防衛省首脳は「戦闘地域とは違うに決まってるだろう」と不快感を示した。
高裁判断と政府見解の大きな溝は、兵士輸送をめぐる見解にもある。判決は、輸送について(1)多国籍軍と密接に連携(2)戦闘行為が行われている地域と地理的に近い(3)戦闘要員を輸送している−−などと指摘。多国籍軍の戦闘行為の重要な要素になっているとして、「武力行使との一体化」と認定した。
これは、周辺事態法やテロ特措法などで、自衛隊の海外派遣をめぐって政府がこれまで積み上げた「非戦闘地域での後方支援は合憲」との見解を突き崩しかねない。このため、政府内からは「安全保障を分かっていない法律家の見解」との声も上がっている。


◇野党「判断当然」
民主党菅直人代表代行は、04年に小泉純一郎首相(当時)が「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」と述べたことに触れつつ、「インチキ答弁が裁判所によって否定された。法の趣旨から見て(違憲判断は)当然」と指摘した。
共産党穀田恵二国対委員長は「『人道的支援』ではなく、イラク占領の実質的支援だったと明らかになった」と評価。社民党福島瑞穂党首も「国民の思いを裁判所が言ってくれた」と語った。



自衛隊イラク派遣:空自イラク活動、一部違憲判断(要旨)(毎日新聞 2008年4月18日(金))

自衛隊イラク派遣の違憲性について】
現在のイラクにおいては、多国籍軍と、国に準ずる組織と認められる武装勢力との間で、国際的な武力紛争が行われているということができる。特に、首都バグダッドは、アメリカ軍と武装勢力の双方、一般市民に多数の犠牲者を続出させている地域で、まさに国際的な武力紛争の一環として人を殺傷し、または物を破壊する行為が現に行われている地域というべきであって、イラク特措法にいう「戦闘地域」に該当するものと認められる。
空自は、アメリカからの要請を受け、06年7月ごろ以降、アメリカ軍などとの調整のうえで、バグダッド空港への空輸活動を行い、現在に至るまで、C130H輸送機3機により、週4〜5回、定期的にクウェートのアリ・アルサレム空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送していることが認められる。このような空自の空輸活動は、主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われ、それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても、現代戦において輸送などの補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であると言えることを考慮すれば、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる。従って、このような空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍武装兵員を、戦闘地域であるバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない行動であるということができる。
よって、現在イラクにおいて行われている空自の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。


【平和的生存権について】
平和的生存権は、すべての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利である。憲法前文が「平和のうちに生存する権利」を明言しているうえに、憲法9条が国の行為の側から客観的制度として戦争放棄や戦力不保持を規定し、さらに、人格権を規定する憲法13条をはじめ、憲法第3章が個別的な基本的人権を規定していることからすれば、平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認められるべきである。平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的または参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対してその保護・救済を求め、法的強制措置の発動を請求し得る意味における具体的権利性が肯定される場合がある。例えば、憲法9条に違反する国の行為、すなわち戦争の遂行、武力の行使などや、戦争の準備行為などによって、個人の生命、自由が侵害されまたは侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争などによる被害や恐怖にさらされるような場合、また、憲法9条に違反する戦争の遂行などへの加担・協力を強制されるような場合には、裁判所に対し当該違憲行為の差し止め請求や損害賠償請求などの方法により救済を求めることができる場合があると解することができ、その限りでは平和的生存権に具体的権利性がある。


【控訴人らの請求について】
(1)違憲確認請求について
ある事実行為が抽象的に違法であることの確認を求めるものであって、現在の権利または法律関係に関するものということはできないから、確認の利益を欠き、いずれも不適法というべきである。


