いちおう、各全国紙の社説

主権移譲――イラク人によるイラクに(asahi.com

イラク国民にとって昨日と今日はどこが違うのだろうか。

米英両国によるイラクの占領が、ともかくも終わった。占領当局は解散し、統治はアラウィ暫定政権にゆだねられた。

それにしても、多難な船出である。テロや襲撃の標的は暫定政府にも向けられ、秩序が安定する兆しは見えない。主権の移譲を突如前倒ししたのも、移譲に向けて激しさを増すテロをかわそうという意図かも知れない。しかも、暫定政府は選挙による手続きを経ておらず、国民の信任という面で大きな不安が残る。

●祝福はしたいが

本来なら、フセイン政権による独裁から解放され、やっと「独立」にこぎ着けたイラクの再出発を祝福したいところである。しかし、国内を見ても、新生イラクの再建を手助けすべき国際社会を見ても、現実はそれどころではない。

イラク人の約9割が米軍の撤退を望んでいるが、約16万人の占領軍は多国籍軍として駐留を続ける。それどころか、米軍は新たな兵力の増派も計画中だ。

もちろん、暫定政府は米英軍の支援なしに自立できる状況ではない。多国籍軍への攻撃は続き、アラウィ首相自身も標的にあげられている。しかし、治安が改善されないからといって、外国軍の駐留の姿が変わらなければ、イラクの人々は主権移譲の意義を実感できまい。反米勢力に共感する人も減らないだろう。

占領下で、多くのイラク人が、宗派や民族の違いを超えて、国民の統合意識を強めたことは何よりである。アラウィ首相が「周辺国の軍事支援は受けない」と表明したことが象徴的だ。

米英軍が解放したはずのイラク民衆から敵視され、結局、占領の失敗と言われるようになったことが、皮肉にもこの統合意識を高めたと言えまいか。暫定政府がそれをてこに政権の求心力を強め、イラクを安定に向かわせることができるかどうか。鍵を握るのは、今後の米国のイラクに対する姿勢である。

●国連決議は空文にできぬ

新国家の建設は、来年1月の暫定議会選挙と憲法の制定、来年末までの本格政権樹立という、国連安保理決議が描いた日程を予定通り進められるか否かにかかる。とくに、議会選挙を国民が納得できる形で行うには、国連の支援を通じた有権者登録などの準備が要る。

だが、ここでも心配なのは治安だ。今のままでは国連の要員が本格的な活動を再開することは難しい。選挙が先送りされる恐れさえある。

その国連を支えるはずの国際社会も、協調というにはほど遠い。

主権移譲を控えて開かれた北大西洋条約機構NATO)の首脳会議は、米国と欧州諸国が多国籍軍への協力などに結束する場であってしかるべきだった。

ところが一致したのはイラク治安部隊の訓練支援など、きわめて限定的な協力だけだ。米英両国が戦争の誤りを認めず、今後も影響力の維持に固執していることが裏目に出た。

イラク再建の手順を描いた国連安保理決議は、確かに全会一致で採択された。だが、戦争そのものに反対した仏独では、占領が終わっても、米軍が指揮する多国籍軍に派兵すべきではないという世論が支配的である。

だが、安保理決議を空文にするわけにはいかない。いつまでも社会を安定させられず、民主的な政府を軌道に乗せられなければ、情勢は逆に悪化するだろう。

ではどうしたらいいのか。米国にも、国連にも妙案はなかろう。それでも大事なのは、イラク人自身が再建の主導権を握っているという自覚を強められる環境をつくることだ。イラク軍や警察が治安維持の最前線に立てば、反米武装勢力を孤立させる力ともなるだろうし、宗教界の指導者らが国民の統合を説くことも復興の手助けになる。

●日本の責任は何か

国際社会とくに欧州との亀裂を修復することに、米国はもっと真剣に取り組むべきである。「結束」や「協力」が儀礼的なものにとどまる状態が続けば、イラクばかりか世界全体を不安にする。

イラクで活動する自衛隊は、多国籍軍の一員に移行する。とにかくサマワへの駐留を続けたい。それが小泉首相の意思だが、主権が移譲されたこの時、イラクの安定に日本は何ができ、何をすべきなのか、そして何をすべきでないかを、じっくり考え直してはどうか。

多国籍軍参加には熱心だが、イラク復興に向けて世界が耳を傾けるような、日本らしい働きかけや提案をしたことがあるだろうか。サマワという一都市での給水や医療活動は地元の市民から感謝されているが、同じ人々が米軍のイラク駐留には反対なのだ。対米関係ではなく、イラクのための外交を立て直すべきだ。

