逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第65条> 官僚支配 打破できるか

行政権は、内閣に属する。

この条から、行政権について規定する「内閣」の章に入る。
衆参両院の憲法調査会などでは、行政権の主体を「内閣」から「首相」に変えるべきかどうかを議論してきた。「内閣」を「首相」に置き換えることで、内閣の「首長」(六六条)である首相の地位や権限を強化・明確化するのが狙いだ。
自民党は三月、新憲法起草委員会・内閣小委員会の論点整理で、(1)衆院の解散権(2)自衛隊の指揮権(3)行政各部への指揮監督権−の三つは首相個人、その他は内閣に属するという具体案を出した。
また、首相主導型内閣を目指す民主党は、党憲法調査会の中間報告で「執行権(行政を指揮監督する権限という意)は首相に属すると規定するのが当然」としている。
各党が、首相の権限強化を求める背景には、「国会議員である首相が各省庁を指揮監督すべきなのに、実質的には霞が関が内閣を構成している」(民主党菅直人前代表)という、官僚支配に対する政治の危機感がある。
内閣の決定は、閣議での全会一致が原則。しかも、閣議にかける議案は、各省庁の事務方のトップによる事務次官会議で事前に審議するという「慣行」がある。これでは、行政権に政治が入り込む余地はない。
こうした弊害は、行政権の主体を首相にすることで、ある程度是正できるかもしれない。これに対し、首相の権限強化による「独裁」を警戒する意見も少なくない。共産党などは「国会として行政府の暴走に歯止めがかけにくくなり、危険」としている。
実は、自民党内で小泉首相に批判的な議員にも、首相の権限強化に慎重な意見が多い。党内の根強い反対を押し切るように郵政民営化を進める首相を目の当たりにして「首相は、今のままでも十分強い。これ以上権限を与えると、大変なことになる」と思っているためらしい。