潔く負けを認め即刻総選挙で民意を問え

衆院山口2区補選:民主・平岡氏が当選 医療制度追い風に(毎日新聞 2008年4月28日(月))

福田政権発足後初の国政選挙で、自民、民主両党の一騎打ちとなった衆院山口2区補選は27日投開票された。民主前職(比例中国ブロック)の平岡秀夫氏(54)=社民推薦=が自民新人の山本繁太郎氏(59)=公明推薦=を破り、4回目の当選を果たした。衆参両院の勢力が逆転した「ねじれ国会」に苦しむ福田康夫首相の政権運営は、補選敗北によってさらに困難になるとみられる。
金保険料からの天引き開始が告示の15日に重なったことから、75歳以上の高齢者が対象の後期高齢者(長寿)医療制度が争点化。同制度に対する批判が政府・与党を直撃した形となった。
平岡氏は、同制度がトラブル続きである点を重視し、街頭演説などで「自民党強行採決で導入した『うば捨て山』の制度」と批判した。無駄遣いが指摘された道路特定財源、「消えた年金」問題と合わせた「3点セット」で攻勢を強めた。
また、衆院当選3回という知名度の高さを生かすとともに、30日に揮発油(ガソリン)税の暫定税率復活を柱とした租税特別措置法改正案を再可決する政府・与党の方針に対する反発もあり、幅広い支持を集めた。
一方、山本氏は国土交通省での経歴や内閣官房地域活性化統合事務局長を務めた実績から「地域活性化が最大の争点」と主張。米軍岩国基地の軍民共用化による民間空港の早期再開など地域振興策を訴えたが、後期高齢者医療制度の説明は後手に回った。
また、出馬表明が3月初めと遅れ、知名度不足も挽回(ばんかい)できなかった。
今回の補選は、福田良彦岩国市長(前自民党衆院議員)が2月の岩国市長選に出馬したのに伴い実施された。与野党ともに幹部らが連日応援に入る総力戦を展開した。
投票率は69.00%で、前回05年衆院選の72.45%を下回ったが、補選にしては高水準だった。当日有権者数は30万8017人。【内田久光】


衆院山口2区補選(確定得票数)
当116,348平岡 秀夫=民前<4>[社]
 94,404山本繁太郎=自新[公]


【略歴】平岡秀夫(ひらおか・ひでお)54民前<4>弁護士[歴]在インド日本国大使館1等書記官▽国税庁法人税課長▽東大=[社]


衆院の新勢力分野
27日投開票の衆院山口2区補選で民主党平岡秀夫氏が当選したことに伴う衆院の新勢力分野は次の通り。
自民304▽民主・無所属クラブ114▽公明31▽共産9▽社民・市民連合7▽国民新・そうぞう・無所属の会6▽無所属9



社説:補選民主勝利 首相は「怒り」を無視するな(毎日新聞 2008年4月28日(月))