イラクは、イラク人自身のイラクへ向けて、とにもかくにも歩みだした。その足取りを確かなものにするには、国連決議が実際に機能できるような国際社会の態勢を早く作り、イラク国民の広範な支持を取り付けることしか道はない。

そうした方向へ局面を転換させる責任が、まずブッシュ大統領にあることは言うまでもない。

社説:主権移譲 イラク国民の信頼勝ち取れ(MSN-Mainichi INTERACTIVE)

イラクの米英占領統治が28日終了し、イラクへの主権移譲が行われた。ブレマー文民行政官は帰米した。予定より2日早めた突然の決定で、過激派テロ対策が背後に見え隠れする。テロにおびえる暫定政府の現実に前途の険しさを見る思いだ。

今後、イラク暫定政府は国内各層の代表を集めた国民会議を招集し、直接選挙の実施手続きに入る。来年1月末までに選挙を実施し、移行議会や移行政府を設立する。さらに、新憲法制定作業を進め、新憲法承認の国民投票、新憲法下の選挙を実施し、来年末までに新政権を発足させる予定だ。

イラクの多数の人々が、自分たちの国家をつくり、混乱と暴力から抜け出ることを希望し、期待していることは間違いない。

もちろん、国家再生への道は容易ではない。イラク各地では連日のように爆弾テロや誘拐事件が発生し、暫定政府の動きを阻止しようとしている。

特に、アルカイダなど国際イスラム原理主義組織の暗躍や国内過激派勢力との連携活動が目立っており、危機的状況を知らせる赤信号が点滅し、警報が鳴っている。

つまり、イラクの現状は主権移譲を心から祝福するような雰囲気にはなく、騒然とした状況にある。

すでに、アラウィ首相は非常事態宣言もあり得ると発言している。一歩間違えれば、内戦や破たん国家への道を転げ落ちる可能性さえある。

前途多難のイラク暫定政府に望みたいことは三つある。

まず、「イラク国民の信頼を勝ち取れ」。暫定政府は亡命イラク人が指導部の多数を占め、必ずしも一般国民を代表しているとはいえない。選挙の洗礼を受けるまでは、権力の正統性の問題はついてまわるだろう。国民の信頼が揺らげば、直ちに、政権不安につながっていく。

第二に、「イラク国家・社会の統一を目指せ」。イラクの人々は西洋的国民国家の経験がほとんどない。国民意識よりも部族集団の利害やシーア派スンニ派の宗教帰属意識が優先する社会だ。クルド人のように民族意識で固まる場合もある。各集団ごとの権力闘争が激化すると、社会の統一は難しく、新しい国家の建設は不可能になる。

そして、最後に、「暴力テロを絶て」と訴えたい。各地で展開される爆弾テロ事件の背景には、イスラム過激派の黒い影がちらつく。イラク全土がこれらテロ集団の支配下に入るならば、世界にとっても深刻な脅威となる。

イラク戦争の是非を巡り生じた米欧の亀裂も、一応和解へと動き出している。国際社会はイラクへの主権移譲を国連を通じて承認した。今後は、占領軍に代わり、多国籍軍イラクの治安維持の支援を展開する。

もちろん、暫定政府のあり方や、そもそもイラク戦争を始めたブッシュ米政権への批判や不満はあるかもしれない。それでも、自ら歩き始めたイラクを世界は支えねばならない。

社説:多国籍軍参加 国際貢献策のあり方競え(MSN-Mainichi INTERACTIVE)

イラクに派遣された自衛隊多国籍軍に参加したといっても、多くの国民は自衛隊がどう変わったのか、イメージがわいてこないのではないか。

多国籍軍参加は9日に小泉純一郎首相が日米首脳会談で事実上表明し、通常国会後の18日に閣議決定した。閉会中審査は行われたが、国会論議はないに等しい。参院選での与野党の議論もかみ合わない。

それでも今回の参院選では年金問題と並ぶ争点だ。政府は武力行使と一体化する恐れがあるため多国籍軍に参加できないとしてきた。大きな方針転換である。毎日新聞の先の世論調査では参加に「賛成」33%に対し「反対」は54%だった。賛否は与野党で分かれた。選挙を通じての国民の判断が必要である。

しかし、選挙戦で与党は、自衛隊の活動はこれまでと変わらない、指揮権は日本にあり、憲法違反ではない、と強調するばかりだ。その一方で小泉首相は「イラクの新大統領にも要請された。国際社会の常識だ」とトーンを上げる。