(2)差し止め請求について
自衛隊イラク派遣は、イラク特措法の規定に基づき防衛大臣に付与された行政上の権限による公権力の行使を本質的内容とするものと解され、行政権の行使に対し、私人が民事上の給付請求権を有すると解することはできないことは確立された判例であるから、本件の差し止め請求にかかる訴えは不適法である。
本件派遣は控訴人らに直接向けられたものではなく、控訴人らの生命、自由が侵害されまたは侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争などによる被害や恐怖にさらされ、また、憲法9条に違反する戦争の遂行などへの加担・協力を強制されるまでの事態が生じているとは言えず、現時点において、控訴人らの平和的生存権が侵害されたとまでは認められない。従って、控訴人らは、防衛大臣の処分の取り消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず、行政事件訴訟(抗告訴訟)における原告適格性が認められない。


(3)損害賠償請求について
憲法9条違反を含む本件派遣によって強い精神的苦痛を被ったとして、被控訴人に対し損害賠償請求を提起しているものと認められそこに込められた切実な思いには、平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれている。しかし、具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められず、民事訴訟上の損害賠償請求において認められるに足りる程度の被侵害利益が生じているということはできない。



社説:イラク空自違憲 あいまいな説明は許されない(毎日新聞 2008年4月18日(金))

イラク復興特別措置法に基づく航空自衛隊バグダッドへの空輸活動を違憲とする判決が出た。自衛隊イラク派遣に反対する市民グループが国を相手取って、派遣が憲法違反であることの確認を求めた控訴審で、名古屋高裁(青山邦夫裁判長)が17日、判断したものだ。
陸上自衛隊は06年7月にイラクサマワから撤退したが、空自は昨年6月のイラク特措法改正で活動が2年間延長された。イラクで5年目の活動を展開しており、クウェートから首都バグダッドへの輸送などを担当している。
判決はまず、バグダッドで米軍などと武装勢力との間で激しい武力衝突が起きていることを指摘し、特措法でいう「戦闘地域」にあたると認定した。そのうえで、「多国籍軍武装兵員を戦闘地域であるバグダッドに空輸する活動は、他国による武力行使と一体化した行動で、武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」とした。
政府と同じ憲法解釈で特措法を合憲としたとしても、活動を「非戦闘地域」に限定した特措法と、武力行使を禁じた憲法9条に違反するとの判断である。
重要なのは、判決がイラク国内の紛争は多国籍軍武装勢力による「国際的な武力紛争」であるとの判断に基づき、バグダッドを「戦闘地域」と認定したことだ。政府がイラクでの自衛隊の活動を合憲だと主張してきた根拠を根底から覆すものだからだ。
イラク自衛隊を派遣した小泉純一郎首相(当時)は、国会で非戦闘地域について質問されて、「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である」と答弁し、物議をかもしたことがある。また、党首討論では、イラク国内の非戦闘地域について聞かれ、「イラク国内の地名とかを把握しているわけではない。どこが非戦闘地域かと聞かれても、分かるわけがない」と発言したこともあった。
判決は、極めてあいまいだった当時の首相発言を指弾する内容でもある。政府は判決を真摯(しんし)に受け止め、活動地域が非戦闘地域であると主張するなら、その根拠を国民にていねいに説明する責務がある。
さらに、判決が輸送対象を「武装兵員」と認定したことも注目に値する。政府はこれまで、空自の具体的な輸送人員・物資の内容を明らかにしてこなかった。小泉首相は、当時の記者会見で「空自による物資の輸送はしている。しかし、どんな活動をしているかは部隊の安全の面があり、公表できない部分もある」と述べていた。
しかし、輸送対象に米軍を中心とする多国籍軍が含まれており、当初の「人道復興支援」から「米軍支援」に変質したのではないかとの見方が前からあった。
政府は、輸送の具体的な内容についても国民に明らかにすべきである。



社説:イラク判決―違憲とされた自衛隊派遣(朝日新聞 2008年4月18日(金))