福田内閣発足後初の国政選挙となった衆院山口2区補選は、民主党候補が自民党候補との一騎打ちを制した。内閣支持率が低迷する中、後期高齢者(長寿)医療制度やガソリン税の復活方針など身近な生活課題に対する有権者の不信や怒りを如実に反映した結果だ。「ねじれ国会」で民主党の攻勢は一層、強まろう。福田康夫首相は敗北を謙虚に受け止め、政権運営のあり方を反省すべきである。
期限切れしたガソリン税暫定税率は、関連法案を衆院で再可決し復活させることが投票日直後の29日から可能となる。加えて75歳以上を対象とする新医療制度に伴う保険料の年金からの天引きが、15日から始まった。暫定税率と新医療制度の是非が争点となり自民は首相、民主は小沢一郎代表がそれぞれ現地入りしての総力戦を展開した。
結局、民主前職(比例中国)候補が、国土交通省OBの自民新人候補を破った。自民は暫定税率よりも地域活性化に重点を置く戦術を取ったが、税率復活に支持は得られず、新医療制度への反発が強い逆風を生んだ。本社とJNNの出口調査によると、投票した人の6割以上が税率復活に反対している。また、年代別では70代以上でも民主候補に投票した人がやや上回った。同じ年代の政党支持では自民が52%と民主の29%を圧倒しており、今度ばかりは自民におきゅうを据えたお年寄りの「反乱」が保守の牙城を崩した。
補欠選挙は組織票が堅い与党に有利な傾向があるだけに、今回の選挙結果は福田政権にとって深刻な敗北だ。ところが与党は投票を待たずに暫定税率を復活する方針を固めた。これでは「民意など関係ない」と言っているに等しい。道路特定財源を09年度から一般財源化する首相の方針を空手形に終わらせないための努力も不十分なままだ。敗北直後に再可決をしてガソリン代を元に戻しても、国民の納得は得られまい。
敗北を呼んだ新医療制度も、国民の理解からはほど遠い。負担増の実態把握や情報開示で説明不足を補うことはもちろん、制度設計も含めた再点検に着手すべきではないか。生活重視路線を掲げる一方で、福田政権のこれまでの運営には官僚寄りとの批判が強い。年金不信が直撃した先の参院選同様、地方で自民の岩盤が崩れだしている現実を直視すべきだ。
一方、民主党にとって、補選勝利は弾みだ。小沢代表の求心力は増し、今国会中の首相問責決議案の提出も視野に、早期の衆院解散に向け攻勢を強めよう。ただ、新医療制度への批判がタイミングの良い追い風となった面は否めない。日銀正副総裁人事の対応にみられる一連の強硬路線が評価されたとみるのは早計ではないか。来る衆院選に備えての建設的な政策論争こそ本筋である。



社説:自民敗北―「再可決」への冷たい風(朝日新聞 2008年4月28日(月))

よりによって、こんな時に選挙はやりたくなかった。福田首相のそんなぼやき節が聞こえてくるようだ。
衆院山口2区の補欠選挙で、自民党候補が民主党候補に敗れた。
あさってには、ガソリンの暫定税率を元に戻すための衆院での再可決が控えている。ここで勝てれば、緊迫するねじれ国会の主導権を取り戻せる。首相がそう考えていたとしたら、まさに出ばなをくじく結果である。
与党はそれでも衆院の3分の2の多数を使って押し通す方針だが、有権者から吹きつける逆風の強さを肌身に感じたに違いない。
目下の内閣支持率は2割台という超低空飛行だ。これではとても衆院の解散・総選挙どころではない。与党ではそんな空気がいっそう強まりそうだ。
一方、民主党にとってはこれまでの強硬路線が支持された形だ。日銀総裁人事で不同意を連発し、党内がきしんだあとだけに、小沢代表の求心力を立て直す大きな足がかりになる。
この勝利を弾みに、参院で首相への問責決議をぶつけ、全面的な与野党激突への扉を開くのか。だが、それで本当に衆院解散に追い込めるのか。民主党も難しい判断を迫られる。
出口調査などによると、国政の課題を念頭に投票したという人が少なくなかった。ガソリンの問題に加えて、75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度への不満が大きかったのだろう。
与党は米軍岩国基地の飛行場を軍民共用化するといった「地域のテーマ」を前面に出したが、有権者の心をつかみきれなかった。
その意味では、今回の補選を福田政権に対する中間評価と見てもいいだろう。全国に300ある小選挙区のひとつで有権者が示した選択に過ぎないのは確かだが、それが政府与党に突きつけたメッセージは鮮明だ。
ひとつは再可決、つまりガソリン再増税への疑問だ。数々のでたらめな使いぶりが明らかになった道路特定財源のために、以前と同様に1リットル25円もの税金を払う必要があるのか。納得できない人は多いということだろう。
特定財源の仕組みをあと10年継続するという特例法改正案を、与党は来月12日に再可決して成立させる方針だ。首相が言うように本当に1年後には廃止されるのか、人々が疑念を募らせても不思議はない。
もうひとつは高齢者医療制度だ。首相は「制度の考え方は悪くない」と不満そうだが、お年寄りの怒りと不安を理解できているのだろうか。どんな制度でも、国民の信頼がなければ機能しない。そこが揺らいでいるところに問題の深刻さがあるのだ。
補選はあくまで補選、永田町では既定方針通りというのでは、総選挙に期待する民意が広がるばかりだろう。