首相は今回の多国籍軍参加が91年にイラクを攻撃した際のものとは違うとも語る。だったら時代が変化する中で多国籍軍国際貢献のあるべき姿を語ることで、国民に理解を求めてはどうか。

多国籍軍参加が政治問題になるのは、憲法に抵触する恐れがあるからだ。小泉首相はNHKテレビの討論番組で有事の際の集団的自衛権の行使に関して「憲法を改正して米国と一緒に行動できるようにすべきだ」と語った。そこまで言うのなら首相は多国籍軍参加と憲法のあり方をきちんと論じなければならない。

多国籍軍参加に反対し、自衛隊イラクからの撤退を主張する野党は、自衛隊に代わるイラク復興の貢献策を国民にわかりやすく示す必要がある。国連安保理が全会一致で採択した決議1546には人道復興支援が含まれる。国際テロとの対決と国際貢献は、日本としても避けて通れない問題ではないのか。

民主党菅直人前代表がアナン国連事務総長に国連支援の多国籍軍ならば自衛隊を参加させることを検討すると伝えたが、状況の変化で方針転換したなら国民にわかりやすく説明すべきだ。

多国籍軍参加に関して、対米追随だとの批判もある。日本にとって日米関係が重要であることは否定できないが、米国とどう付き合あっていくのかも、争点として前面に出してほしい。

イラクの主権が暫定政府に移譲された。これにより自衛隊は反米武装勢力から多国籍軍の一員に数えられ、危険が増大する恐れがある。陸上自衛隊の宿営地がある南部のサマワの状況治安が悪化しないか心配だ。

選挙戦はこれからやま場を迎える。各党は「賛成」「反対」を叫ぶのでなく、揺るぎなき憲法論に支えられた国際貢献のあり方を踏み込んで議論すべきだ。

6月29日付・読売社説(1)[主権移譲]「イラク再建にとって重要な一歩」(YOMIURI ON-LINE)

イラク再建の成否は、同国のみならず、国際社会全体の平和と安定に直結する。イラク暫定政権と各国指導者は再度、そのことを銘記すべきだろう。

戦後イラクを統治してきた連合国暫定当局(CPA)からイラク暫定政権へ二十八日、主権が移譲された。

昨年四月にフセイン前政権が崩壊してから初めて、イラク人自身の手に、統治権限が戻った。民主化の政治プロセスが本格的に始まる重要な一歩である。

暫定政権の責務は、極めて重い。最大の使命は、来年一月に予定される国民議会選挙を、滞りなく実現させることである。そのために、主権移譲後のイラクで主導的な役割が期待される国連との緊密な連携が欠かせない。

来月には、政党、宗派、部族、民族を網羅する国民大会議を開催しなければならない。大会議によって選出される百人規模の「諮問評議会」が、議会の役割を果たすことで、政権全体の正統性を高める狙いがある。

船出したばかりの暫定政権を取り巻く情勢は、厳しい。

最大の課題は、治安の改善である。全国各地で、連日、爆弾テロや襲撃事件、人質事件が勃発(ぼっぱつ)している。主権移譲が、予定を二日前倒しして行われたのも、テロを警戒してのことだろう。治安が改善されなければ国連の現場復帰も遅れ、選挙の実施も不可能になる。

国際テロ組織や前政権支持者、反民主勢力といった武装グループの狙いは明確だ。テロで、指導者や一般国民の恐怖感をあおり、政治プロセスの進捗(しんちょく)を妨害したいのだろう。ここでひるめば、テロリストの思うつぼである。

テロや様々な妨害工作を阻止するためには、当面、米軍を中心とする多国籍軍の役割に期待しなければならない。しかし同時に、イラク人部隊が治安確保の主体を担えるよう、暫定政権は、その強化を急ぐ必要があるだろう。

北大西洋条約機構NATO)首脳会議は、暫定政権の要請に応え、NATOイラク国軍の訓練を支援することを決めた。心強い動きである。イラク人によるイラク民主化、という難事業を支える国際社会からのメッセージになる。

治安改善と復興活動は、国家再建の両輪である。日本は、サマワでの自衛隊による人道復興支援活動を粛々と進めることが重要だ。

世論調査によると、暫定政権に対するイラク国民の支持と期待は大きい。暫定政権にとっては、これ以上の後押しはない。毅然(きぜん)として、かつ細心に、政治プロセスの進展を図ることが肝要だ。

6月29日付・読売社説(2)[国連改革]「常任理事国入りが核心の課題だ」(YOMIURI ON-LINE)