あのイラクに「非戦闘地域」などあり得るのか。武装した米兵を輸送しているのに、なお武力行使にかかわっていないと言い張れるのか。
戦闘が続くイラクへの航空自衛隊の派遣をめぐって、こんな素朴な疑問に裁判所が答えてくれた。いずれも「ノー」である。
自衛隊が派遣されて4年。長年、疑念を抱いていた人々も「やっぱり」という思いを深めたのではないか。
航空自衛隊の派遣に反対する3千人余りの人々が派遣差し止めを求めて起こした訴訟で、名古屋高裁が判決を言い渡した。
差し止め請求は退けられ、その意味では一審に続いて原告敗訴だった。だが、判決理由のなかで憲法などとのかかわりが論じられ、派遣当時の小泉政権が示し、その後の安倍、福田両政権が踏襲した論拠を明確に否定した。
判決は、イラクの現状は単なる治安問題の域を超え、泥沼化した戦争状態になっていると指摘した。とくに航空自衛隊が活動する首都バグダッドの状況はひどく、イラク特措法の言う「戦闘地域」にあたるとした。
小泉政権は、イラクのなかでも戦火の及ばない「非戦闘地域」が存在し、そこなら自衛隊を派遣しても問題ないと主張した。陸上自衛隊を派遣した南部サマワや、首都の空港などはそれにあたるというわけだ。
判決はそれを認めず、空輸活動はイラク特措法違反と明確に述べた。空自の輸送機はこれまで攻撃を受けなかったものの、何度も危険回避行動をとったことを防衛省は認めている。実際に米軍機などが被弾したこともあった。判決の認識は納得がいく。
もう一つ、多国籍軍武装兵員を空輸するのは、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力を使ったと見られても仕方ない、つまり憲法9条に違反するとした。
もともと、無理のうえに無理を重ねた法解釈での派遣だった。当時の小泉首相は、非戦闘地域とはなにかと国会で聞かれ、「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域」などと開き直ったような答弁を繰り返した。
判決後、町村官房長官は派遣続行を表明した。最高裁による最終判断ではないからということだろう。それでも、高裁の司法判断は重い。判決を踏まえ、与野党は撤収に向けてすぐにも真剣な論議を始めるべきだ。
日本の裁判所は憲法判断を避ける傾向が強く、行政追認との批判がある。それだけにこの判決に新鮮な驚きを感じた人も少なくあるまい。
本来、政府や国会をチェックするのは裁判所の仕事だ。その役割を果たそうとした高裁判決が国民の驚きを呼ぶという現実を、憲法の番人であるはずの最高裁は重く受け止めるべきだ。



社説:イラク空自判決 兵輸送は武力行使ではない(読売新聞 2008年4月18日(金))

イラクでの自衛隊の活動などに対する事実誤認や、法解釈の誤りがある。極めて問題の多い判決文である。
航空自衛隊クウェートイラクの間で実施中の空輸活動の一部について、名古屋高裁は、国際紛争解決の手段としての武力行使を禁じた憲法9条に違反するとの判断を示した。
市民団体メンバーらが空自のイラク派遣の違憲確認と差し止め、損害賠償を国に求めていた。
判決は、原告の請求をいずれも退けた。違憲確認の請求についても「利益を欠き、不適法」と判断している。それなのに、わざわざ傍論で「違憲」との見解を加える必要があったのだろうか。
国は、訴訟上は勝訴したため、上告できない。原告側も上告しないため、この判決が確定する。こうした形の判例が残るのは、好ましいことではない。
イラク復興支援特別措置法は、自衛隊の活動について、人道復興支援などを「非戦闘地域」で行うよう定めている。
判決文は、イラクでの多国籍軍と国内の武装勢力との抗争を「国際的な戦闘」と“認定”した。それを前提として、空自による多国籍軍兵の空輸は「他国による武力行使と一体化した行動」で、武力行使に当たる、と結論づけた。
だが、多国籍軍による武装勢力の掃討活動は、イラクの安定と安全への貢献を求めた2003年5月の国連安全保障理事会決議1483などを根拠としている。イラク政府も支持しており、正当な治安維持活動にほかならない。
仮に掃討活動が武力行使だとしても、憲法上の問題はない。空自による多国籍軍兵の空輸は、武力行使と一体化しないからだ。
内閣法制局は、「一体化」の有無を判断する基準として、地理的関係、密接性など4項目を挙げている。空自の輸送機から降り立った兵士がすぐに戦闘活動を開始するなら、一体化する恐れもあるだろうが、実態は全く違う。
判決文は、バグダッドが「戦闘地域」に該当するとしている。
だが、イラク特措法に基づく基本計画は、空自の活動地域をバグダッド空港に限定している。空港は、治安が保たれ、民間機も発着しており、「戦闘地域」とはほど遠い。空港が「戦闘地域」になれば、空自は活動を中止する。
イラク空輸活動は、日本の国際平和活動の中核を担っている。空自隊員には、今回の判決に動じることなく、その重要な任務を着実に果たしてもらいたい。