社説:山口2区補選 お年寄りの不安が響いた(読売新聞 2008年4月28日(月))

医療や年金に対するお年寄りの不安を、政府・与党が甘く見ていたツケがきたのだろう。
福田政権発足後、初の国政選挙となった衆院山口2区補欠選挙は、民主党前議員の平岡秀夫氏が自民党新人の山本繁太郎氏を破って当選した。
民主党は、次期衆院選の前哨戦と位置づけ、ガソリンの暫定税率の復活阻止や、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の廃止などを訴えた。
与党は、国政課題の争点化を避けるため、地域活性化を前面に押し出し、組織戦を展開した。だが、結果的には、自民党支持層すら固めきれなかった。
敗因の一つに、後期高齢者医療制度をめぐる政府・与党の対応のまずさが挙げられる。不安を抱える高齢者に対し、十分な準備や説明を怠り、混乱を招いた。
山口2区は、全国でも有権者に占める高齢者の割合が高い。読売新聞の出口調査で、有権者が最も重視すると答えた政策は「年金・医療」だった。自民党支持者の中でも、年金・医療がトップで、景気、道路財源、格差問題などを大きく上回った。
ちょうど補選告示日の15日から始まった年金からの保険料天引きは、年金記録漏れ問題に続いて、お年寄りの不評を買った。逆風にあわてた与党は、選挙戦終盤になってようやく制度の利点などを訴えたが、泥縄式の対応では理解は得られまい。
福田首相は就任以来、「国民の目線」で「生活重視」の政治、行政をする、と繰り返している。
しかし、医療など国民に身近な分野で“お役所仕事”を見過ごしていては、首相の言葉はむなしく響く。導入の直前に「長寿医療制度」と言い換えさせても、焼け石に水というところだ。
道路特定財源一般財源化もそうだが、首相の決断はタイミングが遅い。その結果、回避できるはずの政治的混乱を招いている。
首相として何を実現したいのか。政治意思を明確に示し、指導力を“発信”しなければ、内閣支持率も好転しないだろう。
ガソリン価格が下がった後で行われた今回の選挙結果は、国会攻防に影響するという見方もある。だが、与党は、動揺せず、暫定税率を復活させるため、税制関連法案を粛々と衆院で再可決しなければならない。
民主党も、一般財源化の実現に向け、与党と協議を続けるべきではないか。審議拒否をしても政権担当能力を疑われるだけだ。



【主張】衆院補選 もっと再議決の意義語れ(産経新聞 2008年4月28日(月))

二大政党の対決となった衆院山口2区補選は自民が民主に敗れ、ねじれ国会で困難な政権運営を続けてきた福田康夫首相にとって厳しい結果となった。道路財源問題などが影響したためとみられる。首相は改めてこの問題解決に全力を挙げるべきだ。
それにはガソリン(揮発油)税の暫定税率復活に向けた歳入関連法案の衆院再議決と、揮発油税を道路財源に充てる道路整備特別措置法案の修正が必要だ。ガソリン代の値上げをもたらす再議決に国民の理解を得る意味でも、道路特定財源一般財源化方針を裏打ちすることが欠かせない。
暫定税率失効から1カ月近くが経過し、民主党は選挙戦でも国民への減税効果を強調した。しかし、国や地方の財源には2兆6000億円の穴があいたままで、生活にかかわる道路事業の凍結で多くの混乱が生じていることを放置しておけない。
再議決で暫定税率が復活した場合、原油高を背景にガソリン代が失効前の水準より高くなる状況も予測される。一時的な値下がりを歓迎していた消費者には、不満や失望も生じるだろう。それでも、正常な形に戻すための再議決であり、国政に責任を持つ立場として避けられないことを政府・与党は丁寧に説明する必要がある。
首相が示した一般財源化方針は、政府・与党間で了承されたものの、自民党では正式決定手続きがとられていない。道路族の抵抗があるためだといわれる。
向こう10年間も揮発油税と道路整備がリンクする特措法案をそのままにして、首相の方針を信じろというやり方には、民主党だけでなく自民党内にも反発がある。
首相が記者会見で何回も説明を繰り返すより、直ちに法案修正作業に着手するか、修正内容を閣議決定するといった方法をとればすっきりするだろう。
民主党は歳入関連法案の再議決に対し、首相問責決議案で対抗すべきではない。問責決議案を参院で可決した後で、国会審議を長期空転させても無益だ。道路特定財源廃止をめぐる論戦こそ、力を入れるテーマである。
小沢一郎代表も特措法案を10年間から今年度限りとする「大修正」に言及した。道路特定財源廃止という改革の核心を確実にレールに乗せる意義は大きい。今年度の暫定税率はひとまず認める大きな政治判断を求めたい。



