逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第32条> 『裁判請求権』を保障

何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。

この条以降は、逮捕から裁判、処罰にいたるまでの人権規定が続く。
三二条は、誰でも裁判を受ける権利、裁判を拒否されないことを保障した条文。この権利は「裁判請求権」といい、憲法が保障する基本的人権の一つだ。
さまざまな私生活でのトラブルは民事訴訟として、国や地方公共団体の仕事をめぐる争いは行政訴訟として、誰でも訴えを起こし、裁判を受けられる。
刑事事件で、裁判を受けることなく刑罰に科せられないのも、この条文が根拠になっている。
しかし、刑事事件では、一般国民は訴える権利(公訴権)を持たない。刑事訴訟法では、公訴権は検察官に限られている。その代わり、国民は犯罪被害を受けた場合などに、警察や検察に告訴・告発して、捜査を求めることができる。
裁判を受ける権利が保障されていても、訴訟社会といわれる米国などと比べると、一般国民が裁判請求権を使う機会は非常に少ない。裁判費用が高額なので、裁判を起こそうと思っても二の足を踏むケースが多いようだ。
訴えたくても訴えられない国民のために、「法律扶助制度」がある。日本弁護士連合会が設立した財団法人・法律扶助協会が、収入の少ない人の裁判費用を立て替えて裁判を受ける権利を保障する制度で、一九五二年から実施されている。
二〇〇〇年十月からは、国も補助金を出してこの制度を支援する仕組みができ、補助金額や支援件数も毎年増加傾向になっている。三二条の精神は、少しずつ浸透しつつあるようだ。
改憲議論の中で、この条文を大きく変えようという意見はないが、中曽根試案では「奪はれない」を「保障される」に書き換えている。