【主張】空自派遣違憲判決 平和協力を否定するのか(産経新聞 2008年4月18日(金))

イラクでの航空自衛隊の平和構築や復興支援活動を貶(おとし)めるきわめて問題のある高裁判断だ。
名古屋高裁自衛隊イラク派遣差し止め訴訟の控訴審判決で、差し止めと慰謝料請求の訴えを棄却しながらも「米兵らを空輸した空自の活動は憲法9条1項に違反するものを含んでいる」と、違憲判断を示した。
原告側は上告しない方針で、国側も上告できない。自衛隊イラク派遣を違憲とする初の判決は確定する。この違憲判断は主文と無関係な傍論の中で示された。
傍論で違憲の疑義を表明することは、憲法訴訟のあり方から逸脱している。
しかも被告の国側は最高裁への上告を封じられる。これは三審制に基づき最高裁をもって憲法判断を行う終審裁判所としたわが国の違憲審査制を否定するものと指摘せざるを得ない。
違憲判断自体も問題だ。空自が多国籍軍の兵士をバグダッドへ空輸する任務は、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力行使したとの評価を受けざるを得ないとした。
空自は平成16年3月から、クウェートを拠点にC130輸送機で陸自などの人員、物資をイラク南部に輸送してきた。一昨年に陸自が撤退後、輸送範囲をバグダッドなどに拡大し、現在、国連や多国籍軍の人員・物資を輸送している。政府は「バグダッドイラク特別措置法がうたう非戦闘地域の要件を満たしている」と主張しており、空自は当たり前の支援活動を行っているにすぎない。
忘れてならないのは空自の活動が国連安保理による多国籍軍の駐留決議も踏まえていることだ。
これにより、日本はイラクをテロリストの温床にしないという国際社会の決意を共有している。
憲法9条で禁止されている「武力による威嚇又は武力の行使」は、侵略戦争を対象にしたものと解釈するのが有力だ。国際平和協力活動を違憲という判断は日本が置かれている国際環境を考えれば、理解に苦しむ。
自衛隊違憲」判断は35年前、あったが、上級審で退けられた。今回は、統治の基本にかかわる高度に政治的な行為は裁判所の審査権が及ばないという統治行為論を覆そうという狙いもあるのだろう。傍論に法的拘束力はない。
政府は空自の活動を継続すると表明している。当然なことだ。



【社説】イラク空自違憲 『派兵』への歯止めだ(東京新聞 2008年4月18日(金))

