逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第41条> 国会は唯一の立法機関か

国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。

四一条からは、国会に関する規定だ。
憲法下では、帝国議会天皇立法権に対する協賛機関にしかすぎなかった。これに対し、現憲法は国会を主権者の国民を代表する国権の「最高機関」と権威付けた。その上で、国民の権利・義務を規定する法律をつくる権限を国会に独占させ、国会の議決でしか法律が決定されないという権限を与えている。
しかし、最高機関といっても、権力が一つに集中すると、戦前のように国民の権利が侵される恐れがある。そこで、フランスの思想家モンテスキューが「法の精神」で主張した三権分立の原則を採用。立法権は国会、行政権は内閣、司法権は裁判所がそれぞれ分担している。このあたりは、読者の皆さんも、学校で習った記憶が鮮明に残っているだろう。
ところで、国会は今、本当に「最高機関」にふさわしい役割を果たしているだろうか。
この条の後半にも書いてある通り、国会は「唯一の立法機関」のはずだ。ところが、実際は、国会よりも内閣が法案を提出する方が圧倒的に多い。
昨年一年間、国会に提出された法案のうち、国会議員提案のものは百十二件なのに対し、内閣提出は百四十七件。成立したものだけで比較すれば、国会議員提出は二十三件で、内閣提出は百四十四件。議員立法が中心で、法律に中心的な提案者の名前が付けられる米国との違いは歴然だ。
もちろん、審議して法案を成立させるのは国会の仕事だが、この数字を見る限りは内閣が事実上の立法府で、国会はその追認機関と言われかねない。
こうした現状を踏まえ、「僕たちはてんぷら屋なんだ」と自嘲(じちょう)気味に話す国会議員がいる。てんぷら屋は、「揚げる」のが仕事。国会議員の仕事も、他の人がつくった法案を「上げる」だけ、という意味だ。
議員がそういう意識だと、国民の方も国会議員が「自分たちの代表」という思いが薄くなる。最近の国政選挙での低投票率は、そんな国民意識を浮き彫りにしている。
とはいえ、国会議員も、立法府としての機能を強化しようという思いはある。自民党の新憲法起草委員会の議論では、法案提出できるのを議員だけにすべきだという意見も出た。しかし、この考えは多数意見にはならず、最終的には内閣も提出できる現行制度通りで落ち着いた。
中曽根試案は、国会の位置付けの見直しを提案している。国民主権の観点から、最高機関は国会でなく国民であるとして、「最高機関」の表現を削除。さらに、首相が提出した法案を国民投票に付託した場合、国会は投票結果に拘束されるという規定を設け、「唯一の立法機関」との表現もなくした。結局、中曽根試案は「立法権は国会に属する」という、いたってシンプルな表現となった。
今の国会の現状をみると、中曽根試案の表現の方がふさわしいような気がしないでもないが、当事者の国会議員の中で、これに賛同する意見は必ずしも多くない。