逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第27条> 勤労の権利厳しい現実

すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
児童は、これを酷使してはならない。

勤労の権利と義務を定めた条文。一つの条文の中で、権利と義務の両方を規定しているのは、教育について書いた二六条と、この条文だけだ。
二七条については、各党の改憲論議でも「現状のままでいい」という意見が大勢。中曽根試案や、鳩山由紀夫民主党元代表の試案も、ほぼ今の条文通りになっている。
ただ問題は、多くの国民が「勤労の権利」を味わえないでいることだ。リストラ、失業、過労死、サービス残業、セクハラ(性的嫌がらせ)…。憲法違反ではないか、ともいえる例が世の中にあふれている。
二七条に基づいて、職業安定法雇用保険法労働基準法男女雇用機会均等法など「勤労の権利」を守るための法律は多く作られているが、これで問題が解決されるとはとてもいえない。
総務省によると、今年一月の失業率は4・5%。多少改善の兆しはみられるが、まだまだ高い。政府も失業者対策に取り組んでいるのだが、二二条で職業選択の自由が保障されているため、政府が勝手に国民の職場を決めてしまうことはできない。
また、最近は働く意欲のない「若年無業者」の問題も深刻化している。働く訓練も教育も受けていない若者は「ニート」と呼ばれ、厚生労働省によると、五十二万人に上る。彼らの中には、勤労の義務を果たしているとはいえない若者も少なからずいるようだが、強制的に仕事をさせることはできない。
こう考えると、この条文は日本社会の実態とはずいぶんかけ離れている。改憲論議の前に、政府や国会には、少しでも実態を条文に合わせる努力をしてもらいたいものだ。