どう動く:集団的自衛権 私の意見/1 戦う理屈、なぜか 作家・高村薫さん(61)(2014/6/14 毎日新聞)

集団的自衛権の行使を容認するとはどういうことか。戦争に参加することを可能にするということだ。自衛隊が戦場に行き、他国民を殺したり、自衛隊員が戦死する事態が起きる、ということだ。
日本は、戦争で1人の人間も殺すことなく、殺されることもなく戦後69年を過ごした。集団的自衛権の行使とは、そこから未知の次元に踏み出すことだ。私たちはそれに堪えられるのか。自問自答しなければならない。「集団的自衛権がなければ国民の生命財産が守れない」という安倍晋三首相の主張は、本当なのか。
日米安保とは、「日本は米国に駐留用地を提供する。代わりに米国はいざという時に日本を守る」という約束だ。日本には憲法があって、戦争はできない。他国に攻められたら米国が助ける。それが日米安保なのに、「日本は米国と一緒に戦わなければならない」という理屈がなぜ出てくるのか。根本的なところがおかしい。
自衛隊に戦死者が出た時、国民は政権を非難するだろう。だがその政権を支持したのも国民であることを忘れてはならない。政権は有権者を映す鏡だ。安倍氏を首相にしている有権者は、日本が戦争のできる国になろうとしていることにOKを与えているに等しい。そのことを自覚しなければならない。
私たちが優先すべきは、他国との争いでなく、平和のための外交だ。複雑な利害が絡む他国との間で、いま、歯止めとしての外交努力こそが必要なのだ。【聞き手・狩野智彦】
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安倍首相が、集団的自衛権を使えるようにするために、憲法解釈の変更を閣議決定しようとしている。自衛隊武力行使につながる安全保障の大転換が、憲法改正を経ずに行われようとしている。この動きをどうみるか。有識者の意見を聞いた。
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■人物略歴
◇たかむら・かおる
1953年大阪市生まれ。93年「マークスの山」で直木賞受賞。著書に「レディ・ジョーカー」「冷血」など。