航空自衛隊イラク派遣は憲法九条に違反している。名古屋高裁が示した司法判断は、空自の早期撤退を促すもので、さらには自衛隊の海外「派兵」への歯止めとして受け止めることができる。
高裁の違憲判断はわかりやすい論理になっている。
イラク特措法は、人道復興支援のため「非戦闘地域」での活動を規定している。空自のC130輸送機は、武装した米兵らをバグダッドなどに空輸している。ところが、バグダッドは戦闘地域、すなわち戦場である。
戦場に兵士を送るのは軍事上の後方支援となる。これは非戦闘地域に活動を限定したイラク特措法から逸脱し、武力行使を禁じた憲法九条に違反するとした。
イラク戦争開戦から五年余。大量破壊兵器保有、国際テロの支援を理由に米英両国は攻撃に踏み切った。「事前に悪をたたく」という米ブッシュ政権の先制攻撃論が理論的支柱となった。
いずれも見込み違いの「大義なき開戦」だったことは明らかだ。この五年は、イラク人にとり苦難と混乱の日々であった。世界保健機関(WHO)によると、十五万人以上のイラク人が死亡した。
米兵死者が四千人を超す米国も、厭戦(えんせん)気分が満ちている。秋の大統領選ではイラク問題が最大争点となりそうだ。
では、小泉政権の「開戦支持」は正しかったか。この支持の延長に自衛隊の派遣があった。イラク南部サマワに派遣された陸上自衛隊は、インフラ整備など復興支援の活動を展開したが、空自は情報開示に乏しく、活動実態は伝わっていない。
高裁が違憲とした以上、空自の輸送活動をこのまま継続することは難しく、撤退も視野に入れた検討が必要ではないか。福田政権にとっては、道路財源や高齢者医療の内政問題に加え、日米同盟にかかわる安全保障上の外交課題を背負うことになった。
もう一つ、今回の違憲判決が明確にしたのは、自衛隊海外派遣と憲法九条の関係である。与党の中には、自衛隊の海外派遣を恒久法化しようという動きがある。しかし、九条が派遣でなく「派兵」への歯止めとなることを憲法判断は教えた。
イラク派遣に限らず、司法は自衛隊に関する憲法判断を避けてきた。今回の踏み込んだ判決を受け止め、平和憲法の重さとともに、世界の中にある日本の役割を考える機会としたい。



社説:イラク派遣違憲判断/この重み受け止めなくては(河北新報 2008年4月18日(金))

とかく憲法判断を避けがちな今の裁判所にしては、かなり踏み込んだメッセージだ。イラクでの航空自衛隊の空輸活動について名古屋高裁がきのう、憲法九条に違反するとの初めての違憲判断を示した。
高裁判決は、バグダッドイラク復興支援特別措置法(イラク特措法)上の「戦闘地域」に当たるとも認定した。政府はまず、この指摘に対して実情をしっかり説明する責任がある。
小泉純一郎政権による憲法の限りない拡張解釈によって、イラク派遣は実現した。既に陸上自衛隊は撤収を終えているが、自衛隊の海外派遣の当否、国際貢献はどうあるべきかという根本的な議論は、依然として整理されていない。
憲法論議自体も、政権の移行と国会のねじれ構造によって熱が冷めた状態になっている。そんな中、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定の動きは進む。それでいいか。司法のメッセージの重みを、はぐらかすことなく、きちんと受け止めて、今後の道筋を考えたい。
原告団自衛隊派遣の差し止めや慰謝料を国に求めていた。一審は原告の全面敗訴。高裁判決も原告の控訴は棄却した。仙台地裁など全国11カ所で同様の提訴があったが、仙台をはじめこれまではいずれも原告敗訴に終わっている。
今回の高裁判決は、判断の前提としてイラクの状況に具体的に踏み入った。宗派対立、武装勢力多国籍軍との抗争が複雑に絡み合った現状を「泥沼化した戦争状態」と呼び、特にバグダッドはもはや「非戦闘地域」に当たらないと認定した。
空自の輸送活動についても、それ自体を武力行使と決めつけたわけではない。多国籍軍武装兵員のバグダッドへの空輸。高裁はその点に着目して、「他国による武力行使と一体化した行動。自らも武力を行使したとの評価を受けざるを得ない」と結論付けた。
町村信孝官房長官は判決後の会見で「納得できない」と述べ、バグダッド空港周辺が「非戦闘地域」であるとの認識を重ねて強調した。判決に即して、国会審議の中であらためてその概念を検証する必要がある。
高裁判決でもう1つぜひ注目したいのは、「平和的生存権」の位置付けである。
「平和的生存権はすべての基本的人権の基礎にある。単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまらず、憲法上の法的な権利として認められるべきだ」「その保護・救済を求め、裁判所に違憲行為の差し止めなど法的強制措置の発動を請求できる場合がある」
政府に向けてのみならず、司法もまた憲法判断にかかわる自らの役割をきちんと認識し直そうとする宣言と受け止めよう。
原告の請求は退けられたという結論の外形や、空自に限定した点だけを見れば、今回の判決の意味はそう大きくないとみなすこともできる。しかし、憲法国際貢献の望ましい形を考えていく上で、耳をふさいではならない重いメッセージが込められている。



