逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第28条> 労働者の権利曲がり角

勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

労働者の権利を具体的に書いた条文。短い一文の中に、労働者を守る三つの権利「労働基本権」が詰め込まれている。
労働者が、使用者と対等な立場で労働契約を結ぶために、労働組合結成の権利を認めたのが団結権。労組が、使用者と交渉する権利が団体交渉権。そして、公平な団体交渉を行うため、ストライキなどの争議を行うのを認めたのが団体行動権争議権)だ。
この三つの権利に基づいてつくられた労働組合法や労働関係調整法で、具体的な労使間のルールが定められている。
衆院憲法調査会などでは、「労働三権をすべて明記した憲法は諸外国をみても珍しい」と、この条文を絶賛する声が上がったこともある。
労働者の権利確立には、GHQが果たした役割が小さくない。戦前の日本は、低賃金、長時間労働が慢性化していた。GHQは、民主化の象徴として労組の育成を進めたのだ。
戦後の日本社会では、労働三権に加え、独特の終身雇用制や年功序列賃金などが雇用制度を補完。労働者は安定した環境の中で働き、日本の高度成長を支えた。
しかし、バブル崩壊後、多くの企業が能力給や年俸制を導入。フリーターも四百万人を超え、日本の雇用環境は劇的に変化している。これに伴い、労組の組織率は低下。二八条で保障された労組の活動は曲がり角を迎えている。
一方、公務員は労働者ではあるが、一五条で「全体の奉仕者」とうたわれているため、争議権は認められていない。公務員も他の労働者並みに労働基本権を拡大すべきだという議論もあるが、二八条に公務員の権利を書き加えようという意見はほとんど聞こえてこない。