逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第60条> 予算で鮮明衆院の優位

予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
予算について、参議院衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、または参議院が、衆議院の可決した予第を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

法案や条約は、衆参どちらに先に提出するかは自由だが、予算案だけはこの条の規定で、衆院にまず提出される。しかも、衆院を通過した予算が参院で否決され、両院協議会でも意見が一致しなければ、衆院側の議決に沿って予算は成立する。
六〇条は、衆院の優越が最も明確に規定されている条文といえる。
参院で否決された予算案が、衆院の議決優先によって成立したのは、戦後十回ある。
初のケースは、一九九〇年に成立した八九年度補正予算。八九年七月の参院選自民党過半数割れし、衆院自民党が多数、参院は野党が多数という「ねじれ」が背景にあった。
戦前の帝国議会時代から数えると、一四年に同年度予算をめぐって衆院貴族院両院協議会が開かれて以来、七十六年ぶりの事件だった。
野党に参院過半数を握られた海部、宮沢両内閣は、参院対策に苦しんだ。両政権の期間中、衆院を通過した本予算、補正予算の計十四件中、実に九件が否決された。この数年間が憲政史上、最も参院が注目されていた時期かもしれない。
非自民連立政権や自社さ連立政権を挟み、六年ぶりに参院が予算を否決したのが、小渕内閣の九九年度予算。自民党自由党と連立を組んでいたが、それでも参院では過半数に達していなかった。
当時の故小渕恵三首相は公明党を取り込み、参院の約六割を占める自自公連立政権を樹立。現在は自公連立として衆参で過半数を保っているため、予算が参院で否決されることはなくなった。
衆院通過後、三十日たったことで自然成立したのは二回。最後の自然成立は竹下内閣当時、リクルート事件をめぐって審議が大荒れになった八九年度予算だ。賛否どちらの判断も下さないまま衆院の議決が通れば参院の存在意義にもかかわるため、参院が三十日以内に本会議で採決するのが通常のケースになっている。