まったく当を得ていない「賞与自主返納」

社保庁全職員に賞与返納要請、5〜50%・10億円規模(YOMIURI ON-LINE 2007年6月26日(火))

政府は25日、年金記録漏れ問題の責任を取るため、社会保険庁の全職員約1万7000人に6月の賞与(ボーナス、期末・勤勉手当)の一部の自主返納を求めることを決めた。
厚生労働省によると全体の返納額は10億円規模になる見込みという。
また、安倍首相と塩崎官房長官、柳沢厚生労働相がボーナスの一部を返納するほか、厚労省副大臣政務官村瀬清司社会保険庁長官ら幹部もボーナスを返納する。
社会保険庁村瀬長官は25日夜、記者会見し、自身の夏のボーナス全額(約270万円)を返納し、約1万7000人の同庁全職員にも、20分の1から2分の1の自主返納を呼びかけることを明らかにした。歴代の厚労次官、社保庁長官らにも現役職員の返納額と同程度の金額を国に寄付するように求めるとしている。厚労省では、副大臣2人、政務官2人が議員歳費分を除く全額、次官が全額のほか、幹部職員や社保庁勤務経験者からの返納を決めた。
また、首相の返納について、塩崎官房長官は25日の記者会見で、ボーナス総額約536万円のうち、約234万円を返納すると発表した。首相のボーナスのうち議員歳費分(約302万円)は公職選挙法の寄付行為の禁止に触れるため返納できないことから、法律上の上限に当たる首相としての特別職分約234万円全額を返納することとした。234万円のうち約161万円は行政改革の一環として昨冬のボーナスから自主返納しているもので、今回、新たに追加して返納するのは約73万円になる。
塩崎長官は総額約396万円のうち議員歳費分(同)をのぞく約94万円を返納し、今回の追加分は約54万円、柳沢厚労相は約51万円を追加して約90万円を返納する。
安倍首相は25日夕、首相官邸で記者団に対し、自主返納を決めた理由について「国民の皆さんが社会保険庁の対応に怒りを感じている。私も率先垂範という意味でけじめをつけなければいけないと判断した」と述べた。



なぜこんな大問題になったのか、責任の所在はどこにあるのか、現状を改善するにはどうしたらいいか、将来にわたって同様の事例が発生しないようにするにはどうするか、これらについて何も実質的な道筋が提示されていないのに、あたかも関係者全員に一律の責任があるような対応、しかも高額所得者の懐はあまり痛まないような処置というのはまったく当を得ない、実質的でもない、意味のない対応と言わざるを得ないだろう。ましてやソフト開発だけで100億円規模だとかほざいているのに、全体の足しになるのかどうかわからないような金額をピンハネしようってのはどういう了見か。
社保庁の給与実態を知っているわけではないが、社保庁職員のすべてが踏ん反り返って国民の血税の上にアグラをかいていたのではない、と(仮にでも)すると、マジメに勤めてささやかな家庭を築いている人たちのローンの賞与加算はいったいどうなるのか。自らに置き換えてみるととんでもないことだとわかる。マジメな人ほど「返納しなくっちゃ」と思うかもしれないし、そんなところからふんだくるのは本当に忍びなく思う。しかも最高責任者である首相はたったの73万、大臣も90万、「ナントカ還元水」を仕掛ければ何千万も手にすることのできる彼らにとって、まったくの端金だ。業務の責任は職位が上がれば上がるほど重いはずだが、その重みが賞与の金額に反映されているとしても、一律返納するのが妥当なほど整合しているわけでもあるまい。理解に苦しむ処遇だ。
もう一つ、業務に関する「覚え書き」というのが「とんでもない内容」との批判を受けているが、末端労働者たるものがアレを批判するなど墓穴を掘るに等しいということ忘れてはいけない。そのまま逆に読み替えれば、業務にはノルマが必要だし、入力業務には操作を休む時間など必要ないし、総労働時間も青天井になってしまう。
ざっくばらんに言ってしまえば、どんなに仕事ができない職員ばかりだったとしても、全体の業務の成否については管理にのみ責任がある。与えられた仕事が予定通りできないのであればきちんと査定していればいいわけで、査定も何もすっ飛ばし「カネ返せ」というのはあまりにも乱暴に過ぎる。国がこんな手本を見せるから、某ミート社のように自分の懐を膨らませるだけ膨らませておいて、立場が危うくなったら簡単に会社を潰す、社員を放り出すなんてことを平気でやる企業が出てくるのだ。
最近どうも、一企業の責任をその社員全体が負うのが当たり前のような風潮が、マスコミが煽動して滲透してきているように思うけれど、それは大間違いだ。そんなことになったら大変なことになる。もう一度よく考え直してみよう。
責任の実態は、こんな事態になるまでほっておいた政治と、それを黙認してきた我々国民にある。来月末に実施されることになった参院選で、ぜひその責任の一端を果たそう。