【社説】民主補選勝利 直近の民意が示された(東京新聞 2008年4月28日(月))

福田政権への強い警告だ。衆参ねじれ下で初の国政選となった衆院山口2区補選で民主党が勝利した。政府・与党は「直近の民意」に率直に耳を傾けよ。さもなければ、政権はいよいよ行き詰まる。
いつになく注目度の高い補選だった。先月末に期限が切れたガソリン税暫定税率問題、今月スタートした後期高齢者医療制度…。与野党総力戦の一騎打ちを制したのは民主党衆院議員だった。接戦の予想を大きく覆しての勝利。二割台の内閣支持率に苦しむ福田康夫首相への打撃は計り知れない。政権運営を続けるには相当なエネルギーが必要となろう。
自民党は当初、争点ぼかしの戦法を取った。国土交通省出身の元官僚を擁立し地域活性化を前面に打ち出した。建設業界などの組織戦を徹底。米海兵隊岩国基地での民間空港再開も持ち出して、地元への利益誘導をアピールした。
しかし、こうした旧来型の戦術は“大票田”である無党派層には通じなかった。関心が高いガソリン税や医療問題での有権者の反発を読み間違えた。特に告示日と同時に年金からの保険料天引きが始まった高齢者医療制度に対する「静かなる怒り」に鈍感すぎた。制度不信の明確な意思表示だ。抜本的見直しを急ぐべきだ。
一方、民主党は政権批判の追い風を受けて勝った。街頭で有権者の反応は必ずしも芳しくなかったが、結果的には民意を引き寄せたことで、今後国会に臨むにあたって攻勢に弾みをつけるだろう。
与党は暫定税率復活を含む租税特別措置法改正案を三十日、道路特定財源を十年間維持する法案を五月十二日以降に衆院で再可決する方針だ。民主党が首相問責決議案を参院に出すかどうかが最大の焦点となる。ただ、問責決議案には法的拘束力はなく、首相は無視する構えだ。長期審議拒否につながりかねないカードだけに民主党は慎重な判断が迫られる。
与党は考えどころだ。再可決に異を唱える民意が示された。それを無視して衆院三分の二の「数の力」を行使しようとするのは乱暴ではないか。自民党内には特定財源維持法案の再可決に慎重論がくすぶる。造反を口にする議員もいる。加えて、二度の再可決は内閣支持率のさらなる低下を招く。その覚悟はあるのか。
補選は三百小選挙区の一つにすぎないとして突っ走るなら、早急に国民の「総意」を問う機会をつくるのが筋ではないか。



社説:補選自民大敗 それでも突き進むのか(北海道新聞 2008年4月28日(月)))

