逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第35条> 『表現の自由』と対立も

何人も、その住居、書類および所持品について、侵入、捜索および押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所および押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
捜索または押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う。

事件が起きると、証拠集めや捜索などのため、捜査機関が強制的に住居の中に入ったり、証拠を押収することがある。その際、プライバシーや個人の生活を必要以上に侵さないように定めたのがこの条。国民のプライバシー、個人情報などに対する意識が敏感になっているだけに、重要さが増している条文といえる。
捜査機関が捜索や押収をするには、三三条で規定された逮捕時に伴うものを除けば、裁判官の令状が必要だ。
この条文の関係でしばしば問題となるのは、捜査機関が報道機関の取材資料を押収するケース。「迅速な捜査」と、二一条の「表現の自由」で保障される取材・報道の自由のどちらが優先されるかは、裁判でも争われてきた。
最高裁は一九八九年、捜査機関による取材ビデオテープの差し押さえ処分に対し、取り消しを求めた民放テレビ局の特別抗告を棄却した。テレビ局側は、ビデオが捜査目的に使われれば、将来の取材の自由が妨げられるなどと主張したが、最高裁は「取材の自由が適正迅速な捜査のため、ある程度の制約を受けることもやむを得ない」との判断を下した。
ただ、この判断は、情報源を明かさないことを前提とした報道機関と情報提供者の信頼が損なわれ、ひいては国民の知る権利に影響を与えることになりかねない。
こうした事態を避けるため、ドイツでは、刑事訴訟法で報道機関が証言を拒む権利を認めている。米国では、多くの州が「取材情報源秘匿法」を制定している。