川上弘美「光ってみえるもの、あれは」読了

光ってみえるもの、あれは (中公文庫)

光ってみえるもの、あれは (中公文庫)

図書館から。
「みずみずしい青春と家族の物語」という触れ込みのようなのだが、これは「青春物語」でも「家族物語」でもないように思う。主人公の「江戸翠」だって「ふつう」の高校生ではない。吉本ばななやら堀口大學やら詩や小説を織り込んで書かれたもの。読み始めはどうもこの江戸翠という子のことがよくわからなくてとまどったけれど、友人の「花田」と連れだって長崎の島で夏休みを過ごすあたりからスピード感も増し、面白かった。
江戸翠のちょっとクールなというか無頓着というか側面もあって(いや、花田だって大鳥だってその他も結局)べたべたドロドロしない。だから家族とか青春とか友情とかが根っこのところでやっぱり成り立っていないように思うし、結末も破綻はしていないものの収束せず発散している。
これを憧憬とか共感とかそんなモノをもって読めることがあるとすると、それはどうも理解の範疇にないようだ。
いろいろと不満があることはあるにせよ、でも、面白かった。