逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第30条> 納税は義務か、権利か

国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

二六条の教育、二七条の勤労と並び、現憲法の「国民の三大義務」の一つ。三つの中では唯一、旧憲法時代から明記されていた義務規定だ。
国民の三大義務の中で、教育、勤労は義務であると同時に、権利とも規定されている。しかし、納税は権利規定がない。
今年二月に開かれた衆院憲法調査会では、民主党の大出彰氏が「義務規定としてではなく、より能動的・民主的に、納税者の権利として規定すべきだ」と主張した。
これまでの世界の歴史では、「義務」を理由に国から重税を課せられたうえ、国民のためにならない使い方をされる事態が繰り返されている。時代劇で、農民が収穫したコメを悪代官が奪い取っていくシーンを思い起こしてみると分かりやすい。
そういうことにならないように、納税者の権利を守ろうという運動は、国会よりも、むしろ商工団体や市民団体などで活発のようだ。
このほか、三〇条に関する議論では、主語の「国民」を問題視する意見がある。例えば、消費税は国民でない外国人にも一律でかかってくるし、法人税を払っている企業や団体も国際化が進んでいる。
もはや、納税の対象が「国民」というのは無理が出ている。中曽根試案はこの点に着目し、主語を「何人も」に改めた。
衆院憲法調査会では、「納税の義務を果たしている定住外国人には、政治に参加する権利を与えるべきだ」という意見が出た。外国人納税者の「権利」についての具体的な提案だが、まだ国会内で多数派にはなっていない。