逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第31条> 『罪刑法定主義』を規定

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない。

治安のよい社会をつくるのは、国の重要な役割。そのために国は犯罪を捜査して犯人を捕まえ、処罰する。だが、このような国の働きは為政者の利害に左右されやすく、必要以上に個人を苦しめることもある。そのため、憲法では、三一条から四〇条まで犯罪捜査の手続きや処罰についてのルールを定めている。
この中には、刑事訴訟法の条文と間違えるほど詳細で、具体的な規定もある。これは、国際的にみても非常に珍しい。戦前の特高警察などによる政治干渉、思想弾圧に対する反省の表れと言える。
三一条は、犯罪捜査手続きの大原則を掲げている。刑罰は法律によってのみ科せられるという考え方は、「罪刑法定主義」と呼ばれる。
国王の横暴を家臣が戒めたイギリスの「マグナカルタ」(一二一五年)に端を発し、フランス人権宣言(一七八九年)で確立されたと言われる。どのようにして強大な国家の力から、個人の人権を守るかという模索の中で生まれた鉄則だ。
この原則は、近代国家の二大柱である民主主義と自由主義の両面から説明できる。民主国家である以上、国民を縛る刑罰も、国民の代表である国会で決めるのが筋だ。国会の意思は、法律によって表現される。また、国民に自由を保障するためには、何が処罰されるべき犯罪なのかを前もって明示する必要がある。
これによって、法律を守りさえすれば個人の自由は保障され、罪を犯しても好き勝手な処罰を受けることもない。ただし、微罪でも逮捕される場合があることを考えれば、現場の運用にはグレーゾーンがあるようだ。