逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第26条> 教育は権利であり義務

すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。

一一条から人権についての条文が続いてきたが、二六条で初めて「義務」が登場する。教育は受ける権利なのと同時に、子どもたちに受けさせる義務でもある。
今の憲法には権利についての規定は数多くあるが、「義務」という言葉が出てくるのは教育、勤労、納税の「三大義務」について触れた二六、二七、三〇条。それに、公務員らの憲法擁護義務をうたった九九条の四カ条だけだ。
このほか、二五条二項の「国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」なども義務規定といえるが、これらは国の義務であって、国民の義務ではない。
このため、自民党内の保守的な勢力は「義務を忘れて権利だけ主張していては、社会生活は成り立たない」と、義務も権利と同じようにきちんと書き込むべきだと主張している。
今の憲法で教育に関連する条項は、一九条の「思想・良心の自由」、二三条の「学問の自由」などがある。だが、保利耕輔元文相が「教育に関しての重要な事項は二六条」というように、この条文が日本の教育制度の根幹となっている。
二六条は、義務教育費国庫負担金、教育基本法改正という二つの論議との関連で注目を浴びている。総額二・五兆円の義務教育費国庫負担金は、昨年秋の三位一体改革論議での焦点となった。
全国知事会などの地方は、国庫負担金で賄われてきた分の財源を地方に移譲するよう要求。これに、文部科学省文教族議員が猛然と反対。文教族のドン・森喜朗前首相の「政治家として命を懸けて(廃止に)反対する」というセリフは記憶に新しい。
国庫負担金は、義務教育の無償を「実質的に担保する制度」(斉藤鉄夫公明党政調副会長)とも言えるだけに、「地方VS霞が関族議員」は憲法論争でもあったのだ。
教育基本法をめぐっては、憲法改正の時期と合わせるべきかどうかの問題が俎上(そじょう)に載ることが多い。教育基本法は二六条を根拠として制定された。その意味では、教育基本法憲法は表裏一体の関係だ。
しかし自民党は、まず教育基本法を改正し、これを弾みに憲法改正を実現する段取りを描く。
自民党は今国会でも、教育基本法改正案の提出を目指したが、結局、先送りせざるを得なかった。「愛国心」の表記で、公明党と折り合えなかったことが直接的な原因だ。
ただ、公明党が今国会提出に難色を示した背景には、前文を持ち、準憲法的な性格を持つ教育基本法を「憲法改正と連動して結論を出した方がいい」(神崎武法公明党代表)という筋論があった。
三位一体改革教育基本法改正は、今後も永田町の主要政策テーマとなるだけに、二六条とのかかわりも議論され続けることになる。