福田康夫政権に対する有権者の不満は予想を上回るものだった。
衆院山口2区補欠選挙民主党候補が自民党候補を大差で破った。
主要な争点となった後期高齢者医療制度と道路財源問題で、首相ははっきりとノーを突きつけられたといっていいだろう。
保守王国・山口で総力戦に敗れた事実は重い。これを一選挙区だけの民意と考えてはなるまい。
医療も道路も見直すべきは見直す。その謙虚さと柔軟さが求められていると肝に銘じるべきだ。
自民、民主の一騎打ちとなった今回補選は、首相が初めて迎える国政選挙だった。
自民党は地域の活性化を公約の前面に打ち出し、人々の関心が高い国政上の課題を争点から外すことに躍起となった。
一方の民主党は「道路、年金、医療」を三点セットに、政府・与党の失政批判を繰り広げた。
各報道機関による事前の世論調査では「年金、医療」や「道路財源」が争点として上位を占めていた。当日の投票率も高かった。
結果的に有権者は与党の争点隠しには乗らず、福田政権への審判の機会と位置づけたといえよう。
与党にとって最大の逆風は後期高齢者医療制度だったに違いない。
新制度の導入に当たり政府の説明は不十分すぎた。批判の高まりを直視せずに対応は後手に回り、選挙戦を通じても有権者の不信感を解消できなかった。
道路財源問題をめぐっては、暫定税率の復活を望まないという意見は各種世論調査で六割近い。にもかかわらず、政府・与党は衆院の三分の二勢力を使い三十日に再議決する意向を再三表明してきた。
国民を説得できないままやみくもに再議決に突き進もうとする強引さも、今回の手痛い敗北に結びついたのではないか。
内閣支持率が20%台にまで落ち込む中で、首相は重要な反転攻勢の好機を逃した。
このうえ直近の民意を正面から受け止めず、立ち止まることさえいとうのであれば、支持率低下には歯止めがかからないだろう。
ここは正面突破を断念し、野党との修正協議に力を注ぐべきだ。
民主党にも自制を求めたい。
国民は医療、年金の現状と将来に深刻な不安を訴えている。政治の優先課題は道路問題だけではない。補選でそのことがはっきりした。
野党の次の仕事は国会の場で政府の対応をただしていくことだ。問責決議案の提出を急ぐことで、その責任を放棄してはならない。



社説:衆院山口補選/民主は政権の糧にできるか(河北新報 2008年4月28日(月))

「ねじれ国会」の構図をにじませて自民、民主両党候補の一騎打ちとなった衆院山口2区補選は、民主党前職が制した。
直後に与野党の「道路決戦」を控えたタイミングだけに、選挙の結果はいやが応でも政局の行方を左右することになる。
政府・与党は、ガソリン税暫定税率維持などを盛り込んだ税制改正法案をめぐる与野党修正協議がまとまらない場合、30日に衆院で再議決して成立させる方針を既に固めている。
これに対し、再議決による暫定税率復活に反対の民主党がどう抗戦するかが最大の焦点だ。
まずは、補選勝利が福田首相問責決議案の参院提出の後押し要因になることは間違いない。
民主党内には、決議案提出後の国会戦術が見通せないとして、即刻提出に慎重論もある。
しかし、道路整備財源特例法改正案の5月12日以降の再議決時に決議案提出を延期することを含め、補選の結果は同党に「5月政局」の主導権を握るよう求めたものと見るべきだ。
言い方を換えれば、民主党は党内世論の迷いなどによる路線の“軸ぶれ”と決別し、5月以降の政権戦略を鮮明に指し示すべきである。それが、補選結果を介して、民意が同党に求め始めていることではないか。
その意味で、民主党が明確にすべきなのは、首相問責決議案を参院で成立させた場合、与党の無視作戦などを許さない世論の支持をどう取り付け、福田内閣の総辞職あるいは衆院解散にどう追い込むかという戦略だ。
戦略の破壊力は、補選で事実上の争点となった後期高齢者医療制度年金記録問題などを含め、福田政権の総体的な政権担当能力に「ノー」を突き付けられるかどうかで決まるはずだ。
もちろん、ガソリン税については、暫定税率復活後の再廃止を前提とした道路特定財源一般財源化への道筋を明確に示し、併せて暫定税率廃止に伴う国・地方の財源不足をどう補てんしていくかの政策的な根拠を示さなければならないだろう。
民主党はこうした手順を踏みつつ政権交代戦略を現実化していかなければ、同党への期待感は消えることを覚悟すべきだ。
一般財源化をめぐる与野党の考え方には大きな開きがあり、与野党の政策協議も衆院の再議決で空中分解を余儀なくされる以上、もはや民主党が選択すべき路線は限られてきている。
一方の政府・与党も補選結果を過小に評価してはなるまい。福田内閣が発足して初めての国政選挙で政権の主張が否定されたのだし、それが前首相の地元の県の民意として示されたことを深く受け止めるべきだ。
痛手を負った福田政権が5月政局を乗り切れるとは到底思えない。こちらに求められるのは、政権戦略の見直しである。



