他国に銃口を向け始める日本

防衛庁、敵基地攻撃能力の保有検討 巡航ミサイルなど(asahi.com

今年末に政府が策定する新たな「防衛計画大綱」に向け、防衛庁が他国の弾道ミサイル発射基地などをたたく「敵基地攻撃能力」の保有を検討していることが25日わかった。日本の防衛政策は憲法との整合性から専守防衛を基本理念とし、他国の基地を攻撃する能力のある装備は持たず、攻撃は米軍に委ねる立場を堅持してきた。この方針から逸脱する恐れがあるうえ、政府内にも「アジア各国に脅威を与え、外交上問題となる」(関係者)との慎重論は根強く、今後、波紋を広げそうだ。

防衛計画大綱は長期的な防衛方針や防衛力整備の全体像を示すもの。敵基地攻撃能力保有の検討は、新大綱策定に向けて防衛庁内に設置された「防衛力のあり方検討会議」(議長・石破防衛庁長官)で進められている。同会議が最近まとめた論点整理では、弾道ミサイルに対処するための敵基地攻撃について「引き続き米軍に委ねつつ、日本も侵略事態の未然防止のため、能力の保有を検討する」とした。

具体的には、昨年に政府が導入を決めた精密誘導爆弾を敵基地攻撃にも使用するほか、対艦ミサイルを改良して陸上攻撃もできるようにした米軍の「ハープーン2」(射程200キロ超)や、巡航ミサイル「トマホーク」(射程2000キロ前後)、軽空母の導入が検討対象になっている。

敵基地攻撃能力の保有は、石破防衛庁長官が昨年3月、「検討に値する」と国会で答弁し、従来の政府方針の転換をにじませた。だが、その直後、小泉首相が「政府としてそういう考えはない。日本は専守防衛に徹する」と打ち消した経緯がある。

憲法との整合性については、「(誘導弾攻撃を)防衛するため、ほかに手段がない場合、敵基地をたたくことは自衛の範囲内で可能」とした56年の政府統一見解があるものの、「他国に攻撃的な脅威を与える兵器を持つのは憲法の趣旨ではない」(59年の伊能防衛庁長官答弁)との考えから、日本は敵地を直接攻撃できる装備を持ってこなかった。

政府内には「トマホークなどを持てば北東アジアに脅威を与え、外交上の問題を引き起こしかねない」(政府関係者)との懸念があるほか、防衛庁内にも「トマホークや軽空母は、専守防衛というより、敵国を攻撃するための装備。保有する理屈がつかない」などと否定的な見方もある。

防衛庁側は、この「あり方検討会議」の論点整理を、新大綱策定のたたき台と位置づけている。だが、新大綱に向けてつくられた首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」では敵基地攻撃が大きな焦点になっておらず、この問題がどのように扱われるかは不透明だ。

〈敵基地攻撃能力〉 弾道ミサイルの発射基地など敵の基地をたたく装備能力のこと。「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)に「米軍は必要に応じ打撃力を有する部隊の使用を考慮する」との取り決めがあり、相手基地への攻撃は原則として米軍に委ねるとしている。日本が独自に攻撃することは専守防衛に照らし、自衛権の範囲内であれば可能というのが政府の見解だが、従来そうした装備は持ってこなかった。敵基地を攻撃するには誘導ミサイルだけでなく、正確な位置情報や、敵の地上レーダーを無力化する装備なども必要とされる。