逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第23条> 『人間の尊厳』新たな課題

学問の自由は、これを保証する。

音読すると気づくが、この条文は「五・七・五」の俳句になっている。ちなみに、憲法には「五・七・五・七・七」の短歌もある。その条文の回で紹介するので、お楽しみに。
さて、二三条は、学問の自由を保障している。各国の憲法を読んでも、これを明記しているものは少ない。思想や表現の自由が認められていれば、当然認められる自由と理解できるからだ。
日本でも、旧憲法には学問の自由の規定はなかった。今の憲法が、あえて明記したのは、旧憲法時代、政府が特定の学説を公のものと定め、それに反する学説を排斥するなど、学問や研究活動の自由を妨げたことがあったからだ。
しかし、先端科学技術の研究が進んだ今、学問の自由をめぐる問題は少々複雑になってきた。遺伝子情報の解析、クローン技術などは、生命を操作することにもつながり、人間の尊厳を冒したり、健康に悪影響を与える可能性がある。
このため、生命倫理の観点から、一定の歯止めが必要との議論が生まれた。二〇〇〇年に制定されたヒトクローン技術等規制法は、その一例だ。
衆院憲法調査会では、医師でもある中山太郎会長が生命倫理に強いこだわりをもっていることもあり、学問の自由と生命倫理、人間の尊厳との関係を活発に議論してきた。「人間の尊厳について、憲法に何らかの方向性を示す必要がある」という意見がある一方、「個人の尊重を盛り込んだ一三条などに人間の尊厳原理を見いだすことができる」との消極論もある。
ドイツ憲法では、一条一項に「人間の尊厳は不可侵である」と明記されている。これは、ナチス独裁が人間の尊厳を踏みにじった歴史の反省からだ。