逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第59条> 法案議決に『衆院の優越』

法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

国会の議決を必要とする議案は、衆参両院で可決されて成立するが、両院の議決が食い違うこともある。その場合、憲法では一定の条件を付けて、衆院の議決を優先させる。五九条は、法案についての「衆院の優越性」を規定している。
予算や条約、首相指名といった法案よりも重要度の高い議案で、衆参の判断が割れた際の規定は別にある。六〇条以下に書いてあり、その回で説明することにしたい。
法案の議決が衆参で異なった時、両院の意見を調整する両院協議会が開かれることが多い。同協議会は、衆参各十人ずつの委員で構成され、出席委員の三分の二以上の多数決で成案を作る。成案がまとまらないか、成案がどちらかの院で拒否された場合、法案は衆院の出席議員三分の二以上の再可決で成立する。
衆院は任期が四年と短く、解散もある。参院よりも民意を反映しやすいとの判断が、衆院優越の根拠とされる。
与党は通常、衆院過半数は抑えているが、三分の二以上を確保していることは珍しい。このため、重要法案が参院で否決されると、政局が混乱する。一九九四年の細川内閣当時、政治改革関連法をめぐる攻防が参院否決で緊迫、与野党トップ会談の末に修正成立した例が記憶に新しい。
今国会後半の焦点・郵政民営化関連法案も、似た展開にならないとも限らない。同法案は、参院では与党の十八人が反対に回れば否決される。衆院で「三分の二」をクリアして再可決するのは事実上不可能なだけに、衆参の調整が失敗に終われば、衆院解散・総選挙必至の展開に陥るだろう。
国会や自民党などの憲法改正論議では、再議決要件を「二分の一」に緩和する案が検討された。しかし、参院には「衆院の優越強化につながる」との反発が根強い。結局、衆院憲法調査会の最終報告書では、再議決要件の緩和は多数意見とはならなかった。