社説:イラク空自違憲 高裁判断を無視するのか(新潟日報 2008年4月18日(金))

イラクでの航空自衛隊の活動は憲法九条に違反する」。自衛隊イラク派遣に初めて裁判所が違憲の判断を下した。
自衛隊イラク派遣差し止めなどを求めた訴訟の控訴審で十七日、名古屋高裁が空自の活動を「多国籍軍武装兵員を戦闘地域に空輸することは、武力行使と一体化した行動」と断じたのだ。
この判断は憲法九条第一項に定めた「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久に放棄する」を、厳格に当てはめたものだ。憲法順守を明快に打ち出しており、極めて画期的だ。
一方、政府は「自衛隊活動には影響を与えるものではない。航空機の活動は引き続きやっていく」(町村信孝官房長官)と無視する構えだ。
憲法は国の根幹を支える大原則だ。空自活動が違憲と判断されたからには、イラクからの撤退が筋である。
今回のイラク派遣差し止め訴訟は、天木直人元駐レバノン大使や市民らが二〇〇四年二月、名古屋地裁に提訴した。一審は憲法判断には触れず訴えを退けた。原告側は控訴していた。
イラクへの自衛隊派遣は、〇三年七月に成立したイラク復興支援特別措置法に基づく。陸上自衛隊は〇四年からイラク南部のサマワを拠点に、周辺の医療指導や学校、道路などの修復活動を行い、〇六年七月に撤収した。
空自はクウェートから陸自拠点へ人員、物資を空輸する任に当たっていた。当初は陸自部隊への空輸が主だったが、陸自撤収後も活動を続け、多国籍軍への輸送を任務としていた。
名古屋高裁は、この「多国籍軍への輸送協力」を違憲とした。
同様の訴訟は全国で起こされている。しかし、憲法判断がなされたことはなかった。そこに踏み込んだ名古屋高裁の判断に司法の意気込みを感じる。憲法の空洞化への警鐘といえよう。
判決自体は、控訴理由のイラク派遣差し止めと慰謝料請求を一審同様に認めなかった。
形の上では原告敗訴だが、「違憲」の判断を引き出した。実質的には原告の完勝といっていい。原告は上告しない。勝訴した国は上告できず、名古屋高裁の判決は確定することになる。
空自は現在も首都バグダッドなどへの空輸活動を続けている。名古屋高裁はそこを「戦闘地域」と認定した。特措法にも抵触していることになる。
自衛隊の海外派遣をめぐっては、自民党がプロジェクトチームを発足させるなど、恒久法制定に向けた動きが活発化している。
名古屋高裁の判断は、そうした流れを厳しく戒めた格好だ。政府と国会の真摯(しんし)な対応を求めたい。



社説:イラク派遣 「違憲」判断の重大さ(信濃毎日新聞 2008年4月18日(金))

