逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第25条> 危機に直面する『生存権

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない。

一項の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は、生存権と呼ばれる。この項は、GHQ案にはなく、衆院段階で修正追加された。とかく、「米国の押し付け」といわれる憲法だが、この項に限っていえば、まぎれもなく日本製なのだ。
二五条に基づく法律の代表格は生活保護法だ。ほかに、年金、医療、介護の各社会保障制度、さらには二〇〇二年に成立、施行されたホームレス自立支援法も、この条が根拠になっている。
しかし、少子高齢化が進む中、日本の社会保障制度は崩壊の危機に直面している。国民年金保険料を未納の若者も急増中だ。このままの状態が続くと、国民は「健康で文化的」な生活を続けることは難しくなる。
そんな状況を受け、自民党憲法調査会憲法改正プロジェクトチームが昨年六月にまとめた論点整理では、「社会連帯、共助の観点から、社会保障制度を支える義務・責務のような規定を置くべきである」と提案した。
民主党鳩山由紀夫元代表の試案では、三項を新設して「国は、快適な住居を保障するよう努めなければならない」とした。揺らぐ生存権を何とか守ろうとする“もがき”ともいえる。
既にこの連載でも紹介しているが、自民、公明、民主各党の改憲論議では、「環境権」を新たな人権として憲法に盛り込もうという考えが有力になっている。環境権も、二五条の「健康な生活を営む権利」から派生した権利と考えていい。
一九七二年、各国が地球環境の破壊防止の責任を負うとした「ストックホルム人間環境宣言」が採択されて以来、憲法に環境権を盛り込む国が急増中。憲法の環境権条項は、世界標準となりつつある。