逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第1条> 象徴天皇は『元首』か

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

ハトが平和の象徴に、よく例えられる。象徴とは、目に見えない抽象的、観念的で形のないものを、具体的な形のあるもので表現すること。つまり、天皇は日本という国と、日本国民を表現する存在ということになる。
憲法制定にあたり、最も注目されたのは天皇のあり方だった。
憲法では、天皇を「統治権の総覧者」と規定し、天皇には絶大な権力が与えられてきた。だが、現行憲法は、天皇を「象徴」と表現し、国政に関する権限を持たず、国事行為のみを行う存在とした。
第二次世界大戦後、米国などの連合国では天皇制廃止を求める意見が強かった。しかし、日本の国内世論は天皇制擁護論が圧倒的で、総司令官のマッカーサー元帥は天皇制廃止は占領政策に不利と判断。天皇の強大な権力をなくしたうえで、天皇制を存続させた。
今の国会の議論では、象徴天皇制を維持すべきだとの意見が大勢を占めているが、「国民主権憲法なのに、一条が天皇制の規定なのはいかがか」という指摘もある。
では、象徴天皇は「元首」なのか。憲法制定以来、ずっとある議論だ。元首は、「行政の長」「対外的に国家を代表する地位にある国家機関」を指すが、天皇はいずれにも該当しない。その一方で、外国の大使・公使の接受を行うなど、国際的には元首と同等の処遇を受けることが多い。
このため、憲法改正の議論になると、「元首」と明記して天皇の位置付けをはっきりさせるべきだ、という意見がしばしば出る。
先月、中曽根康弘元首相が会長を務めるシンクタンク世界平和研究所」が発表した憲法改正試案では、天皇を「日本国の元首であり、国民統合の象徴である」とした。
諸外国の例を見ると、スペイン憲法が「国王は国家元首であり、国の統一および永続性の象徴である」と、中曽根試案に似た表現になっている。