航空自衛隊の空輸活動は憲法に違反する−。名古屋高裁が明快な判断を下した。
イラクへの自衛隊派遣をめぐる訴訟で、違憲判断は初めてだ。これまで全国10カ所余の裁判所で提訴されているものの、ことごとく退けられてきた。
違憲判断は確定する見通しになっている。政府は重く受け止め、イラクからの撤収に向けた準備を急がなければならない。
イラクではいまも、武装勢力と米軍などとの戦闘が続いている。そのイラク自衛隊が派遣されるのは、2003年7月に成立したイラク復興支援特措法が法的な根拠になっている。
空自はクウェートを拠点にC130輸送機で、当初イラク南部サマワで活動していた陸上自衛隊員や物資を主に運んでいた。
06年7月に陸上自衛隊が撤収してからは、首都バグダッドなどへも活動範囲を広げ、多国籍軍の兵士や国連の人員、物資などを輸送するようになった。
とくに多国籍軍は、米軍を中心に武装勢力の掃討作戦などに当たっている。空自の活動も当然、軍事支援の色合いが濃くなる。集団的自衛権の行使の問題に触れるとされるのは、そのためだ。
名古屋高裁は「多国籍軍武装兵員を戦闘地域のバグダッドに空輸するものについては武力行使と一体化した行動」と言い切り、憲法九条に違反するとした。イラク特措法にも違反するとしている。
訴訟は、天木直人元駐レバノン大使や市民らが、派遣の差し止めや精神的苦痛への慰謝料を求めて起こしていた。一審では原告側が全面敗訴した。
二審の名古屋高裁も、派遣の差し止めなどは認めなかった。イラクに約2年半、人道復興支援として派遣された陸上自衛隊についての言及もなかった。
形の上では原告の負けである。しかし実質的には、原告勝訴の判決といえる。
政府は、空自の派遣を続行する方針だ。町村信孝官房長官は、商業用飛行機が出入りするバグダッド飛行場を挙げ「非戦闘地域の要件を満たす。武力行使と一体化していない」と反論した。
政府が対米協力を重視し、自衛隊派遣ありきの姿勢を続けることにどこまで理解が得られるか、疑問はますます募る。
政府や自民党を中心に、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法(一般法)制定に向けた動きがある。いったん立ち止まって慎重に対処するよう求める。



社説:空自派遣「違憲」 司法判断の意味は重い(中国新聞 2008年4月18日(金))

いつの間にか一線を越える事態になっていたのではないか。そんな疑問をあらためて突き付けられたようだ。名古屋高裁はきのう、イラクに派遣された航空自衛隊による兵士の輸送について憲法違反との判断を示した。市民らが派遣差し止めなどを国に求めた訴訟の控訴審判決である。
同じような訴訟は、岡山や大阪などの地裁でも起こされている。これまではすべて原告の訴えが退けられてきた。違憲判断は初めてである。
差し止めや慰謝料の請求は、今回も認められなかった。原告側が敗れた形ではあるが、実質的には勝訴と言っていいだろう。勝った国側は上告できないため、違憲判断を含んだ高裁判決が確定することになる。
判決は、バグダッドの現状についてイラク復興支援特別措置法が自衛隊の活動を認めていない「戦闘地域」に当たると認定。そのバグダッド多国籍軍武装兵士を空輸することは、他国の武力行使と一体化した行動で、自らも武力行使したとの評価を受けざるを得ない、と指摘した。
それは、派遣の根拠となっているイラク特措法に違反しており、武力による威嚇や行使を永久に放棄するとした憲法九条一項違反でもある、との判断である。
輸送目的で派遣したのなら何を運んでも同じで、兵士だけは駄目だというのは現実的ではない。そう批判する専門家もいるが、憲法をないがしろにしていいはずがない。政府が、特措法でその場をしのぎ、憲法で許されている自衛隊の海外派遣の限界はどこまでか、論議を受け流しながら進めてきた結果ではないか。
日本は、二〇〇一年の「9・11米中枢同時テロ」を受け、アフガニスタンイラク政策で米国に歩調を合わせてきた。しかし、開戦から五年が過ぎた今もなお、混乱は収まっていない。イラクには米英が主張していた大量破壊兵器はなかった。国際テロ組織のアルカイダとも関係ないことが確認されている。
テロとの戦い」の名の下で、日本は、憲法の枠組みを逸脱してきたのではないか、国際貢献の方法はほかになかったのか、冷静に見つめ直す時期を迎えているのだろう。
与党は今、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の成立を目指している。ただ、今回の司法判断で、今まで以上の慎重さが不可欠になった。国会でしっかり論議を深めなければならない。
空自は、〇六年七月に陸上自衛隊が南部のサマワから撤収して以降は、クウェートを拠点にバグダッドや北部アルビルなどで多国籍軍と国連の要員や物資の輸送などを続けている。情報公開が不十分なこともあって実態が見えにくく、国民の関心は薄らいでいる。
今回の判決は、イラクでの自衛隊の活動に再び注目し、絶えず検証するよう迫る警鐘のようでもある。それにどう答えるか、政治も国民も問われている。