社説:山口2区補選 福田政権に打撃大きく(信濃毎日新聞 2008年4月28日(月))

衆院山口2区補欠選挙民主党平岡秀夫氏が制した。
福田康夫内閣がスタートして初めての国政選挙だった。自民党民主党の一騎打ちに与党の公明党、野党の社民党がからみ、各党とも幹部を投入して「総力戦」を繰り広げた。
その大事な選挙で、自民党は勝ちを収めることができなかった。政権への打撃は大きい。
福田内閣はこれまで、支持率低下に悩んできた。理由には首相の指導力不足が挙げられている。政権のかじ取りはますます難しさを増すだろう。
補選を乗り切り、北海道洞爺湖サミットを弾みとして支持率回復につなげた上で内閣を改造し、解散総選挙のタイミングを探る−。そんなシナリオも練り直しを迫られることになった。
福田首相で選挙を戦えるのか−。そんな声が自民党内で高まるのは避けられそうにない。
政府・与党はガソリン税を元の水準に戻すための法案を、30日に再議決することを決めている。ガソリン値上がりに世論の反発が強まれば、野党が多数を占める参院での首相問責決議案の可決もいよいよ現実味を帯びてくる。
民主党の平岡氏は、前回衆院選比例代表中国ブロックで復活当選した前職で、知名度は高い。年金記録ミス、ガソリン税の問題などで勢いが付いてもいた。
加えて、選挙戦と並行して、お年寄りにはとりわけ不評の後期高齢者医療制度長寿医療制度)の問題が持ち上がった。年金からの保険料の天引きが始まる日が補選の告示日と重なり、民主党には願ってもない追い風となった。
民主党はもともと、補選は苦手な面がある。投票率が低くなりがちで、“風”頼みの民主党に不利に働きがちだからだ。
今回はガソリン税、高齢者医療制度など暮らしに直結する問題が争点に浮上したことで、選挙への有権者の関心が高まった。投票率は補選の割には高くなり、民主党に有利に働いた。
小沢一郎氏が民主党の代表に就任して2年が過ぎた。この間、自民党との「大連立」構想の挫折など、足取りは順調だったとは言い難い。今年1月の大阪府知事選も落としている。
有利なはずの今度の選挙を取りこぼしていたら、小沢代表の求心力にも響いたはずだ。代表はさぞほっとしていることだろう。
衆参ねじれの政治状況は、今度の選挙で一段と緊迫しそうだ。ますます目が離せない。



社説:政治潮流変える芽が出た 山口2区補選(西日本新聞 2008年4月28日(月))

