愛国心の評価、現場では

「愛国心」埼玉の50校通知表に 教師「評価できぬ」(asahi.com / 2006年5月26日)

衆院で本格審議が始まった教育基本法改正案の最大の焦点は、「愛国心」の取り扱いだ。現行の学習指導要領のもとではすでに、通知表に「愛国」に関する項目を入れた経験がある学校や、いまも採用しているところもある。実際にどう評価したのか。
24日の衆院教育基本法特別委員会で、小泉首相は、基本法に盛り込まれた「我が国と郷土を愛する態度」に関し、義務教育課程段階での評価項目としない考えを明らかにしている。
埼玉県教委によると、同県内では25日現在、4市2町の50小学校で、通知表に「愛国心」に関する表現が入った項目が評価の対象になっている。
同県行田市では、小学校長らによる通知表のモデル案をつくり、「我が国の歴史と政治及び国際社会での日本の役割に関心をもって意欲的に調べ、自国を愛し、世界の平和を願う自覚をもとうとする」という項目を社会の4観点の一つに盛り込んだ。05年度は、全15校中14校がモデル案と同じかほぼ同様の表現を採用した。ABCの3段階で評価することにしている。
同市立小学校で6年生担任のベテラン男性教諭は「現場では『愛国心』は評価の対象になっていない」と断言する。「自国を愛し」以下の部分は達成目標が示されているわけでもなく、評価基準があいまいなため、点数がつけられないという。「前段部分だけで評価している。授業態度や宿題などをもとにした評価がほとんど。愛国心の大小が入り込む余地はない」
福岡市の市立小学校で02年度に使われた6年生の通知表。評価項目の一つにはこんな項目がある。「我が国の歴史や伝統を大切にし国を愛する心情をもつとともに、平和を願う世界の中の日本人としての自覚をもとうとする」
行田市と表現は微妙に異なるが、やはり3段階評価。福岡市立校長会が、愛国心を評価項目とするモデル通知表を作成。市内144校のうち52校が採用し、17校が同様の表現を独自に盛り込んだ。
当時6年生の担任だった50代の男性教諭によると、結果的にBの評価が増えたという。「『国が好き』かどうか、子どもによって違いがあるとは思えない」からだ。
50代の女性教諭も、日本の歴史や制度について意欲的に学べば評価し、悪ければCをつけた。困ったのは、「日本人としての自覚」という表現だ。当時、クラスに中国籍の子がいた。「中国人だからBやCがついた」と思われないよう家庭訪問して親に説明した。
しかし、福岡市のこの通知表は在日コリアンの団体や福岡県弁護士会の批判を受けて、03年度から姿を消した。

首相は「評価しない」と言い張っているが、学習指導要領も変える、ということなんだろうか。すでに現場では評価の対象にしている例があり、それを盾に「基本法に書き込むべきだ」と強弁する事務方もいるのだ。しかも、基準がはっきりせず、現場ではどう評価するかとまどっている様子もうかがえる。基本法の改訂が成ったら、さしずめ東京都などは「通知票に項目を作らなかったりちゃんと評価しなかったら処分」などと言い始めそうだ。