逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第36条> 死刑制度『残虐』でない?

公務員による拷問および残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

この条文で注目したいのは、末尾の「絶対に禁ずる」という部分。「絶対に」という表現が出てくるのは今の憲法の中で、この一カ所だけだ。
拷問や残酷な刑を禁止する強い決意の表れが感じ取れるが、逆に「絶対に」のない禁止規定は「少しだけなら許されるのか」という疑問が生まれる。憲法全体の整合性を考えると、「絶対に」は不必要な文節なのかもしれない。
中曽根試案では、この点に留意して「絶対に」を削除。民主党鳩山由紀夫元代表の試案は、そのまま「絶対に」が残った。
さて、この条文は、警察官や検察官が被疑者や被告人に自白を迫るため、肉体的・生理的な苦痛を与えることを禁じた。このような規定がなかった旧憲法下で、拷問が横行していた経験を踏まえたものだ。
この条文に関して議論になるのは、死刑制度との関係。廃止論者は、死刑がこの条の定める「残虐な刑罰」に当たると指摘する。
火あぶり、はりつけ、さらし首などは、「残虐な刑罰」で違憲とみなすことができるだろう。しかし、今、日本で行われている絞首刑については一九四八年、最高裁が「直ちに残虐な刑罰に該当するとは考えられない」との判断を示している。
ただ、この判決には、「残虐かどうかの判断は国民感情によって定まる」との補充意見も付いた。将来、国民の意識が変われば、今の死刑制度そのものが違憲と判断されることもあり得ることになる。条文の解釈も、世論の動向次第で左右される可能性もあるのだ。