自民と民主の公認候補の一騎打ちとなった衆院山口2区補選で、民主党平岡秀夫氏が自民党山本繁太郎氏を破って当選した。
衆院480議席の欠員1を埋める補欠選挙とはいえ、この補選結果が国政にもたらす影響は計り知れない。
直ちに政権の進退や解散・総選挙などの「政変」につながることはないかもしれないが、福田康夫首相の求心力がさらに弱まり、政権運営がいま以上に困難になるのは避けられない。
首相周辺は「全国民の判断を山口2区の方々に委ねたつもりはない」(町村信孝官房長官)などと抗弁するが、補選では地域の課題以上に国政の主要政策が争点となった。
有権者の投票行動を決める判断基準となったのは、高齢者医療や年金への不安であり、ガソリン税暫定税率維持の是非である。投票直後の出口調査の結果もそれを示している。
いずれも今国会で与野党攻防の焦点となっている政策課題だ。その結果の敗北である。「地方の一補選の結果だから」などとは言えないはずだ。
自民、公明両党は政策を提示し遂行する責任を負う政権党として、補選で示された民意を深刻に受け止めるべきだ。
ガソリン税道路特定財源問題に今後どう対応していくのか、高齢者医療をめぐる人々の不安にどう応えていくのか。当面する政策課題の対応を誤れば、福田政権は国民に見放される。
補選の結果にかかわらず、政府・与党はガソリン税暫定税率を「数の力」で復活させる方針だという。
が、暫定税率復活の前提となる道路特定財源一般財源化をどんな道筋で実現するのか、暫定税率の将来的なあり方をどう考えるか。国民が納得できる説明がないままに再可決を強行すれば、与党はさらに世論の支持を失うことになる。
高齢者の不安が票になって表れた後期高齢者医療制度年金記録漏れ問題は、もっと深刻だ。説明不足や対応のまずさもあろうが、「不安を解消できなければ次の総選挙では負ける」との危機感が与党内に広がっている。
対応が問われるのは与党だけではない。民主党の勝利は政権与党への有権者の不満と不信によるところが大きい。民主党が今後、政局の主導権を取ることや政権を窮地に追い込むことだけに汲々(きゅうきゅう)としていては、民意はまた離れる。
後期高齢者医療制度の見直し、道路特定財源の本年度からの一般財源化を言うのなら、高齢者医療や道路整備のあり方を含め具体策を示し、国民に見える形で政策を説明すべきだ。それが政権を目指す政党の責任でもある。
衆院の解散・総選挙はそう遠くない。そこでも年金、医療、道路が争点になるはずだ。この補選結果が政治潮流を変える芽になる可能性は大きい。



社説:補選で与党敗北 審判を重く受け止めよ(中国新聞 2008年4月28日(月))

これほどの差になったのは、なぜなのか。敗れた政府・与党の衝撃はさぞ大きいことだろう。
福田政権下、初の国政選挙として全国の注目を浴びた衆院山口2区補選。民主前職(比例中国)の平岡秀夫氏(54)=社民推薦=が、自民新人で前内閣官房地域活性化統合事務局長の山本繁太郎氏(59)=公明推薦=を制し、余裕の当選を果たした。
平岡氏は終始、ガソリン税暫定税率撤廃や後期高齢者医療制度長寿医療制度)の廃止を訴えた。序盤戦で、国政レベルの争点を避け、岩国基地滑走路の軍民共用化などの地域活性化策を中心に支持を集めようとした山本氏との姿勢の違いは鮮明だった。
勝敗の行方は、その時点で既に決していたのではないか。日々の暮らしに直結する問題に敏感な候補や政党はどちらか。原油の高騰で生活必需品が軒並み値上げになる中で、再びガソリンも大幅に上がるかもしれない。混乱が広がる高齢者医療問題も気がかりだ。有権者の福田政権への失望感が募った結果とみるしかあるまい。極めて重い審判といえる。
まず問題になるのは、ガソリンの再値上げの是非である。政府・与党はあさって、税制改正法案の衆院再議決を強行する構えだ。来月初めからの暫定税率復活を目指している。
その場合、大型連休後半の列島は安いガソリンを求め、大混乱に陥る恐れもある。現在、百三十円前後にまで下がったレギュラーガソリンの店頭価格が、原油の高騰分も加算され、百六十円台にまで上がる可能性があるからだ。今月初めに、全国各地で繰り広げられた騒動の再現である。
高齢者医療の問題も、ガソリンに勝るとも劣らず深刻だ。選挙期間中、争点として急浮上したのは告示と同じ日に年金からの天引きが始まったからだ。その後、保険料の誤徴収など全国各地に混乱が広がり、当事者や家族の間で不信感が一気に高まった。
暫定税率問題で与党側は、民主党を「人気取り」と批判し、税率復活による税収確保の必要性を訴えた。与党は、暫定税率を元に戻す税制改正法案と、道路特定財源を今後十年間維持する道路整備費財源特例法改正案を衆院で再議決する方針を崩していない。
だが特例法改正案は、二〇〇九年度から道路特定財源をすべて一般財源化するという「政府・与党決定」に矛盾する。今回の選挙結果にもかかわらず、既定方針だとして再議決を強行して本当に国民の理解が得られるのか。
「消費税、リクルート事件、農政不信」の三点セットが逆風になった一九八九年の補選で敗北した自民党は、その夏の参院選で歴史的な惨敗を喫している。
民主党も、今回の勝利を喜んでばかりはいられまい。補選で掲げた公約をどう実現させるのか。参院で審議引き延ばしを狙うだけでは通らない。建設的な政策論議でどこまで与党側と渡り合えるのか。こちらもまさに正念場だ。



