「2日程度は家族が患者を注意深く見守って」注意喚起に違和感

タミフル:転落死との因果は未解明 では、どう付き合えば(MSN-Mainichi INTERACTIVE 2007年2月28日(水))

(前略)
◇患者の異常言動は、タミフル発売以前から
(中略)
厚生労働省によると、タミフル服用後の異常行動死が最初に確認されたのは04年。インフルエンザ治療中の17歳の男性が服用後に自宅を飛び出し、トラックにひかれた。同省によると服用後に死亡したのは昨年10月までに54人。うち3人が転落など異常行動死で、残りは肺炎や肝機能障害などだった。16歳以下に限ると死亡は16人、異常行動死は2人だった。
中外製薬は05年末、医療機関を通して、患者やその家族らに注意を呼びかける文書を配布した。それによると、まれに意識がぼんやりしたり、とっぴな行動を取るなど精神神経系への症状が出る。
しかし、インフルエンザ患者が異常な言動を見せる例はタミフル発売前から知られており、転落死などの異常行動がインフルエンザによるのか、タミフルによるのかは解明されていない。


◇夏には結論…厚労省研究班
(中略)
研究班は05〜06年に、主に小学生以下のインフルエンザ患者2800人余りを対象に、タミフル服用とおびえ、幻覚、理由なく怒るなど「異常言動」との関連を調べた。
患者の9割がタミフルを服用しており、タミフルを飲んだ後に異常言動が出た率は11.9%。飲む前や全く飲まずに出た率の10.6%より高かったが、統計的には差がない範囲だとされた。
しかし、異常言動が服用後に起きたか、服用前かが不明な例がかなりあった▽10代のデータが足りなかった−−など調査手法に課題が残った。
このため、研究班は今冬、インフルエンザ患者約1万人を対象に、新たな調査を始めた。年齢幅を0〜18歳まで広げ、異常言動と服用との前後関係を確認できるように調査法を工夫した。3月末で調査を終え、夏には結論を出す見通しだ。


◇飲んでも飲まなくても、2日程度は患者に注意を!
(中略)
厚労省研究班長の横田教授は「異常行動がタミフルの影響かインフルエンザ脳症のためかは調査中だが、どちらにしても異常行動が出るのは熱が出てから1、2日目がほとんどだ。飲んでも飲まなくても、2日程度は家族が患者を注意深く見守ってほしい」と話す。
国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は「すぐに使用を禁止すべきだというほど服用と異常行動に強い関連があるとは思わないが、服用者は多く、調査が必要だ」との見解を示した上で、「タミフルは病状を早く楽にする薬で、飲まなければ命を落とす薬ではない。副作用を心配するなら、その不安を押し殺して飲む必要はない」と話す。
一方で、新型インフルエンザ流行時については「もし致死率が高く、タミフルが効くなら、不安に耐えてでも飲むべきだ。今のインフルエンザとは別問題だ」と言う。
これに対して、タミフル服用後の転落死などを学会発表してきた、浜六郎・医薬ビジランスセンター理事長(内科医)は「インフルエンザの人が脳症で入院・死亡する例はあったが、タミフル使用以外で自殺や転落死など聞いたことがない。まったく新しい例がこれだけ積み重なったのだから、服用と異常行動の関連は明らかだ」と指摘する。「インフルエンザは通常、自然に治る病気で、死ぬ副作用がある薬を使う理由はない」として「タミフルは飲むべきではない」と訴えている。



インフルエンザやタミフルと関連があるのではないかと疑われる「異常行動」による死亡事故が続けて発生している。厚労省は「未成年のインフルエンザ患者を一人にしないで」との注意喚起をしたが、大きな違和感を持って受け止めざるを得ない。
インフルエンザは昨日今日流行りだしたわけではない。インフルエンザ脳症というものが脚光を浴び始めたのも、近い過去ではないはずだ。発表や報道の仕方に問題はあるかもしれないが、振り返ってみて、インフルエンザなどが原因となるような、もしくは関連を疑われるような事例で、続けざまに「転落死」が発生するような一種異様なことはあったろうか?
卑近な例でいえば、妻の友人の子どもがインフルエンザのとき、2階の窓から飛び降りて骨折しながらもなお走ろうとする、というような特異な事例を聞いたこともある。娘の友達にも脳症により体が不自由になってしまった子もいる。だから、インフルエンザと異常行動を切り離して考えようというのではない。
インフルエンザが脳に対して何らかの作用を及ぼすことがある、ということは否定しないが、しかし、事件になるほど立て続けに「転落死」が発生したことはないんじゃなかろうか。もし「これまでにもあった」というのであれば、なぜ発表されなかったか。以前から「注意喚起」をしておくべきではなかったのか。
こうした「異常行動」がタミフルの服用と関連があるかどうかは今のところ「不明」かもしれないが、「否定」する材料があるようにも見えない。ただ単に「調査が不十分」というのであれば、嫌疑があるものをそのまま放置しておく根拠にはならないだろう。
タミフルと「異常行動」の関連について厚労省がどうも煮え切らない態度でいるのは、薬品会社との間に何か含むものがあるのではないか、と意地悪く勘ぐってしまうのは筋違いだろうか。
昨シーズンはみんながタミフルに飛びついたこともあって新型インフルエンザへの備蓄が不十分だったことが発覚し、いろいろな方法で増産体制を整えたはずだった。今シーズンは、タミフルを服用しても1日程度治癒が早まるだけということもそれなりに滲透したようで、昨シーズンのように何が何でもタミフル、という状態ではない、とも聞く。予防接種も効果があったかもしれないし、そんなこともあってタミフルの流通量は減っているならば、この上「異常行動」との関連が取り沙汰されて「未成年者には当面処方しないように」なんてことになると、ケツを叩かれて増産体制を敷いた薬品会社としては「約束が違う」なんてことに…
それから、厚労省がこうした内容の「注意喚起」をしたがために、今後また万が一の事例が発生したときに「あれほど言われていたのに目を離したのか」などという勝手な「自己責任論」が蔓延るようになるのではないかとも心配している。ただでさえ病人の看病は大変だ。四六時中目を離さずに過ごすなんてことは実際には不可能だ。人数の多い家庭ならまだしも、一人や二人きりで暮らしている場合だってあるだろう。誰もが同じように対応できるわけではないのだ。もし万が一「薬害」であったなら、こうしたスリ替えは卑劣の極みとも言えるのではないか。
今がピークとも言われるインフルエンザ、ウチでは3人とも予防接種を受けているとはいえ、いつ罹らないとも限らない。今のところは十分気を付けて過ごすしかあるまい。もし罹ってしまっても、できるだけタミフルに頼らずに治るよう頑張ろう。