社説:イラク派遣違憲判断(宮崎日日新聞 2008年4月18日(金))

政府は活動の法的根拠示せ
自衛隊の活動をめぐって極めて重い司法判断が下された。
名古屋高裁が、イラク航空自衛隊が行っている空輸活動について「憲法九条に違反する」などとする違憲判断を示した。
自衛隊イラク派遣をめぐる違憲判断は初めてとなる。
原告らが求めていた派遣差し止めや慰謝料の請求はいずれも退けられたが実質勝訴と受け止めており、上告はしない方針だ。
政府は判決に対して「納得できない。自衛隊活動は継続する」との見解を示している。
しかし、そうであるなら自衛隊活動に関する情報公開を進め、法的根拠をあらためて国民にしっかりと説明するべきだ。
■自らの武力行使指摘■
2001年9月11日に米中枢同時テロが発生して以来、当時の小泉政権が対米支援のために成立させたのがテロ対策特別措置法やイラク復興支援特別措置法だ。
ただ法案についての国会論戦は十分ではなく、政府がどさくさの中で押し通したとの印象は残る。
イラクでの自衛隊活動は当初、陸上自衛隊によるサマワでの支援が中心だったが、06年7月に陸自が撤収してからは国連や多国籍軍関係の空輸を手がけている。
今回の判決はその06年7月以降の任務について「他国の武力行使と一体化し、自らも武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」と指摘した。
その上で空輸が自衛隊の活動を「非戦闘地域」に限定したイラク特措法に違反し、憲法九条に違反する活動を含んでいるとした。
戦闘地域と非戦闘地域についての線引きはもともとあいまいなままだった。
これらは長年野党の追及もあったが、政府が十分に説明責任を果たしてこなかった問題だ。
■情報は乏しく不透明■
これまで政府が主張してきた非戦闘地域の定義は、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる一定の地域」だった。
だが実際には、サマワ郊外にあった陸自の宿営地内や周辺にロケット弾などがたびたび撃ち込まれ、そのうち1発は荷物用のコンテナを貫通。陸自の車列近くで爆弾が爆発したこともあった。
政府の「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」との主張に説得力を欠いていたのは確かだ。
民主党イラク復興支援特措法に規定された非戦闘地域の概念は「虚構」と批判してきただけに、判決を受けて、あらためて明確な説明を求めてくるだろう。
政府は今回の判決に「依然として非戦闘地域の要件を満たしている。武力行使と一体化するものではない」と反論。「自衛隊活動に何ら影響を与えるものではない」としている。
だが、イラクでの空自の活動やインド洋での海上自衛隊の活動について公開される情報は乏しく、不透明感はぬぐえない。
政府はあらためて自衛隊の特措法に基づく一連の海外活動について検証し、その全体像を国民の前に明らかにする責任がある。