社説:山口2区補選 民意を重く受け止めるべきだ(愛媛新聞 2008年04月28日(月))

有権者の審判は予想された通り厳しかった。福田政権下で初の国政選挙となった衆院山口2区補選だ。
自民党新人と民主党前職の一騎打ちは、今後の政局を占う意味で全国の注目を集めた。与党は福田康夫首相も応援に駆け付ける総力戦を展開したが、及ばなかった。
山口2区はもともと保守地盤で自民党が有利だった。それだけに自民党は今回の敗戦を重く受け止める必要がある。四百八十議席のうちの一にすぎないという過小評価は許されまい。
主要な争点は、何といっても揮発油税暫定税率問題や後期高齢者医療制度長寿医療制度)だった。
暫定税率については、与党は選挙結果にかかわらず、三十日に衆院で税率復活を再議決する方針だ。ガソリン代が再び値上げされることに、有権者は拒否反応を示したといえる。
投票日に共同通信社が実施した出口調査でも、税率復活への反対意見が65%を占めた。与党は再議決について、慎重にならざるを得まい。強行すれば、国民の一層の反発は必至だ。
今月から始まった後期高齢者医療制度への不満、怒りも大きかった。山口2区は山間部や島が多く、高齢化率も高い。補選が告示された十五日には、年金からの保険料天引きがスタートした。保険料の誤徴収などのトラブルも重なり、与党への強い逆風となったのは確実だ。
出口調査でも、もともと保守支持の傾向が強い七十歳以上の高齢者層を自民党候補が固めきれず、民主党候補に流れていたことが明らかになった。
新医療制度をめぐっては、自民党内に見直しを求める議員連盟が結成されたほか、同党山崎派も政策提言で是正の必要性を訴えている。「説明が不十分だっただけ」という党幹部の主張は通らない。早急に何らかの手直しが求められよう。
それだけに、与党は従来にも増して慎重な国会運営が必要になる。
今回の敗戦で福田政権が受けたダメージは計り知れない。もともと内閣支持率は30%を割り込む「危険水域」だった。求心力がさらに低下するのは確実で、今後の政局次第では、早期の解散・総選挙や内閣改造も考えざるを得ない局面が出てこよう。政権運営はまさに綱渡り状態になる。
一方、民主党にとっては次期衆院選に弾みをつける勝利となった。参院に首相問責決議案を提出する構えだが、実際に提出されれば、当面懸念されるのが国会の空転だ。
民主党に対しては、優位に立つ参院税制改正法案などの重要案件の審議を先送りしてきたことへの批判もある。暫定税率の復活阻止や新医療制度の廃止を訴えているが、財源の裏打ちがある具体的な代案を示しているわけではない。
補選勝利で民主党の責任は一層重くなった。それを十分に自覚し、与党との建設的な政策論争をしてもらいたい。これ以上の政治の停滞は許されない。