国連の中核的な役割は、安全保障理事会を中心に、世界の平和と安全を維持・創出することにある。

川口外相の私的懇談会である「国連改革有識者懇談会」が「21世紀における国連の役割と強化策」と題する提言を外相に提出した。

米ソ対立の冷戦期は無論、今日もイラク開戦をめぐる安保理常任理事国間の対立で機能不全に陥るなど、国連は十分に役割を果たしているとは言えない。

国連の役割と有効性への疑念も広がる中で、安保理改革が国連改革の中心課題となるのは当然だ。提言は、「日本外交の最優先課題」として、安保理改革に取り組むよう求めている。

国際社会の平和と安全は、日本の存立の基盤だ。テロや大量破壊兵器の拡散など、「新たな脅威」に対処するには、国際社会の協調行動が不可欠だ。

日本の場合、日米同盟を基礎に有志連合で対処する場合も当然ありうる。だが安保理の実効性を高めることは、平和と安全の維持・創出に、より大きな成果をもたらすはずだ。

そのためには、日本も常任理事国として、応分の役割と責任を果たす必要がある。提言は、安保理のメンバー構成について、国連創設から約六十年、大きく変化した国際社会の現実を反映させるよう、主張している。

大戦の戦勝国による常任理事国五か国体制が、いつまでも固定されたままでいいはずがない。日本を含め、国際社会の平和と安全に「責任を担う意思と能力を持つ国」を新たに常任理事国に加えることは、国連の正統性、実効性を高めるためにも必要なことだ。

日本は米国に次ぐ国連分担金の負担国だ。英、仏、露、中の四常任理事国の合計よりも多い。財政貢献に見合った発言力を持つのは当然である。

だが、非常任理事国でもない現状では安保理の意思決定には直接、参加できない。これでは、例えば、北朝鮮情勢はじめ、東アジアで安全保障上の重大な問題が起きても、国連の対応に、日本の意思を十分に反映させることができなくなる恐れがある。

日本が日米同盟を重視する理由はここにある。日本が常任理事国入りすれば、国連の実効性も高まり、日米同盟と相まって、日本は、地域の平和と安全に、より大きな貢献ができるだろう。

常任理事国入りには、当然、責任も伴う。政府は憲法上、軍事的貢献は制限される、と言う。自衛隊を、どこまで、どう活用するのか、憲法問題をはじめとする国内での論議も避けて通れない。

【主張】前倒し移譲 イラク自ら再建の決意を(Sankei Web)

六月三十日に予定されていた連合軍暫定当局(CPA)からイラクへの主権の移譲が急遽(きゅうきょ)繰り上げられた。武装勢力からの攻撃を避ける狙いとみられ、暫定政府が抱える最大の課題が、「テロとの戦い」であることを象徴的に示した。

イラク人自らによる国造りの第一歩は、フセイン政権が崩壊してわずか十五カ月という速さである。しかし、暫定政府はまだひとり立ちできる状態にない。外国から入り込んだイスラム武装勢力が爆弾テロを繰り返し、移譲の式典すら標的にしていた。

米軍を中心とした多国籍軍は、この国をテロリストの巣にしてはならない。引き続きこの国の治安維持に責任を負うべきである。これまで米国と距離を置いてきた欧州連合(EU)がイラクの治安部隊に対する支援で合意したことは心強い。続いて開催された北大西洋条約機構NATO)首脳会議も、主権移譲の前倒しを大筋で了承したようだ。

これにより、国際社会の支援態勢が整ってきたことを歓迎したい。

イラク戦争」そのものは多くの分野で成功した。米軍はフセインの抑圧体制を倒し、周辺の独裁国家による核開発の野心を砕くことに成功した。懸念された難民の流出はなく、油田の被害も最小限に抑えられた。

しかし、「戦後の処理」は、米国の当初の計画とはあらゆる面で異なった。選挙の前に暫定政府を設立することも、移譲の時期そのものも一年の前倒しである。米国が国連の支援を求めたのも、また、イラク再建がテロ攻撃の激化で足踏みしたからである。

だが、米国に戦術面の読み違いがあったとしても、対テロ戦争の戦略面の効果を損なうものではない。

暫定政府の最も重要な仕事は、来年一月を目標とする国民議会の選挙を準備することである。外国テロリストは今後、暫定政府を最大の標的にするだろう。武装勢力イラクが「好転」することを望まないからだ。

新生イラクはこれらに対抗する治安体制の充実だけでなく、国家建設に必要な国連、米国をはじめとした各国の兵力と知恵を必要とする。なにより必要なのは、イラク人が自ら困難を克服し、望む社会の建設に邁進(まいしん)する強力な意思である。